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第1章
36 守り人の一族 Ⅰ
しおりを挟む母の一族の所へ行く日。
ルティスが待ち合わせ場所に立っていた。
父さんを見ると困り果てたように首を振っていた。
そして、僕を手招きする。
父さんに近寄ると、抱き上げられ耳を近づけて囁かれた。
『調査と言った手前、断れなかった。ただし、融通の利きそうなユリベルティス殿下だけの同行で抑えられた。シャウ、呪いを触れるだけで治療できることはユリベルティス殿下に知られないように気をつけること、いいな?』
『わかった』
内緒話が終わると、ルティスに近寄り挨拶を交わす。
「おはよう、ルティス」
「おはようございます、シャウ」
今日も人を惹きつけて惑わすような蠱惑的な笑顔を浮かべていた。
そして今日の出で立ちはいつもの王子様という感じではなく、旅支度のように簡素で実用的な服装だった。
そのまま父さんを先頭に父さんの隣に母さんが並び、次にルティス、その後ろにシャウと両脇にラオスとイラザという順で並び街を出発する。
しばらく無言で僕たちは歩き続ける。
森の中に入って人の気配がなくなった頃に、父さんがルティスに簡単な説明をした。
──これから向かう先は森の中に隠れ住んでいる人達がいる村であること。
──その為、外部から来る者を拒む傾向があること。
──そして、権力者を毛嫌いしていること。
──その為、ユリベルティス殿下の事を伝えるのは状況に応じて父さんが判断すること。
──そして、それを納得して受け入れてもらえなければ連れて行けないということ。
──最後に、そこで見聞きしたことは陛下以外には他言しないこと。
父さんの要求にルティスは真剣に聞き、思案すると了承していた。
とりあえず、どうにかなりそうだと一安心した。
ルティスだからこそなのかもしれないけれど……。
そんな話をしながらも、いつ魔物が現れてもいいように警戒しながら歩き続ける。
今日の森は異様な程、魔物の気配を感じなかった。
必ず一体か二体くらいは出会うのが最近の普通になっていたので少し拍子抜けだった。
それでも周囲への警戒を怠らないように進んでいくと、少し離れたところで人の気配がした。
注意深く近寄っていくと、茂みの中に手を差し入れて何かをしている人が見えた。
こんな森の奥深くに普通の人がいるとは思わなかったので、誰だろうと警戒心が高まる。
警戒して近づいた僕たちに気づいたのか、振り返った男の人は母さんを見て驚いた顔をした。
「姉さん?」
「マークル」
母さんも驚いていた。
「姉さん、老けたね」
「それが久しぶりにあった姉に言う言葉?」
「はは、そうだね」
言葉から母さんの弟だと分かったけれど、2人で盛り上がっていて警戒していた僕たちはどうするべきなのか顔を見合わせた。
「お父さん?」
どうしようか困っていると、後ろから女の子の声が聞こえてきた。
その女の子の声に反応したのは叔父さんだった。
「ミスリー」
その女の子は叔父さんに近寄ってくると、僕たちを少し警戒して見回した。
「……どちら様?」
その言葉に母さんと叔父さんが思い出したように僕たちを見た。
「ごめんなさいね」
「失礼しました」
母さんと叔父さんは謝ると、母さんは僕たちを自己紹介していく。
「マークル、ガルアは覚えているでしょう?」
「ええ」
「で、この子が娘のシャウ。隣にいるのがシャウの護衛のラオスとイラザ」
母さんの言葉に順番に頭を下げていく。
「こちらがユリベルティス殿下よ」
母さんは言いづらそうに最後にルティスを紹介した。
母さんの言葉にルティスは頭を下げるだけの挨拶をした。
ルティスは約束を守ってくれているみたいで、一番最後の紹介にも何も言わなかった。
「殿下……」
叔父さんは母さんの言葉に衝撃を受けた顔をしたあと、眉間にしわを寄せ難しい顔をしていた。
その顔からやはり王族が来たことに対する拒絶の意思を感じる。
叔父さんは気持ちを切り替えるように笑顔を見せると、先ほどの女の子を呼び寄せた。
「私はミイシア姉さんの弟のマークルと申します。そしてこの子が娘のミスリーです」
「ミスリーです。宜しくお願いします」
ミスリーと呼ばれた子が僕を見てニコッと笑った。
僕は嬉しくなって笑い返した。
「よろしく、ミスリー」
「宜しくね、シャウ」
ミスリーも笑い返してくれた。
僕たちがニコニコと笑い合っていると、マークル叔父さんがミスリーに話しかけた。
「ザイは一緒じゃなかったのか?」
「いるよ?」
「どこに」
「そこに」
ずっと気配を感じていた辺りを指で示していた。
そして、ミスリーの声に木の陰に隠れていたザイと呼ばれた男の人、ラオスやイラザと同じくらいの年の人が姿を現した。
「ザイ、こちらに来なさい」
その言葉にザイはミスリーの隣に並ぶ。
「この子はザイと言います。ミスリーの幼馴染みで許嫁でもあります」
ザイは僕たちに頭を下げた。
それを見たミスリーがザイの腕を引っ張る。
「もうー、皆さん、すみません。ザイは口下手なだけなんです。ザイのこともよろしくお願いします」
ミスリーが代わりに頭を下げていて、それを見たザイも頭を下げた。
これだけで、ザイがミスリーに頭が上がらないのが分かってしまった。
全員の自己紹介が終わったので、マークル叔父さんが場所の移動を申し出てきた。
「立ち話も危険ですから、まずは村に戻りましょう」
「そうね。それがいいわ」
母さんも同意したので、マークル叔父さんに先導されて歩き出す。
僕たちは周りの警戒を怠らないようにしてついて行った。
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