シャウには抗えない

神栖 蒼華

文字の大きさ
上 下
37 / 67
第1章

37 守り人の一族 Ⅱ

しおりを挟む

鬱蒼うっそうと木々が覆い繁り迷路のように入りくんだ獣道を抜けると、板壁の塀が見えてきた。

その塀の一角に小さな扉が付いている。
その扉をマークル叔父さんがノックすると、しばらくして扉が開いた。

身体を屈めて小さな扉を通り抜けると、森の中とは思えない光景が広がっていた。
目の前には小さな町があった。
いろいろな店があって、その前には人もたくさんいて楽しそうにしていた。

ただ、僕たちが入ってきたのを目にした途端、戸惑ったような目を向けてきた。
そんな視線の中、母さんを見て驚いている人もいた。

そんな視線に晒され、僕たちも戸惑いを感じていた。

「まずは父さんに会いに行くだろう?」
「そうね」

マークル叔父さんの問いかけに母さんは頷いていた。
マークル叔父さんの案内で僕たちは家々が建ち並ぶ道を抜けて一際大きな家の前に来た。
玄関の前でザイは用があるとかで帰っていった。
玄関の扉を開けてマークル叔父さんが入っていく。

「ただいま戻りました」

マークル叔父さんの後に着いて玄関の扉を抜けると、広々とした部屋が広がっていた。
中には2人のご老人がいて、マークル叔父さんの声に反応したのはお婆ちゃんの方だった。

「まあ、ミイシア?」
「母さん! ただいま」

母さんを見て嬉しそうに声をあげたお婆ちゃんに母さんが駆けよって抱きついた。

部屋の中にいたもう一人のお爺ちゃんは、無表情なままこちらを見ていた。
そのお爺ちゃんはマークル叔父さんから何かを耳打ちされて無表情の顔がますます険しくなった。

「なぜ連れてきた」

無表情でにこりとも笑わないお爺ちゃんはルティスを睨みつけていた。

「それはこれから説明するわ」

母さんはお婆ちゃんから離れて、お爺ちゃんの前に立つ。

「それよりも、まずは紹介させて」

お爺ちゃんの了承を聞くこともなく母さんは話し始めた。

「父さん、母さん、娘のシャウよ」

母さんの言葉に、さっきから怒っているお爺ちゃんが本当に僕のお祖父ちゃんなんだと分かった。

「まあまあ、そうだと思っていたけれど、やっぱり孫娘だったのね。ミイシアの若い頃に似ているわ」

そう言ってニコニコと優しく嬉しそうに話している女性がやっぱり僕のお祖母ちゃんだった。

「シャウです。こんにちは」

お祖父ちゃんお祖母ちゃんになんて言ったらいいか分からなくて、普通の挨拶しか出来なかった。
僕が挨拶し終わると、母さんは紹介を続けた。

「そして、シャウの後ろにいるのがシャウの護衛の獅子族のラオスとイラザ」

ラオスとイラザが順番に頭を下げる。
最後に母さんはルティスを見てニコリと微笑んだ。

「こちらの方はユリベルティス殿下よ」
「アーガンサージ国第二王子のユリベルティスと申します。お見知りおき下さい」

ルティスが目上の人に対するように低姿勢で挨拶した。
それにお祖父ちゃんは一瞬目を見開いた。
お祖母ちゃんは「まあ」と口を開けて驚いていた。

そして、母さんは僕たちを見るとお祖父ちゃんお祖母ちゃんを紹介してくれた。

「ユリベルティス殿下、みんな、このムスッとしてニコリとも笑わない人が私の父親で隣にいるのが私の母親よ。そして父はこの村の族長をしているわ」

母さんの言葉にみんな驚いた。
まずは母さんも家族に会いたいからここに来たのかと思ったら、村のおさの所にちゃんと来ていたんだ。

この後、村の長の所に挨拶に行かなきゃいけないと緊張していたのに、少し気が抜けてしまった。
いつの間にか挨拶が終わっていたことにホッとした。

「マジルダ殿、これからは俺が代わりに説明させて下さい」

父さんがお祖父ちゃんに向かって話しかけた。

「最近街の方では魔物による被害が増加しています。しかも、魔物が進化したと思えるくらい強く素早く倒しにくく変質している。このままではいずれ死者が出る可能性が出てきた。その為、マジルダ殿との約束を違えてまで話を聞きにきました」

父さんが一度お祖父ちゃんに向かって頭を下げる。

「王族を、権力者を連れてきてしまい申し訳ありません。だけれど、今の国王陛下もここに居るユリベルティス殿下もあなた達に無体なことなど絶対にしないと言い切れる。だからこの者だけは信じて欲しい」

父さんの覚悟が垣間見えた。
全ての責任を負うつもりなんだ。

それが通じたのか、お祖父ちゃんは小さく息を吐くと顎をしゃくった。
父さんに着いてこいと言ってるみたいだった。
お祖父ちゃんが離れていくのを追いかけて父さんが席を立つ。そして母さんも着いていった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴
恋愛
 私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。  もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。  ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。 番外編 謎の少女強襲編  彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。  私が成した事への清算に行きましょう。 炎国への旅路編  望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。  え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー! *本編は完結済みです。 *誤字脱字は程々にあります。 *なろう様にも投稿させていただいております。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

社畜魔法使いは獣人彼氏に甘やかされる

山吹花月
恋愛
仕事の後は獣人彼氏といちゃ甘スキンシップ。 我慢できなくなった獣人彼氏にとろとろに甘やかされる。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

黒豹の騎士団長様に美味しく食べられました

Adria
恋愛
子供の時に傷を負った獣人であるリグニスを助けてから、彼は事あるごとにクリスティアーナに会いにきた。だが、人の姿の時は会ってくれない。 そのことに不満を感じ、ついにクリスティアーナは別れを切り出した。すると、豹のままの彼に押し倒されて―― イラスト:日室千種様(@ChiguHimu)

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】女子大生は犯されたい

asami
恋愛
女子大生たちが堕ちていく物語

処理中です...