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放課後の図書室①

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「それでは、これで帰りの会を終わります。起立、気をつけ、礼、さようなら」
「「さようなら」」
 教室に子供たちの声が響き渡る。挨拶が終わると一気に騒がしくなる。
 それぞれが仲のいい友達の席に集まり、「一緒に帰ろ~」と、声をかけ合う。
 中には放課後の遊びの予定手を確認し合う子や、クラブ活動に向かう子もいる。
 カラフルなランドセルが段々と教室を出ていく中、ぽつんと窓際の席に座ったままの少女がいた。
 おかっぱ頭に伏し目がちな瞳が印象的な、所謂地味めな女の子。
 高学年になってお洒落にもより一層の気を使い、毎日この服が可愛い、このコーディネートがオシャレ、とお喋りをし、色とりどりの可愛い服装をしているクラスメイトとは異なり、少女は膝丈のグレーのスカートに真っ黒のシャツを身につけている。
 完全モノクロのコーディネートに机の上に乗せられたピンク色のランドセルが浮いている。

 おもむろに少女は立ち上がると、ランドセルを肩に引っ掛け、教室を出た。
 下校する生徒たちの流れに逆らい、下駄箱とは逆方向に向かう。
 校舎最上階の一番端、図書室と書かれた看板がぶら下がるドアを少女は静かに引いた。
 脇目も振らず、向かうのは閲覧スペースの1番奥。
 本棚の陰に隠れたこの場所は少女の定位置だった。
 放課後のこの時間、少女は誰もいない図書室で、本を読みながら、ただひたすらに時が過ぎるのを待つ。
 図書室担当の先生は忙しいのと、少女以外に放課後の利用者がいないことから、鍵閉めの時しか姿を現さない。
 本当は生徒だけにしてはいけないはずだが、少女だけは黙認されている。
 席につき、少女はふぅーと息を吐く。
 今日も学校が終わってしまった。
 クラスメイト達が放課後を心待ちにするのとは正反対に、少女は毎日学校が終わらなければいいのにと思う。
 学校がある間は、やることがある。授業を受けていればあっという間に時は過ぎる。
 でも、放課後や土日はそうはいかない。
 時間が過ぎるのが遅い。
 図書室担当の関先生は少女の3年生の時の担任だった。だから少女の事情も知った上で教員なしでの図書室の使用を黙認してくれているのだ。

 少女はしばらく席でぼーっとした後、立ち上がり、本を取りに行った。
 2年ほどかけて、少女は図書室の本をほとんど読み切った。
 有名どころはもちろん、知る人ぞ知る名作もすっかり読破してしまった。
 新刊は入ってくる度にチェックしているし、なんなら棚に並べているのも少女だ。
 残っているのは、古くて誰も手を出さない、何年も読まれていないような本だけだ。
 図書室の端、ほぼ書庫のようになっている一画。誰も寄り付かない棚へ少女は足を運ぶ。
 1番上の段の1番左の本を手に取る。
 タイトルはかすれて読めない。パラパラと中をめくるとファンタジーの児童書のようだ。シリーズ物のようでその横に何冊も同じような背表紙の本が並んでいる。
 席に戻ろうとした時、少女の視界に光る何かが映った。
 他の教員たちにバレないように電気をつけていないため、図書室は薄暗く、光るものなど置いていない。
 見間違いかと思いつつ、少女が振り向くと光っていたのは1番下の段の端に置かれた分厚くて古い本だった。
 本には触れずにしゃがみこんで少女はじっと光を見つめる。
 どうやら光っているのは本そのものではなく、1ページだけのようだった。
 少しそのまま本を見つめてから、少女は立ち上がる。
 面倒くさそうなことには関わらないのが1番。下手に巻き込まれてしまったら困る。
 平穏に静かに生きる。それが少女のモットーだった。
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