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二章

六、とある村

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「……まだ見つからない……」

朝起きたら、息子がいなくなっていた。

        ――探さないで下さい――

なんて、ベタな書き置きも見当たらない。

村中を捜していたが、今日も何の手掛かりもなく、周りの人達にも疲労と焦りの色がみられ始めた。
 
 どうにも気持ちのやりようがないので、同じ部屋で寝ていたにも関わらず、前日の深酒のせいで昏昏こんこんと眠っていた夫をにらみつけてやった。

 

 村人の中に息子に害を成す者がいるとは思えない。形式通り警備隊にも連絡したが、このところ魔物の被害が増えていたので、見張りはそこら中にいたはずなのだ。
 
 そんな中、人より目立つ息子が事件や事故に巻き込まれるわけがない「……はずなんだけれど、たぶん……」  

「……ああ、もう捜せる場所は捜し尽くしてしまったわ……」

かじかむ指先に、はぁーーーっと息を吹き掛けたが、何の足しにもならないほど、昨夜から冷え込んでいた。

 普通なら、そんな日に子供が行方不明になんてなったら、凍えてやしないか、気が気じゃないのだろうか?

どうにもピンとこなかった。

あの子は小さい時から、真冬だろうが何だろうが季節を問わず、薄着でその辺を駆けずり回っているような子なのだ。


「……あの子が凍える姿なんて想像がつかないわ……」

そもそも、うちは元から普通ではない。
「……普通?……普通ってなんだったかしら……」

「……り?それは通常か……」
 

「普通……普通……」
うーん、口に出してみたものの、よく分からないままだった。


寒い寒いと震える肩を手で擦り、歩き始めたその足元で、季節外れのバッタが大きなを描いて飛んでいった。



「……嫌な予感がするわね……」 


 一度、家に戻ることにしたが、しくも、自分の胸をザワつかせた原因を追いかけるような形になってしまった。




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