雨の公国

紫蘭

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弐、晴れの儀①

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 水はけのいい石畳の道をガタゴトと1台の馬車が通る。人々が使うそれより、しっかりとした作りの豪華な馬車は道全体を占領し、ゆっくりと王城へ向かう。
 城門の前で止まると、御者が雨除けから顔を出し、立っている兵士に通行書を見せると、ギーっという大きな音と共に鉄でできた柵が上がっていく。
 そのまま馬車は王城へと進んでいった。

「姉上、よく来てくださりました。妻も娘も姉上の来訪を心待ちにしていたのですよ」
 ふかふかなソファーから立ち上がり、王が女性に抱擁を求める。女性も笑顔を浮かべてそれに答えた。
 彼女の名前はヘラ。王の姉であり、ノアの叔母、そして先代巫女である。
「ジェッロ、元気そうでよかったわ。ノアの成人の儀以来ね。隣町に住んでいるのに、中々こちらまで来る機会がなくて」
 ヘラは22の時に隣町に住む商人と結婚し、王城を出た。
 ヘラは体質的に子供が産めない体だった。次代の巫女を産めないと分かったヘラは王家にとって良きつながりとなるようにと力をつけていた商人のもとへと嫁いだ。そのおかげで、王家と商人が手を組み優れた商品を援助できる制度ができ、ここ20年で各段に製品の質が上がった。
 ヘラが乗ってきた馬車も、サスペンションが進化し、快適に長期の旅を続けられるようになったものである。
「ヘラ叔母様、お久しぶりでございます。これから約2か月、ご指導のほどよろしくお願いいたします」
 ヘラがここへ来た理由はノアに晴れの儀の作法を教え込むためだった。
 晴れの儀に関わる作法は代々巫女から巫女へと伝わる。
 ヘラはこれから2カ月に渡って王城に住み、付きっ切りでノアへ巫女としてのすべてを教え、晴れの儀の準備をする。
「ノア、また大人っぽくなったわね。これからよろしく」
 ヘラが出した手を握り、ノアは静かにほほ笑んだ。

 それから2カ月ノアは一時の休みもなく、巫女修行に励んだ。
 四阿で休憩する間もなく、一息つけるのは寝る前に自室でレリスが入れてくれたカモミールティーを飲むときだけ。
 巫女として、儀式だけでなく日々の立ち振る舞い、歩き方や話し方まで一つ一つ学んでいく。
 それは本来のノアに何重にも仮面を被せていくような日々だった。
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