4 / 6
ごはん
しおりを挟む「何これ美味しい。」
目の前に広がる料理にフィリスは初めは抵抗していた。
何しろ鞄から取り出した怪しい物である。
白い米と言われる野菜など食べたこともないしイワナと言われた魚も見たことない。
しかし何より箸休めだ、と出された透明な袋から出された等間隔に切り揃えられた黄色い野菜など知らない。見た事すらない物だった。
噛むたびに甘味が増す米に程よい塩加減の淡白な白身の魚。
独特な食感で程よい塩分と後から来る甘み、これがコメと言われる野菜とよく合う沢庵と呼ばれる漬物。
はしたなくもガツガツと食べ、お代わりまでしてしまった。
満足したお腹を抱えて食後のお茶だと出された緑色のお茶は何処かほっとする味で独特な渋味が綺麗に口の中を洗い流して行く。
「お腹いっぱいぃ…」
「くぅん…。」
フィリスも子狐も膨れたお腹をさすりながら満足気な息を吐く。
俵はそれを横目に使った食器類を川で洗いながら鼻歌なんて歌っている。
それを見ながらフィリスは何故これだけ無防備な男を警戒していたのだろうかと思いながら自前の木製カップに注がれたお茶を啜る。
いくら危険な野生動物が少ないとはいえ見た感じ着の身着のまま、鞄一つで森に来るだろうか、いや、収納魔法とか使えるなら話は別だろうが、それにしても武器の類一つすら持っていないのである。
「(ナイフすら持ってないなんて…)」
先程の料理も刃物の類を一切使わず、食べる時も変な棒二本で器用に食べていた。
余りにも浮世離れしているというか、なんというか危機感を持って欲しい。
これでは警戒している自分が馬鹿みたいではないか。
自分なら今日初めて会った武器を持つ人物相手に丸腰など考えられない、最低限ナイフぐらいは手元に無いと落ち着かないのだ。
目の前にいる男は呑気に鼻歌を歌いながら川で洗い物をしている。
ふと、悪戯心が騒いだのかフィリスは少し驚かしてやろうか、と傍に置いた短弓を手繰り寄せ、矢に手を掛けた瞬間。
「おおっ!なんだ、あれ?」
俵の喜色を含んだ声にフィリスは俵の視線の先に目をやる。
そこには目元に傷がある2メートルほどの何処か愛嬌のある小さなクマが川を挟んで此方を見ていた。
「何というか…着ぐるみ?」
川を挟んで立ってるクマを見た俵の声に反応してクマはピクリとその表情を僅かに動かす。
まぁ、言葉は通じずとも少なからず侮られたと感じたのか、クマはその見た目から反する低い唸り声を上げて俵を睨み付ける。
俵は洗ったばかりの鍋を鞄に入れると、何を思ったかクマに向けて手を振った。
それを見たフィリスは堪らず悪態を吐く。
「ちょっ、馬鹿!何やってんのよ!!」
手にした短弓の弦を引き絞り、狙いをクマに付ける。
しかしクマは矢のように俵に突撃する。
盛大な水飛沫を上げながら迫るクマに俵はす、と腰を落として小さな声で呟く。
「発気揚々…」
ドドドド、とクマが突撃し、俵と衝突した!
それはフィリスの目を疑う光景だった。
突然現れたクマはこの森で人の肉を覚えたクマで、森ではマンイーターベアと呼ばれる凶暴なクマである。
見た目はコミカルで可愛らしいがその小さな体躯を生かしてひっそりと接近してあっという間に爪で切り裂いたり、矢のような速度での突進で獲物を薙ぎ倒して喰らいつく恐ろしい魔物である。
その膂力は凄まじく、自分の胴程の大木を薙ぎ倒せる程である。
そんなクマの突撃を俵は頭突きで応えたのだ。
フィリスはその目で俵が瞬間的に自らの体内の気を練って応じたのだと判断した。
ヒューム族には自らの肉体のみで魔物を狩る変わった修行者もいると聞く。
俵もその1人なのだろうとフィリスがそこまで思考した辺りで俵が動き出した、
「どっ……せぇぇぇいっ!!」
何と頭突きで頭を弾いてクマがよろけた瞬間、一歩踏み出してクマの腰の毛皮を掴み、足でクマの足を掬い上げるように砂利の上に投げ飛ばしたのだ。
「グァオゥッ!」
運悪くクマは砂利の中の少し大きめな石に頭をぶつけてそのまま気絶した。
それを遠目から見ていた呆けた表情のフィリス、気絶したクマの傍には俵が両腕を上げて勝鬨を上げていた。
子狐に至っては満腹になった為か既に夢の世界へと旅立っていたのだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
異世界に射出された俺、『大地の力』で快適森暮らし始めます!
らもえ
ファンタジー
旧題:異世界に射出された俺、見知らぬ森の真中へ放り出される。周りには木しか生えていないけどお地蔵さんに貰ったレアスキルを使って何とか生き延びます。
俺こと杉浦耕平は、学校帰りのコンビニから家に帰る途中で自称神なるものに拉致される。いきなり攫って異世界へ行けとおっしゃる。しかも語り口が軽くどうにも怪しい。
向こうに行っても特に使命は無く、自由にしていいと言う。しかし、もらえたスキルは【異言語理解】と【簡易鑑定】のみ。いや、これだけでどうせいっちゅーに。そんな俺を見かねた地元の地蔵尊がレアスキルをくれると言うらしい。やっぱり持つべきものは地元の繋がりだよね!
それで早速異世界転移!と思いきや、異世界の高高度の上空に自称神の手違いで射出されちまう。紐なしバンジーもしくはパラシュート無しのスカイダイビングか?これ。
自称神様が何かしてくれたお陰で何とか着地に成功するも、辺りは一面木ばっかりの森のど真ん中。いやこれ遭難ですやん。
そこでお地蔵さんから貰ったスキルを思い出した。これが意外とチートスキルで何とか生活していくことに成功するのだった。
RD令嬢のまかないごはん
雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。
都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。
そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。
相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。
彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。
礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。
「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」
元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。
大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
俺のチートが凄すぎて、異世界の経済が破綻するかもしれません。
埼玉ポテチ
ファンタジー
不運な事故によって、次元の狭間に落ちた主人公は元の世界に戻る事が出来なくなります。次元の管理人と言う人物(?)から、異世界行きを勧められ、幾つかの能力を貰う事になった。
その能力が思った以上のチート能力で、もしかしたら異世界の経済を破綻させてしまうのでは無いかと戦々恐々としながらも毎日を過ごす主人公であった。
ガチャのドラゴン化は外れですか?
御前
ファンタジー
ああ、これは死ぬな。
学校行事の林間学校を抜け出した結果、突然起こった土砂崩れで何となくで生きる中学生、菱田龍也は命を落とした。
「何で俺は生きてるんだろうな」
「あなたが学校行事を抜け出し、勝手に死んだおバカさんであることに変わりはありません」
しかし、可憐な神様の事情により異世界転生をすることとなりスキルがひとつ付与されるらしいのだが、
「これランダムだからね」
これからの異世界生活の鍵はまさにくじ引き....そう、ガチャに託された。
何となくでしか生きてこなかった龍也は異世界で何と奮闘し、何を目指し、何を夢みるのか。
それは誰にも分からない。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました
平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。
しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。
だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。
まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。
転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です
途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。
ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。
前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。
ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——
一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——
ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。
色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから!
※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください
※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる