私が唯一愛した人は、双子の姉を愛していたので、友情と仕事に生きることを決めました

紫蘭

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夕食と父親3

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 今日のメインはウサギ肉のロースト。レイナの好物だ。

「お、今日はウサギか。小さいころのレイナはウサギ肉が出るとぴょんぴょん跳ねて喜んでいたな。今も好きか?」

「はい」

 お父様が、私の好物を覚えている……?

 レイナは平静を装いつつ、内心でパニックを起こしていた。
 ずっと父としてではなく、侯爵として接してきた手前、こうやって父らしい言葉をかけられるとレイナはどう対応していいかわからなくなる。

 アイドクレース侯爵の仕事はハードだ。領地経営のほかにも社交界に呼ばれ、王都にいることも多い。
 アイドクレース家に限らず、侯爵家ともなると、仲のいい家族団らんなど夢のまた夢で、子育ては乳母に一任される。

 ルナリアのように娘につきっきりというのですら、珍しいのだ。
 普通の侯爵夫人はお茶会にパーティーとひっきりなしに予定が入る。
 それを全部はねのけて、アイリスを最優先にしているルナリアの分も社交界に呼ばれるアイドクレース侯爵は、本当に多忙だ。

 そんな中で好物といい、ピアノのことといい、娘のことをちゃんと見ていることにレイナは動揺していた。

「レイナ、夕食後少し時間を貰ってもいいか?」

「え、はい」

「なら、あとで私の部屋に来なさい」


 この日の夕食は好物のはずなのに、あまり味がしなかった。


 夕食を終え、レイナはいったん自室に戻る。

「スミカ!フレナ!」

 レイナは部屋の前で待っていた2人の手を引き、自室に連れ込むと、そのまま飛びつく。

「なにあれ!2人とも今日の会話聞こえてた?お父様どうしちゃったの?見ていてくださってるのは知ってたけど、あんなに詳しく知られてるなんて思ってなかったし、ピアノ苦手なのバレてたし……。それに、好物まで覚えてるとは思わなかった!しかもお部屋に呼び出しとか、この後いったい何が起こるの?もうキャパオーバー!」

「レイナ様、ちょっと待って!私たち外にいたから話の内容は聞こえてないの!」

 バタバタと暴れるレイナを宥めつつ、スミカが言う。

「あ、そっか」

「それより、この後お部屋に呼ばれてるってどういうこと?」

 しわになったスカートを伸ばしながら、フレナも問いかける。

「この後時間があるなら自室に来いってお父様が……」

「「なにやってるの!」」

 そこから、2人は怒涛の勢いでレイナの崩れたドレスと髪型を直し、レイナの愚痴は後回しにして、アイドクレース侯爵の部屋の前にレイナを放り込んだ。



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