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二章

八、我らの王

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「なぁ、あの子、今日も何も食べないのかな」

調理担当のサンダーネズミ達は、何でもいいから口にしてもらおうと、今夜もあの手この手で独創的な、料理とは到底言えそうもない何かをを作り出す。

あの日、偉大だった王に代わってその座についたのは、自分たちの十分の一にも満たない年齢の子供だった。

優に三桁を生きる自分たちからしたら、産まれたてみたいなものだ。
そんな生き物が、ずっと思い詰めた顔をして、毎日毎日ろくに食事も取らずにじっと画面を見つめ続けているのだから、とうにアレンジレシピもリメイクレシピも尽きてる。

あぁでもない、こうでもないと、ウロチョロしていると、ウォーターラビットが背後からぴょんと頭上をこえて、目の前のコンロに着地した。
 
  
「……それは一体何だ?」

「よくぞ聞いてくれた!おばけ人参もどきとレインボーチーズ、それからミラクルコウモリの卵のミックスジュース、ワサビマヨ入りさ!」

「………………いいね」
内心、なんだその組み合わせは?!と思っていたが、悪気はなさそうなので否定はしないでおこう。



「だろ?今夜はいける気がするんだよ、ボクらの自信作さ!」

「今から持って行くのか?」

「もちろん!フレッシュジュースは作り立てが一番さ!」

カチャカチャとグラスを出し、なみなみと注ぐと、得意気に運んで行くその姿はまるで、健康に気をつかう母親の様だ。
だが、あの調子では、あの子が何も口にしなくなったのは気苦労のせいだけでは無いのだろう。

その後ろ姿を見送るとウォーターラビットは、サンダーネズミに気付かれないようにワサビを手の届かない所へ隠した。

ーーよし、ここならきっとみつけられないだろう。

食材のチョイスがどうにも独創的なだけで、仕事への熱意はあるのだ。

ーーマガド様は嫌な顔ひとつせず、ニコニコ召し上がっていたっけ……


 代替わりした当初はあまりに若い新王に皆、戸惑っていたが、眉間に皺を寄せてモニターを睨み続ける少年の様子に、今は心配する声が増えてきている。

……チキチキ……チキ……
   
目を閉じ、しばらく考え込んでいると、しっぽの辺りに暖かい熱を感じた。

――チキチキ……チキチキチキチキ…………ボッ……

コンロに向かってファイヤータートルが吹いた炎が燃え移り、しっぽの先が焦げているが、なんの、気にする事はない。
――やれやれ。気を引くにももっとマシなやり方があるだろうに。

 ピューっと手のひらから放水して火を消し、ついでに甲羅目掛けて出力最大でお見舞いしてやる。
こうすると、待ってましたと言わんばかりに嬉しそうにはしゃぐのだ。

「あっちで別の事をして遊ばないか」

ダメ元で声をかける。ここまでがワンセット、いつもの事だ。

――あぁ、そんな事よりも、万が一フレッシュジュースを口にしていたとしたら、飲水が必要になるだろうな。
可愛い我が王をお助けしなければ。

調理室から退室しようと飛び降りると、かたわらで、今度は互いに炎を吹きあっておどけ始めたので、もう放っておくことにした。


それも含め、ここの日常だ。 

 

  
 

 
 

   

 
 

 

 

  
 

  

 

  
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