雨の公国

紫蘭

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参、雨よ降れ

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 晴れの儀から1週間。雨の公国は晴れの世界の中を生きていた。
 あの日起こった奇跡は今も継続している。
 歴史家や研究家がいろいろな検証をしているけれど、今まで晴れの儀を行ってきて叶えられなかった望みが、ノアの時だけ天に届いたのかはわかっていない。恐らくこの謎は一生わからないだろう。
 ノアは図らずしも、晴れの儀で人々の望みが叶えられたことで巫女としての役目を開放され、元通り四阿でのんびりと本を読む生活に戻っていた。
 城下町に降りてみようかとも思ったが、レリスに「ノア様は今国民に聖女と崇め奉られています。騒ぎになりますので決して王城から出ないように」と釘を刺されたこともあり、大人しく今日も四阿にいる。
 
 パタン、とノアは読んでいた本を閉じる。
 いつかの日読んでいたものと同じ、遥か昔の異国のおとぎ話。暖かな太陽に照らされて、一面花畑の夢みたいな世界に住む人々の話。
「やっぱり、馬鹿みたい」
 ノアは呟く。
 実際に晴れの中に生きてみても、ノアは雨が好きな気持ちは変わらなかった。
 優しく、厳しい、雨の世界が――。
 
 ノアは周囲に誰もいないのを確認し、誰にも聞こえないように小さな声で歌いだした。
 それは晴れの儀に歌った、祈りの歌。その歌詞をノアの想いのままに変えたものだった。誰にも聞かせられない、ノアだけの祈りの歌。

 雨よ降れ――。この国に雨を――。この国に恵みを――。
 優しく温かい、厳しく冷たい雨よ――。
 どうか、どうか雨よ降れ――。
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