私が唯一愛した人は、双子の姉を愛していたので、友情と仕事に生きることを決めました

紫蘭

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手合わせ3

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「レイナ様、服が汚れるよ」 

 そう言ってラエルはレイナを引っ張り起こす。

「後で2人にこっそり洗濯してもらわないとね」

 こうやってレイナがラエルと手合わせした時に汚れた服は、スミカとフレナがいつも綺麗にしてくれる。

 そもそも、レイナは剣術ができるような服を持っていなかったので、今身にまとっている服は2人が縫ったものだ。
 動きやすく、それでも侯爵令嬢としての気品を失わないようにと考えて、レイナのためだけに作られた服。

 レイナが剣術を始めた頃は2人の縫い物の腕もまだまだ未熟で、何とか着れるというものだった。

 それが今ではどんどんと技術が上がり、その辺の仕立て屋に見劣りしない。

 汚れの目立ちにくい、深い青の生地をレイナの身体に合わせて誂えたこの服は、レイナの動きを制限することなく、ぴったりと寄り添う。

 有名店に誂させたどのドレスよりも、これはレイナのお気に入りだ。

 長くて動きにくいスカートも、締め上げるコルセットも、重たい装飾品もついていない。

 身軽で、飛ぶように動ける。

 土汚れをパンパンと叩き、レイナは木刀をラエルに渡す。

「そろそろ戻らなきゃ。ドレスに着替えて夕食の時間ね」

 日は少し傾き始めている。

 自由な時間は終わりを迎え、侯爵令嬢に戻る時間だ。

 18時になると、ダイニングに家族が集まり、夕食が始まる。

 家族全員が集まることは多くは無いが、それでも貴重な時間だ。

「そうだな。フレナたちの仕事も終わってるだろうし、今日はここまでだな」

 と言っても、今日はアイリストルナリアは不在だろう。

 今ごろアイリスはベッドの中だろうし、体調を崩したアイリスのそばをルナリアが離れるはずがない。

 侯爵が来るかどうかは、仕事による。

 お父様が来なかったら、夕食は部屋に運んでもらおう。とレイナは決める。

 給仕もスミカたちにお願いしてしまえば、気楽な夕食になる。

 いっそのこと、お茶会のように夕食も5人で食べれたらと思ったこともある。

 幼い頃、うっかりとそれを口に出してしまったら、ネカにこってりと叱られた。

 そこまでしてしまったら秘密とは言えなくなる。
 公然であっても秘密であることが大事なのだと。

 それ以来、レイナは無闇に願いを口に出すのを辞めた。

 今ある幸せを失わないためにも。

「ラエル、手合わせ、また付き合ってくれる?」

「……おう」

 レイナの問いかけに、ラエルは一瞬思案したのちにいつもの頼もしい笑顔で答えた。
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