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第1章
37 守り人の一族 Ⅱ
しおりを挟む鬱蒼と木々が覆い繁り迷路のように入りくんだ獣道を抜けると、板壁の塀が見えてきた。
その塀の一角に小さな扉が付いている。
その扉をマークル叔父さんがノックすると、しばらくして扉が開いた。
身体を屈めて小さな扉を通り抜けると、森の中とは思えない光景が広がっていた。
目の前には小さな町があった。
いろいろな店があって、その前には人もたくさんいて楽しそうにしていた。
ただ、僕たちが入ってきたのを目にした途端、戸惑ったような目を向けてきた。
そんな視線の中、母さんを見て驚いている人もいた。
そんな視線に晒され、僕たちも戸惑いを感じていた。
「まずは父さんに会いに行くだろう?」
「そうね」
マークル叔父さんの問いかけに母さんは頷いていた。
マークル叔父さんの案内で僕たちは家々が建ち並ぶ道を抜けて一際大きな家の前に来た。
玄関の前でザイは用があるとかで帰っていった。
玄関の扉を開けてマークル叔父さんが入っていく。
「ただいま戻りました」
マークル叔父さんの後に着いて玄関の扉を抜けると、広々とした部屋が広がっていた。
中には2人のご老人がいて、マークル叔父さんの声に反応したのはお婆ちゃんの方だった。
「まあ、ミイシア?」
「母さん! ただいま」
母さんを見て嬉しそうに声をあげたお婆ちゃんに母さんが駆けよって抱きついた。
部屋の中にいたもう一人のお爺ちゃんは、無表情なままこちらを見ていた。
そのお爺ちゃんはマークル叔父さんから何かを耳打ちされて無表情の顔がますます険しくなった。
「なぜ連れてきた」
無表情でにこりとも笑わないお爺ちゃんはルティスを睨みつけていた。
「それはこれから説明するわ」
母さんはお婆ちゃんから離れて、お爺ちゃんの前に立つ。
「それよりも、まずは紹介させて」
お爺ちゃんの了承を聞くこともなく母さんは話し始めた。
「父さん、母さん、娘のシャウよ」
母さんの言葉に、さっきから怒っているお爺ちゃんが本当に僕のお祖父ちゃんなんだと分かった。
「まあまあ、そうだと思っていたけれど、やっぱり孫娘だったのね。ミイシアの若い頃に似ているわ」
そう言ってニコニコと優しく嬉しそうに話している女性がやっぱり僕のお祖母ちゃんだった。
「シャウです。こんにちは」
お祖父ちゃんお祖母ちゃんになんて言ったらいいか分からなくて、普通の挨拶しか出来なかった。
僕が挨拶し終わると、母さんは紹介を続けた。
「そして、シャウの後ろにいるのがシャウの護衛の獅子族のラオスとイラザ」
ラオスとイラザが順番に頭を下げる。
最後に母さんはルティスを見てニコリと微笑んだ。
「こちらの方はユリベルティス殿下よ」
「アーガンサージ国第二王子のユリベルティスと申します。お見知りおき下さい」
ルティスが目上の人に対するように低姿勢で挨拶した。
それにお祖父ちゃんは一瞬目を見開いた。
お祖母ちゃんは「まあ」と口を開けて驚いていた。
そして、母さんは僕たちを見るとお祖父ちゃんお祖母ちゃんを紹介してくれた。
「ユリベルティス殿下、みんな、このムスッとしてニコリとも笑わない人が私の父親で隣にいるのが私の母親よ。そして父はこの村の族長をしているわ」
母さんの言葉にみんな驚いた。
まずは母さんも家族に会いたいからここに来たのかと思ったら、村の長の所にちゃんと来ていたんだ。
この後、村の長の所に挨拶に行かなきゃいけないと緊張していたのに、少し気が抜けてしまった。
いつの間にか挨拶が終わっていたことにホッとした。
「マジルダ殿、これからは俺が代わりに説明させて下さい」
父さんがお祖父ちゃんに向かって話しかけた。
「最近街の方では魔物による被害が増加しています。しかも、魔物が進化したと思えるくらい強く素早く倒しにくく変質している。このままではいずれ死者が出る可能性が出てきた。その為、マジルダ殿との約束を違えてまで話を聞きにきました」
父さんが一度お祖父ちゃんに向かって頭を下げる。
「王族を、権力者を連れてきてしまい申し訳ありません。だけれど、今の国王陛下もここに居るユリベルティス殿下もあなた達に無体なことなど絶対にしないと言い切れる。だからこの者だけは信じて欲しい」
父さんの覚悟が垣間見えた。
全ての責任を負うつもりなんだ。
それが通じたのか、お祖父ちゃんは小さく息を吐くと顎をしゃくった。
父さんに着いてこいと言ってるみたいだった。
お祖父ちゃんが離れていくのを追いかけて父さんが席を立つ。そして母さんも着いていった。
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