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夕食と父親2

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 カチャカチャと小さくカラトリーの音だけが響く。

 前菜とスープを食べ終わったところで、レイナはばれないようにそっと侯爵の表情を観察した。

 アイリスといるときのような温和な柔らかい表情でもなく、執務室にいるときの侯爵の顔でもない。
 怖いとも優しいとも言えないその表情にレイナは戸惑っていた。

 なぜ……。なぜ今日に限って2人で夕食を……?
 忙しくても忙しくなくても、家族全員が揃わない日は夕食は後回しにする方のはずなのに?
 本来なら、ダイニングに来て、アイリスたちの姿が見えなかった時点で引き返してもおかしくない。
 それなのに一緒に夕食を始めて、挙句の果てには何もしゃべらないなんて。

「どうした?レイナ。私の顔に何かついているかい?」

「も、申し訳ありません。なんでもありません」

 侯爵の顔をじっと見つめていたことに気づき、レイナは慌てて謝罪をする。
 いくら父親と言えど、他人の顔をじろじろと観察するなんて行儀の悪いことをしていたことに、サーっと血の気が引く。

 真っ青になったレイナを見て、侯爵は小さく笑った。

「咎めているのではないよ。でも、そうだな。レイナと2人で食事をとるのはずいぶん久しぶりだね。最後は、いったいいつだっただろう」

「……アイリスが部屋を出るようになってからは一度もありませんから、2年ほど前でしょうか」

「そんなに前になるか。今日のピアノのレッスンはどうだったかい?」

「アイリスはかの有名なリスト様の演奏を聴けて喜んでいました。リスト様が言うにはアイリスはとても耳がよく、ピアノのセンスがあるそうです。アイリスの持つよく理解してくださって、次回以降は体調にも気を使うとお約束してくださいました。今日は興奮してしまい途中までになってしまいましたが、次のレッスンを楽しみにしているようです」

「そうか。レイナのことを聞いたつもりだったんだが……。アイリスにできることが増えるのはいいことだ。それで?レイナはどうだった?」

「私、ですか?」

「あぁ、今日はどんな曲を弾いたのだ?」

「今日は、四季の曲より冬を演奏しました」

「あの曲はいい曲だ。好きなのか?」

「はい」

「そうか」

「リスト様は今までの先生方とは異なり、技術より、その人らしい音楽を奏でることに熱中している方でした」

「レイナが少しでも音楽を好きになれたらよいと思って選んだのだが、それは正解だったようだな。今までより表情が明るい」

「え……」

「レイナが身体を動かしたり勉強をしたりする方が好きなのは知っているが、音楽は避けられないからな。少しでも楽しんで学べればと思ったのだ」

「ありがとう、ございます」

 メイン料理が運ばれてきて、父子の会話はそこでいったん途切れた。
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