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一章

三、とある時代の、とある村

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……ゴソゴソ……
「ちっ。ろくなモンがねぇな。そっちはどうだ?」

「あっちのくらを見つけたぜ。だけどシケてやがる。たったの一個。これっぽっちじゃ、ゲージ二つ分の回復がせいぜいだろう」

カンカンカンカン!
けたたましく警報けいほうかねが鳴りひびく。   

「おっと。そろそろズラかるぜ。お前は向こうから行けよ。二手に分かれて撹乱かくらんしながら戻った方がよさそうだ」

「あぁ。唯一の戦利品せんりひんを取り返されてたまるかっての」



 村が寝静ねしずまる頃、このところ毎晩どこかで騒ぎが起こっている。

「なぁ、村長。もっと警備けいびの強化を要請ようせいしないと、村の貯蓄ちょちくを全部奪われてしまうぞ」

「昔はそんな事せずとも、奪い合いなんてなかったんじゃがのう」
そう言いながら、日に日に増えると年甲斐としがいも無く鏡を見ては、しきりにでつけているしわをさらに深めて、力無く項垂うなだれた。


コンコン
 
「おーい。大地、起きてるか?」

「起きてるよ」
寝癖ねぐせのついたまま目をシパシパさせながら奥の部屋から出てきたのは、村長の一人息子の大地だ。

「またやられたんだろ。聞こえてたよ。だからオレが行くって言ってるだろ。この間だって、貴重なリンゴを持っていかれたって、あいつの婆ちゃんが弱りきっていたんだから」

やまい怪我けがいやすことのできる光魔法の使い手が、もう何十年と現れていないこの村では、体力や怪我の回復効果のある金のリンゴは貴重な代物しろものだった。
それに、魔法に頼りきりのこの世界では、人による医療いりょうの知識や技術はいちじるしく遅れていて、つい最近も、ただの風邪をこじらせた村人が、回復せずにそのまま寝たきりになっている。

「だけどよぉ。大地がいなくなったら、この村は……」

「大丈夫、大丈夫。ちゃちゃっと行って、ちゃちゃっと倒して帰ってくるって!」  

 小さな村をおそうのは大抵たいていが下っ端の魔物だが、先代とは違い
今の魔王は、共存共栄きょうぞんきょうえいの考えを持たず、好戦的こうせんてきなのだ。

いやし手には恵まれなかったが、この村は百年に一度、勇者が産まれる村として国からの保護対象地区ほごたいしょうちくになっている。
 十五年前、村長の娘が赤ん坊を産んだ瞬間も、見事な流星雨りゅうせいうが降り注ぎ、その赤ん坊は、勇者の証である輝く石をにぎっていたという。
 
 そんな村だからか、裕福ゆうふくな暮らしをしていると誤解を招き、盗賊とうぞくに狙われるなんてことはよくある事だった。村人も応戦おうせんには慣れていたが、相手が魔物となると話は別だろう。 
 
 貴重なアイテムを奪われっぱなしで、ほとほとまいった村人の中には、勇者である大地が魔界へ行くべきだと言うものもいた。

 だが、ひとり娘が産んだ可愛い孫の身をあんじているのか、村長が首を縦に振らないでいるのだ。 

じいちゃんはオレが説得せっとくするからさ。まかせておけって!」
そう言って大地は身をひるがえすと、祖父の元へと向かった。

「わわっ。」
村人は片目を細める。
ーー良い奴なんだけど昔からせっかちなんだよな。

 大地が駆けて行った後はいつも、辺り一面に大きな砂嵐が巻き起こるのだった。 
 


  
  
 
       
 
     
  
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