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第1章
3 父さんは千里眼?
しおりを挟む「では、そろそろ家に帰りましょうか」
イラザはサッと立ち上がると、シャウに手を差し伸べた。
イラザの手を掴み、立ち上がろうとしたところ、足に力が入らずまた座り込んでしまった。
「えっ?」
自分の体のことなのに、どうしてそうなったのか分からず混乱していると
イラザはクスクス笑いながら、隣に屈んだ。
「…そのままでいてくださいね」
一度手を離すと、背中と膝下に腕が差し込まれ、イラザに横抱きにされた。
「イラザ ?!」
「シィー、声が大きいですよ」
「でも…」
「恥ずかしいのは分かりますが、歩けないのですから仕方ないでしょう?」
「でも…このカッコは」
初めての横抱きに、自分の顔が徐々に紅くなっていくのがわかる。
横抱きは好きな男性にしてもらうことだと母さんが言ってた言葉が頭の中を巡る。
イラザはまだ楽しげにクスクス笑いながら言葉を続けた。
「そんなに恥ずかしいなら目を閉じてればわかりませんよ。そうすれば、見えないでしょう?」
(そうか、目を瞑れば恥ずかしくなくなる?)
うん、と頷いてから目を閉じイラザに体を預けると、イラザはゆっくりと歩き出した。
シャウはゆらゆら揺れるリズムにいつの間にか眠りに落ちていた。
***
『シャウ』
呼ばれた声に目が覚めた。
目を開けると、イラザと目が合い、そういえばイラザに横抱きされていたのだと思い出した。
「よく眠れたましたか?」
「うん、ごめんね。寝ちゃって、重かったでしょ」
「全然重くないですよ。あと少しで家に着きますよ」
「えっ! もう歩けるよ。イラザ下ろして」
森から家まで結構距離があるのに、イラザに横抱きされたままグウスカ寝ていたなんて、申し分けなさすぎる。下ろしてもらおうと、体を捻ってもイラザの腕はびくともしない。
イラザは腕の中で暴れ出したシャウの体を押さえ込みながら、
「ダメです」
有無を言わせない低い声で言われ、ビクッと反射的に体が震える。
叱られるときの声の低さに似ていて習慣で震える体は情けないが、逆らってはダメなときはダメなのは自分の体が覚えている。
「……いい加減、俺を無視するのはやめろ !!」
怒り心頭のラオスの声がイラザの後ろから聞こえてきた。
イラザの体で完全に死角だったから気付かなかったが、そう言われれば僕の名前を呼んだ声はラオスの声だった。
「何ですか」
ラオスに視線も向けずに応えるイラザの声は、機嫌が悪い時ように低い声になっていた。
「お前に用はない、俺はシャウに話しかけてるんだ」
ラオスの声もイラザと同じように苛ついた声になっていた。
「シャウは今疲れているので、誰とも話は出来ません」
僕が話し出す前に、イラザが言葉を返していて、僕は口を挟むタイミングが掴めない。
「だから、お前に聞いてないって言ってるだろっ! それよりも、シャウ、怪我したのか?」
慌てて覗き込んでくるラオスを避けるように、イラザが体を逸らしつつ家に向かって歩き続ける。
そんなイラザの態度を睨みつけながらも、ラオスはイラザの前に回り込んでは僕を覗き込み、僕の方に手を伸ばしてくる。
そんなラオスに我慢がならなかったのか、ラオスに対して怒鳴りつけるような言葉を投げつけた。
「見るな! 触るな!」
「は? 何でお前にそんなこと言われなきゃいけないんだ」
「うるさい! とにかく近づくな」
見上げる視線の先でラオスとイラザの言い合いが続き、それに伴って振られる体に悪酔いしてきて、二人を止めたくても出来なくなった。
「お前達は人の家の前で何をしているんだ !!」
体にビリビリ響く声に振り向くと、父さんが家の扉から睨みつけていた。
「「すみません !!」」
父さんの姿を確認すると、二人とも顔を強張らせ、背筋を伸ばし、体を直角にして謝った。
「わぁ ?!」
当然、イラザの腕の中にいたシャウもイラザにしっかりと抱きしめられているとはいえ、突然の動きに変な声が飛び出た。心臓のドキドキが止まらない。
その様子を見ていた父さんは
「とりあえずシャウをよこせ」
と、イラザに声をかける。言われたイラザは父さんに近寄り、僕を父さんの方に近づけてくれた。
僕は父さんの首に腕を回すと、父さんは尻の下に腕を回して右腕に座らせてくれた。
(やっぱり父さんの腕は安心できるな)
父さんの頬に頬をすり寄せていると
「怪我したのか?」
心配そうに聞いてきたので
「大丈夫。ちょっと足に力が入らなかったからイラザに運んでもらっただけ。まあ、さっきはちょっと酔いそうになってたけどね」
「そうか」
僕の額にちゅっとキスすると、父さんはこちらの様子を窺っている二人を見て、
「ふーん、なるほどな」
にやりと笑った。
父さんの言葉に、二人はビクッとして視線を逸らしていた。
「父さん?」
「シャウには後で魔物について聞くからな」
「っ…はい」
「とりあえず先に家に入ってな」
僕を下ろすと、家に入るように背中を押される。
「俺はちょっと二人と話があるからな。母さんに伝えておいてくれ」
僕に向けてウインクしてくる。父さんはウインクしてもカッコいいからいいんだけどさ。たまに砂を吐きたくなるよね。
「ついに自覚したわけだ!」
「「………」」
「何があったか聞かせてもらおうか?俺に嘘は通じないのはわかっているだろう?」
家に入って扉が閉まるまでに聞こえてきたのはここまでだった。
二人の話を聞き終わった後は、僕の番だと思うと恐くてもう涙が出そうだった。
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