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レイナにふさわしい曲

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「社交界で演奏する曲ですか、定番はいくつかございます」

 リストがあげたのは高い表現力が必要とされる曲や超絶技巧を魅せるための曲。
 高い教養をアピールするような曲だ。

 どれも今のレイナのレベルからするとハードルが高い。

 レイナは以前教わっていた先生からそれらの曲の譜面を見せられたことがあった。

 あの複雑な譜面を弾きこなせる気は到底しない。
 でも、アイドクレース侯爵家の娘として、レベルの低い曲で誤魔化すなんてことは出来ない。

 黙り込んでしまったレイナを見て、リストは声をかける。

「レイナ様にこの前演奏していただいた曲以外にレイナ様が好きな曲はどんな曲ですか?」

「私が、好きな曲ですか。雄大な自然をモチーフにしたものや、あと、剣舞の曲とかですかね」

「剣舞ですか。レイナ様なお好きな曲はどれも柔らかく美しい曲より強く、美しく凛としてかっこいい曲なのですね」

「強く、美しく、凛とする……」

 何かが見えた気がした。

「私はまだレイナ様のことを詳しく知りません。でも、たった2度ですが、アイリス様とレイナ様は全く違う美しさをお持ちだと思います」

 アイリスとは違う、美しさ。

「リスト様、申し訳ありませんが本日のレッスン、退席させて頂けますでしょうか。
 私、社交界デビューについてもう一度考えてみなければいけないのです」

「もちろんですよ。では、次回曲選びを致しましょう。それからレッスンはここで終わりにいたしますが、課題に出した練習曲は忘れずに弾いてください」

「分かりました。本日はありがとうございました」

 扉の向こうに控えているスミカを呼ぶ。フレナはアイリスを送りに行ってまだ戻ってきていない。

「スミカ、リスト様をお送りして。それからネカを私の部屋に呼んできて頂戴」

「承知いたしました」

 リストがスミカに連れられて部屋を出ていく。
 扉が閉まる瞬間、振り向いたリストはレイナに向かってニコリと笑った。
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