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二章

二、落とし主

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「イカさ……オレのイカさん……」

「いつまでしょげてるの! ……わかったわかった、今日も探せばいいんでしょ~」

シェルは、やれやれといった表情で雲から身を乗り出すと面倒臭めんどうくさそうに探す振りをした。
 その横で、一生懸命に探していたのはユメだ。
「あれは昔アタシがあげたぬいぐるみなのよね。あんなに汚れて…気に入ってくれてたのね」

 数年前に失くしたお気に入りが今もまだ見つからず、リクはすっかり落ち込んでいた。  

「オレのイカさん……」 

「わかったって!ちゃんと探すわよー!」 

「イカさ……ん?! 匂うぞ!! 間違いない! オレの匂いが近づいてくる!」
急に元気を取り戻し、しっぽを振り回しながらソワソワ歩き回る。
 
「近づいてくるって、ぬいぐるみがひとりで移動してくるわけ……」 



「探し物はこれかな?にんげ…………」

「オレのイカさーーーーん!!」
目を輝かやかせて、パクっとかぶりつく。

勢い良く飛びつかれたポセイドンはよろけながら、危険なので人間界に物を落とさないようにと注意をした。
   
「シェルが悪いんだ。ぶつかるから」

「謝ったじゃないの!」

「…………」
 ユメは突然の訪問者ほうもんしゃ警戒けいかいし、雲の隙間すきまに隠れた。
長すぎるしっぽは丸々見えているのだが、それに気付く様子はない。
  
 ぬいぐるみから放たれた気を辿たどってようやく持ち主を見つけることが出来たが……ここは、ひときわ空気がんでいるな。緑豊かで長閑のどかな景色を見回し、昔は人間界もこんな風だったのにと、思わず溜息ためいきをついた。 

一部始終を静かに見守っていたカイがその事に気づく。
 
「どうしたんだ?お客人。何やら浮かない顔をしているね」

「いや、ここはいい場所だなと思ってな」

「ガブガブ……ん?それがなんで溜息になるんだ?気になるなぁ……ガブガブ」

「リク、喋るか咥えるかどっちかにしなさいっていつも言ってるでしょうが」
騒ぎを聞きつけたマリンが食事の用意の手を止めて、こちらへやってきた。

「私達、飼い主が寿命を全うするまでここで暮らす予定なんだけど、子供も孫も3世代みーんな揃うまであと100年近くかかるのよね」

「あの子らみんな健康体で元気一杯だからな! この前も年越しの瞬間はジャンプするんだとか言ってさ。おいら、それどころじゃなかったんだけど、また何かやってんなーって気配がしてたよ」

「そうなの!だから、時間はたっぷり。悩みがあるなら話くらい聞きますよ!」

 世話焼きのマリンは、お客様用のちょっと良いお茶を出しながら片目をパチっと閉じて見せた。

 気の強いまとめ役に世話好き、好奇心旺盛な者。それから、自分がピンチの時でも周りの様子に気が配れる者、警戒心が強いがその分、危険予知にけた者……。

――うん、いいかもしれないな。 
ポセイドンにある考えが浮かんだ。

「長い話になるから、お代わりをもらえるかな」

そう言うと、自分の決断を後押しするかのように、熱いままのお茶を一気に飲み干した。   
        

   

 
   
 
  
 
    
   

    
 
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