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それはきっと、薫風のように
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今年何度目かの夏日。
通い慣れた道を通り、お得意先からオフィスへと戻る。
ジリジリと太陽が照りつけ、家に忘れてきた日傘が恋しい。
一刻も早く冷房の効いたオフィスに戻るために、自然と早足になる。
そんな時に限って信号に捕まる。
「あーあ」
ここの信号はものすごく長いのだ。
少しでも日陰に移動しようと当たりを見回すと風で揺れた木々の隙間に赤い鳥居のようなものが見えた気がした。
「神社?」
この道は今まで何十回と通ったことがある。それでも、こんなところに神社があるなんて気がつかなかった。
幸いなことに午後の仕事はほとんど無い。ちょっと寄っていっても誰にもバレないし迷惑もかからない。
自分に言い訳をしつつ、私は境内に足を踏み入れた。
そこはまるで周りの世界から隔絶されたように静かで、涼しい風が吹いていた。
木々の葉が風に揺れてさわさわと音を立てる。
どこからかかすかに鳥の鳴き声も聞こえる。
石畳の道を進み、鳥居をくぐるとその先に小さな社があった。
木造の古そうな社は丁寧に手入れがされているのか、汚いという印象は全くなく、小さいけれど厳かな雰囲気を醸し出していた。
せっかくだし、お参りでもしていこう。
鞄から財布を取りだす。
丁度よく5円玉があったのでお賽銭箱に投げ入れ、鈴を鳴らす。
2礼2拍手をしたところで私は止まった。
特に願うことがない。
仕事もプライベートも順調で特別困っていることもなければ願い事もなかった。
適当に幸せでも願って終わるか、と思った時、学生時代の仲間の顔が頭に浮かんだ。
すっかり連絡も取らなくなった、親友。いや、同士か戦友と言った方が正しいだろうか。
共に青春を過し、同じ夢を見て、努力した戦友。
そういえば最近TwitterやInstagramにも浮上していない。最後に見たのは1ヶ月ほど前に体調を崩したというツイート。
全然気にしていなかったが、今になって急に気になってきた。重い病気では無いだろうか。
2日に1回は何かしら浮上していた彼女がこの1ヶ月全く浮上していないのは何かあったのではないか。
私は改めて2礼2拍手をした後、「彼女がどうか健康でありますように」と願った。
なぜ急にそんなことが浮かんできたのか。これを虫の知らせとでも言うのだろうか。良くないことが起こる前の知らせ。そうでは無いことを祈りつつ、私は神社に背を向けた。
神様なんて信じない方だ。基本的に願い事は自分で叶えると決めているし、神様なんてものがいたならばもう少し私の願いは叶っているはずだ。
でも、この想いだけは届いて欲しいと私は思う。
この夏の始めの風に乗せて彼女のところまで。
今は関わりこそなくても、彼女は私の半身で、同士で、同じ時代を生きた戦友なのだから。
ふわっと穏やかな風が髪を揺らした。
通い慣れた道を通り、お得意先からオフィスへと戻る。
ジリジリと太陽が照りつけ、家に忘れてきた日傘が恋しい。
一刻も早く冷房の効いたオフィスに戻るために、自然と早足になる。
そんな時に限って信号に捕まる。
「あーあ」
ここの信号はものすごく長いのだ。
少しでも日陰に移動しようと当たりを見回すと風で揺れた木々の隙間に赤い鳥居のようなものが見えた気がした。
「神社?」
この道は今まで何十回と通ったことがある。それでも、こんなところに神社があるなんて気がつかなかった。
幸いなことに午後の仕事はほとんど無い。ちょっと寄っていっても誰にもバレないし迷惑もかからない。
自分に言い訳をしつつ、私は境内に足を踏み入れた。
そこはまるで周りの世界から隔絶されたように静かで、涼しい風が吹いていた。
木々の葉が風に揺れてさわさわと音を立てる。
どこからかかすかに鳥の鳴き声も聞こえる。
石畳の道を進み、鳥居をくぐるとその先に小さな社があった。
木造の古そうな社は丁寧に手入れがされているのか、汚いという印象は全くなく、小さいけれど厳かな雰囲気を醸し出していた。
せっかくだし、お参りでもしていこう。
鞄から財布を取りだす。
丁度よく5円玉があったのでお賽銭箱に投げ入れ、鈴を鳴らす。
2礼2拍手をしたところで私は止まった。
特に願うことがない。
仕事もプライベートも順調で特別困っていることもなければ願い事もなかった。
適当に幸せでも願って終わるか、と思った時、学生時代の仲間の顔が頭に浮かんだ。
すっかり連絡も取らなくなった、親友。いや、同士か戦友と言った方が正しいだろうか。
共に青春を過し、同じ夢を見て、努力した戦友。
そういえば最近TwitterやInstagramにも浮上していない。最後に見たのは1ヶ月ほど前に体調を崩したというツイート。
全然気にしていなかったが、今になって急に気になってきた。重い病気では無いだろうか。
2日に1回は何かしら浮上していた彼女がこの1ヶ月全く浮上していないのは何かあったのではないか。
私は改めて2礼2拍手をした後、「彼女がどうか健康でありますように」と願った。
なぜ急にそんなことが浮かんできたのか。これを虫の知らせとでも言うのだろうか。良くないことが起こる前の知らせ。そうでは無いことを祈りつつ、私は神社に背を向けた。
神様なんて信じない方だ。基本的に願い事は自分で叶えると決めているし、神様なんてものがいたならばもう少し私の願いは叶っているはずだ。
でも、この想いだけは届いて欲しいと私は思う。
この夏の始めの風に乗せて彼女のところまで。
今は関わりこそなくても、彼女は私の半身で、同士で、同じ時代を生きた戦友なのだから。
ふわっと穏やかな風が髪を揺らした。
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