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アイドクレース侯爵家1

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 コンコンコン。

 扉をノックし、レイナはアイドクレース侯爵の執務室に入る。

「お父様」

 侯爵の要件に全く想像がつかなかったレイナは、ただそう呼びかけるしかなかった。

「レイナ。そこに座りなさい」

 部屋には執事やメイドの姿もなく、侯爵とレイナの2人きりだった。

「ずっと、話しておかなければと思っていた。レイナは聡いから何も言わずともわかっているかもしれないが、それでも、アイドクレース家の今後について」

 アイドクレース家は代々、王都北側の広大な領地を預かる侯爵家だ。
 交易の盛んな街を持ち、北側では採掘、東側では農業と牧畜という多くの資源を持ったアイドクレース家は王家にとってもとても貴重な存在だ。

 この貴族社会の国の中で、序列というのは非常に大きい。

 まず一番上に王家。その下に王家の血筋を引く者たちが存在する公爵家。その下が侯爵、伯爵、子爵、男爵と続く。
 公爵家はこの国に2家しか存在しないため、この国を支えるのは侯爵家である。

 その侯爵家の中でも上位に位置するのが、このアイドクレース侯爵家だ。

 そして、今このアイドクレース侯爵家には危機が訪れている。

 それは、跡取りの不在。

 娘2人しか存在しないこの状況は、他家から見ると力を削ぐ大チャンスなのだ。

「アイドクレース家の今後というと、次代侯爵についてでしょうか」

 ただ事ではない雰囲気を感じ取って、レイナは侯爵令嬢の仮面を深くかぶりなおす。

「そうだ。そしてもう1つ、アイリスのことだ」

「アイリス、ですか?」

「あぁ。今更だろうが、今この家には跡取りが存在しない。本来ならばもっと早く親戚筋から養子を取るべきだったのかもしれないが、他の問題もあり、ずっと後回しにしてきた。3か月後にはレイナも16歳になる。社交界デビューの歳だ。ある程度の勢力図は頭に入っているだろうが、アイドクレース家の者として、知っておくべきことは多くある」

 そう言って侯爵が語りだしたのは現在の王都の状況だった。
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