17 / 44
夕食と父親2
しおりを挟む
カチャカチャと小さくカラトリーの音だけが響く。
前菜とスープを食べ終わったところで、レイナはばれないようにそっと侯爵の表情を観察した。
アイリスといるときのような温和な柔らかい表情でもなく、執務室にいるときの侯爵の顔でもない。
怖いとも優しいとも言えないその表情にレイナは戸惑っていた。
なぜ……。なぜ今日に限って2人で夕食を……?
忙しくても忙しくなくても、家族全員が揃わない日は夕食は後回しにする方のはずなのに?
本来なら、ダイニングに来て、アイリスたちの姿が見えなかった時点で引き返してもおかしくない。
それなのに一緒に夕食を始めて、挙句の果てには何もしゃべらないなんて。
「どうした?レイナ。私の顔に何かついているかい?」
「も、申し訳ありません。なんでもありません」
侯爵の顔をじっと見つめていたことに気づき、レイナは慌てて謝罪をする。
いくら父親と言えど、他人の顔をじろじろと観察するなんて行儀の悪いことをしていたことに、サーっと血の気が引く。
真っ青になったレイナを見て、侯爵は小さく笑った。
「咎めているのではないよ。でも、そうだな。レイナと2人で食事をとるのはずいぶん久しぶりだね。最後は、いったいいつだっただろう」
「……アイリスが部屋を出るようになってからは一度もありませんから、2年ほど前でしょうか」
「そんなに前になるか。今日のピアノのレッスンはどうだったかい?」
「アイリスはかの有名なリスト様の演奏を聴けて喜んでいました。リスト様が言うにはアイリスはとても耳がよく、ピアノのセンスがあるそうです。アイリスの持つよく理解してくださって、次回以降は体調にも気を使うとお約束してくださいました。今日は興奮してしまい途中までになってしまいましたが、次のレッスンを楽しみにしているようです」
「そうか。レイナのことを聞いたつもりだったんだが……。アイリスにできることが増えるのはいいことだ。それで?レイナはどうだった?」
「私、ですか?」
「あぁ、今日はどんな曲を弾いたのだ?」
「今日は、四季の曲より冬を演奏しました」
「あの曲はいい曲だ。好きなのか?」
「はい」
「そうか」
「リスト様は今までの先生方とは異なり、技術より、その人らしい音楽を奏でることに熱中している方でした」
「レイナが少しでも音楽を好きになれたらよいと思って選んだのだが、それは正解だったようだな。今までより表情が明るい」
「え……」
「レイナが身体を動かしたり勉強をしたりする方が好きなのは知っているが、音楽は避けられないからな。少しでも楽しんで学べればと思ったのだ」
「ありがとう、ございます」
メイン料理が運ばれてきて、父子の会話はそこでいったん途切れた。
前菜とスープを食べ終わったところで、レイナはばれないようにそっと侯爵の表情を観察した。
アイリスといるときのような温和な柔らかい表情でもなく、執務室にいるときの侯爵の顔でもない。
怖いとも優しいとも言えないその表情にレイナは戸惑っていた。
なぜ……。なぜ今日に限って2人で夕食を……?
忙しくても忙しくなくても、家族全員が揃わない日は夕食は後回しにする方のはずなのに?
本来なら、ダイニングに来て、アイリスたちの姿が見えなかった時点で引き返してもおかしくない。
それなのに一緒に夕食を始めて、挙句の果てには何もしゃべらないなんて。
「どうした?レイナ。私の顔に何かついているかい?」
「も、申し訳ありません。なんでもありません」
侯爵の顔をじっと見つめていたことに気づき、レイナは慌てて謝罪をする。
いくら父親と言えど、他人の顔をじろじろと観察するなんて行儀の悪いことをしていたことに、サーっと血の気が引く。
真っ青になったレイナを見て、侯爵は小さく笑った。
「咎めているのではないよ。でも、そうだな。レイナと2人で食事をとるのはずいぶん久しぶりだね。最後は、いったいいつだっただろう」
「……アイリスが部屋を出るようになってからは一度もありませんから、2年ほど前でしょうか」
「そんなに前になるか。今日のピアノのレッスンはどうだったかい?」
「アイリスはかの有名なリスト様の演奏を聴けて喜んでいました。リスト様が言うにはアイリスはとても耳がよく、ピアノのセンスがあるそうです。アイリスの持つよく理解してくださって、次回以降は体調にも気を使うとお約束してくださいました。今日は興奮してしまい途中までになってしまいましたが、次のレッスンを楽しみにしているようです」
「そうか。レイナのことを聞いたつもりだったんだが……。アイリスにできることが増えるのはいいことだ。それで?レイナはどうだった?」
「私、ですか?」
「あぁ、今日はどんな曲を弾いたのだ?」
「今日は、四季の曲より冬を演奏しました」
「あの曲はいい曲だ。好きなのか?」
「はい」
「そうか」
「リスト様は今までの先生方とは異なり、技術より、その人らしい音楽を奏でることに熱中している方でした」
「レイナが少しでも音楽を好きになれたらよいと思って選んだのだが、それは正解だったようだな。今までより表情が明るい」
「え……」
「レイナが身体を動かしたり勉強をしたりする方が好きなのは知っているが、音楽は避けられないからな。少しでも楽しんで学べればと思ったのだ」
「ありがとう、ございます」
メイン料理が運ばれてきて、父子の会話はそこでいったん途切れた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。
[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる