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プロローグ

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「あぁー……寒い寒い」
そう言ってユメは、こたつにすべり込むとウトウト眠り始めた。
「ちょっと!  足が当たったじゃないの!  もうちょっとあっち行ってよ」
マリンとユメはいつもこうなのだ。狭いこたつの中で、今日も、えいっえいとお互いの後ろ足をりあっている。

 そんな二人を横目よこめに、のんびり庭でぬいぐるみをくわえて遊んでいるのは、となりの家に住んでいるリクだ。
………ガブガブ…………やべー楽しすぎる。……あごが痛くない。サイコー。ガブガブ……
 
 ここは虹の橋のたもと
命の尽きたペットが暮らす場所だ。みんな、飼い主や家族が天国へ行く時に一緒に着いて行こうと、それまでここで暮らしながら、その時を待っている。

 リクは生前せいぜんあごの痛みに悩まされていたのだが、ここには怪我も病気も存在しない。思う存分、ぬいぐるみ遊びにいそしんでいるのだった。

 ――なんだ、騒がしいと思ったら、またあの二人か。毎日毎日、飽きもせずこたつを取り合って。りないもんだな。まぁ、仲裁ちゅうさいするやつもいないし、仕方ないか。

バタン!!!

大きな物音に驚いたユメが、ヒャッと飛び上がる。

「もう!!  びっくりしたじゃないの!!!  なんなのよ!」

「あんた、本当にビビりよね」

ニヤニヤと揶揄からかうマリンをにらみながら、顔を真っ赤に染めたユメはえた。
「だーかーらー!あたし、ビビりじゃないの!!驚いたって言っているだけじゃないの!!マリンはいっつもそう言って…」

「ストーーーーップ!!」
「二人ともそれどころじゃないよ!  大変なんだから!」

 大慌てで家のドアを開けて飛び込んできたのは、リクと一緒に住んでいるシェルだった。
シェルは一番早く虹の橋のたもとへ来たせいか、みんなのリーダー的存在になっていた。
 
「おい、シェル。勢いよく横をすり抜けて行くから、オレのぬいぐるみが吹っ飛んだじゃないか。お気に入りなのに」
 
「後で取ってくるわよ!そんなことより、大変なんだってば。寄りによってなんでこんな日に……」
と、その時だった。

ピンポーーン

ピンポン、ピンポン、ピンポーーン

「あれ?誰か来たみたい。お客さんかしら。はいはーい、ちょっと待ってくださいねー」
マリンがドアを開けようと立ち上がって、むくれ顔のユメをピョンとまたぐ。

ガチャ

「えぇ!!?!!」
 
「なんだ、どうした……えぇー?!!」
 
「だから、大きな声をださないでって…………ぎゃー!」 

 そこにいる誰もが驚愕きょうがくした。
 
それもそのはずである。たずねてきたのはお客様などではなかったのだから。

「てへ♪ オイラやっちまったよ。頑張ったんだけどね。何とか日付は超えたよ。あぁ、疲れた」
少しバツが悪そうに立っていたのは、まぎれも無く、生前一緒に住んでいたカイだった。

「あ、リク達も、久しぶり~!元気だった?」
なつかしい顔触かおぶれに、少し元気を取り戻し始めている。 

「いや、まぁ元気っちゃ元気だけど」
リクは、目を白黒させながら答えた。

「あちゃー。さっき連絡があってね。急いで皆に伝えようと思ってすっ飛んできたんだけど、ひと足遅かったわね」
 あちらと、こちらの世界をつなぐ扉の管理を任されているシェルは、息を切らしながらそう言うのだった。
 
 マリンは、あちらの世界にいる家族の今頃の様子を想像すると、再会を喜んでいいものか分からず複雑な気分で沈黙ちんもくしている。
 
「カイ、来て早々悪いんだけどさ。そこで腰を抜かしているユメを運ぶのを手伝ってくれないか」     



 

何とも騒がしい一年の始まり。今日は元旦であった。
     
      
  

 
     
     
              
  
   
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