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現実世界①

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 ぱっとりつが目を開くと、そこはいつもの図書室だった。
 ぺたんとりつは床に座り込む。今のはなんだったのか。
 りつが座り込んだ床には、時の館に置いてきてしまったはずの青い本が転がっていた。
 りつは大きく深呼吸をする。
 慣れ親しんだ図書室の髪の匂い。
 時計を確認すると、魔法使いの女性が言っていたやうに、ちょうど15分時間が巻き戻っていて、針は17時45分を指している。
「帰らなきゃ」
 りつは慌てて本を拾い、閲覧席に戻った。本の間に楽譜が挟まっていることを確認し、ランドセルを背負う。
 ここまで古く、誰も触れていない本だ。貸出申請をしなくても1日ぐらいならバレない。
 りつは本を抱え、図書室を後にした。
 6月になり日中は暖かくなってきたどころか、暑いぐらいだか、夕方になれば心地よい風が吹く。
 りつは興奮した脳みそを冷やしてくれるそよ風に感謝しつつ、真っ赤に染った夕空を眺めた。

 今日の放課後に起こった全てが夢のようだった。たぶん、居眠りをして夢を見たんだと言われればそうかもしれないとも思う。でも、夢にしてはやけにリアルで、未だにりつの指先には鍵盤を叩いた感覚が残っている。
「明日も会えるかな」
 魔法使いの女性とリートに。
 大嫌いだったはずの放課後がほんの少しだけ楽しみになる。
 いつもは重い家までの足取りも、今日ばかりは軽やかだった。

 翌朝、カーテンの隙間から差し込む朝日でりつは目を覚ます。
 半分眠ったままの脳を覚醒させるために勢いよくカーテンを開くと、気持ちのいい快晴が広がっていた。
「よし」 
 時計を見るといつもよりもだいぶ早い。目覚ましが鳴るのはまだ先だ。
 りつはクローゼットの奥に閉まっていたダンボールを確認する。中に詰まっているのは大量の楽譜と教本。
 パンパンに紙が詰まったダンボールは酷く重たく、りつは汗だくになりながら何とか引っ張り出した。
 箱を開けて1番上に入っていたピアノの教本といくつかの楽譜を取り出す。
 その中には昨日時の館で演奏したドビュッシーの子供の領分もある。
 音符が見えなくなるくらい真っ黒に書き込まれた楽譜たち。
 ランドセルを持ってきて中を確認すると、空いている隙間に入りそうなのは2冊ほど。教本と1番好きだった1曲を選び、りつはランドセルに仕舞った。
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