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6 初めまして? 三人目の候補者様

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 翌朝、フィーリアが朝食を食べようとしていたところに、お兄が訪れた。

「フィーリア、おはよう」
「おはよう、お兄」

 昨夜の疲れもなく元気そうな様子にフィーリアはほっとした。昨夜は少し休んだあと帰っていったのだが、その後ろ姿が少し落ち込んでいたように見えて、少し心配していたのだ。
 何か用事か、それともまた食事を一緒に食べる為に来たのかと問うと、お兄は挨拶に来ただけだと言って、すぐに仕事へと向かって行ってしまった。
 わざわざそれだけの為だけに来たなんてびっくりだよ、お兄。
 幼子扱いしてっていつもならむくれるところだけど、寂しがっていると思って顔を見せに来た心配性のお兄に苦笑するしかなかった。
 家族の元を離れたのは初めてだけれど、そこまで子供ではないのだから大丈夫なのにね。

 朝食を食べ終え、お茶を飲んでひと息つく。
 今日の予定をどうしようか、ラマに確認しようとしていたところに、突然扉が開いて誰かが入ってきた。その人物を確認する前に突然抱きつかれた。

「フィー!」
「きゃっ」

 驚いて小さな悲鳴をもらしたフィーリアは耳に届いたその声に聞き覚えがあって、強張った身体をどうにかひねって顔を確認する。そこには見覚えのありすぎる人物がいた。

「──クトラ?!」

 フィーリアの驚いた顔に満足したのか、クトラはフフフンと笑っていた。

「どうしてここに?」
「決まってるでしょ?」

 決まっている?
 この状況でそう返ってくるということは……

「えっ? クトラも妃候補なの?」

 驚きのあまり、大きな声を出してしまったが、でも、よく考えたら当然なのかもしれない。
 クトラのお父様は国の中でも随一の領地を保持していて、林業と鉱山からの収益で国一番の大富豪の名を欲しいままにしていた。そんな重要な位置にいる豪主の一人娘なのだから、妃候補に選ばれるのも当然なのかもしれない。
 けれど、クトラはまだ結婚したくないって言ってたはずなのに。

「クトラの家なら選ばれてもおかしくないけど。クトラ、まだ結婚したくないって言ってたよね?」
「まあね」
「それなのにどうして?」
「ちょっとね」
「ちょっと?」
「そう、ちょっと。どうしても来たかったから」
「そうなの?」
「そう、そう! それよりもどう? ダウールに会ったんでしょ?」
「うん」
「それだけ?」
「元気そうだったよ」
「そ・れ・だ・け?」

 クトラの橙色の瞳がキラキラと輝き、フィーリアの反応を面白がっていた。
 たまにクトラはこういう瞳をするときがあるんだけれど。
 うーん? 何か面白いこと、今の会話であったかな?
 とりあえず、よくわからないから、そのまま答える。

「それだけだよ?」
「はあー、前途多難」

 まじかーと言って、両手を上げて大袈裟に天を仰いでみせた。

「クトラ?」
「なんでもないよー」

 ふうと息を吐くと、クトラは改めてフィーリアと向き直った。その瞳には何かを探るような、問うような意思を感じた。

「それよりもさ、他の妃候補者に会った?」
「会ったよ」
「どうだった?」
「クトラも気になるの?」
「わたしも、ってどういうこと?」
「うん? 昨日お兄も気になる奴いたかって聞いてきたから」

 フィーリアの言葉を聞いて、何故かクトラは頭を抱えた。
「不憫なやつ」
 その後続けられた言葉は、小さすぎて聞き取れなかった。

「なに?」
「いや、そういう意味で言ったんじゃないと思うけど、今はいいや」
「えっ? うん?」
「それでどうだったの?」
「二人ともいい人だったよ」
「二人?」
「ニルン様とウルミス様」
「なるほど。あと一人とは会ってないのか」

 クトラの言葉に、妃候補者の人数がやっとわかった。

「妃候補者は五人なの?」

 フィーリアの言葉に、まさかと驚きの表情を浮かべた。

「……人数も知らなかったの?」
「えへへ」
「笑ってごまかさない」

 クトラはまたもや深いため息をついて、「憐れ……」と呟く。
 今の呟きは聞きとることができたけれど、何に対して「憐れ」なのだろうか。

「……それで? その二人のことはどう思ったの?」

 何故か疲れたように肩を落とし、クトラは会話を続けた。

「ニルン様は大人っぽい上品な美人さんで、純愛物語を読むんだって。同じ趣味の人だった!」
「はいはい。それで、ウルミス様は?」
「ウルミス様はとても奥ゆかしい女性で、なんかね、ヨシヨシしたくなった。守ってあげたいってああいう人のことをいうんだなって感じ」
「なるほどねー」
「クトラは会ったの?」
「これからの予定だよ」
「そうなんだ。楽しみだね」
「……そうだねー」

 やはり若干疲れた様子を見せるクトラは、この話はもうお終いとでもいうように、話題を変えて話し始めた。
 そのあとはいつものように話が弾み、一日があっという間に終わってしまった。



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