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壱、雨の公国②
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長い廊下を抜けた先、王妃の自室のすぐ隣に位置する衣裳部屋。
ここに並ぶのは普段ノアが着ているワンピースやドレスではなく、王妃のドレスでもない。儀式のために誂えた特別な衣装。昨年、ノアが着た成人の儀の衣装もここに並んでいる。
扉の前に着くとノアは今までの気怠そうな表情を引き締め、すっと意識を入れ替えた。ここからは、王女の顔だ。
「失礼します」
ノックを響かせノアが衣裳部屋に入ると、そこにはたくさんの布を抱えた侍女たちと王妃がいた。
「あら、ノア。遅かったじゃない。また供もつけずに歩いていたのでしょう。少しは王族の自覚を持ちなさい」
「申し訳ありません。晴れの儀の衣装のことと聞いてきましたが」
口を開けば「王族として」という言葉が飛んでくる王妃とのやり取りに、ノアは辟易している。特に成人を迎えてからはよりうるさくなった。
反論すると後がめんどくさいことをよく知っているノアは、いつしかサラッと流す方法を身につけた。
衣装の話を振られた王妃はお小言など吹っ飛び、目の前にある布たちに話を戻す。
「今年は数十年ぶりに晴れの儀が行えるのだから、衣装もこだわりたいわって話していたところなの。色は伝統通り純白で、青い糸の刺繍なのだけれど、生地にはこだわれるわ。この艶のあるサテン、綺麗でしょ」
王妃は侍女に持たせた真っ白の反物の見本から1つ選び手に取る。
「それから、刺繍糸はどちらがいいかしら。やっぱり晴れの儀に使うのだからこのさわやかな青かしら?晴れた空ってきっとこんな色よね?でも、こちらの青いブルーも綺麗だわ。ノアに合わせて決めるから、ここに立って頂戴」
言われるがままにノアは王妃の前に立ち、お針子と王妃にあれやこれや言われながらも、着せ替え人形に徹した。
晴れの儀とは、雨の高校で最も重要な儀式の1つである。儀式を行えるのは成人した未婚の王女のみ。王女が見異なり、1週間かけて禊を行った後、天の神に“晴れ”を願って三日三晩祈り続ける。
今代の王と王妃には子供がノアしか生まれなかった。
王の兄弟も若くして病死しており、王の姉が婚姻を結んでから22年、雨の公国では唯一の王女であるノアが成人を迎えるまで晴れの儀は行われてこなかった。
巫女となれる王女がいるときは滅多なことがない限り毎年行われていた儀式だ。いつかこの雨が止むことを願っている人々にとって待ちに待った儀式。
だからか、昨年のノアの成人の儀は盛大に行われた。厳かな儀式の後は国中がお祭り騒ぎとなり、成人の儀の翌日に行われた晴れの儀の日程の占いは大変な盛り上がりとなった。
1年中雨が降っているこの国では傘は必須だが、この日ばかりは皆が傘を手放し雨の中で喜びを交わした。
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言われるがままにノアは王妃の前に立ち、お針子と王妃にあれやこれや言われながらも、着せ替え人形に徹した。
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