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レッスン3

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 思案の後にレイナが選んだのは四季を司る曲の内、冬をテーマにしたもの。

 始めはゆったりと、次第に早くなっていく曲に合わせ、レイナはもつれそうになる指を必死に動かした。
 レイナが最後まで弾き終わると、リストはおもむろに言った。

「レイナ様は肩に力が入りすぎています。そして、楽譜に忠実であろうとしすぎています。少しぐらいミスタッチしても、楽譜の指示から外れてもかまいませんので、もっと楽に弾いてみましょう」

「もっと楽にですか?」

 レイナにとって、ピアノは教養の1つ。アイリスのように楽しむものでは無かった。もともとピアノは大の苦手だ。今までの教師は必死に努力したレイナのピアノを中の下という評価をし、ひたすら反復練習を繰り返すようにと言っていた。

「レイナ様はどうしてこの曲を選んだのですか?」

「この曲を選んだ理由ですか?冬の澄んだ空気に響くような、凛としたメロディーが好きなのです.
 私はアイリスとは違って、ピアノは教養と教えられてきました。無邪気に楽しむものはdではなかったのです。たからか、華やかな曲はどうも苦手で……。愛の曲などもっとわからなくて……。
 ただ、この凛とした響きはとても好ましく思います」

 冬の寒々しく澄んだ空気。世界にレイナただ1人になれるような感覚。

「レイナ様にとてもお似合いだと思います。なので、レイナ様が思う美しい冬の情景を思い浮かべながら演奏しましょう。それだけでも音楽は大きく変わるのです」

 レイナは鍵盤に手を置く。

 脳裏に浮かぶのはアイドクレース領の美しい冬景色。
 一面の銀世界に佇む自分。
 早朝の張りつめた空気。
 朝日に照らされて輝く結晶。

 音は先ほどまでも鋭く、響く。

 次第に早くなるパッセージ。
 動かない指がこんなにももどかしく感じたのは初めてだった。

 1曲弾き終わると、レイナの息は上がっていた。
 まるで剣の稽古の後のような疲労感と充実感。

「素晴らしい。先ほどと全く異なる演奏だったこと、レイナ様も肌で感じたでしょう。向き合い方を少し変えるだけでこんなにも音は変わる。これが音楽の面白さなのです」

 興奮した様子でリストは拍手をする。

「私、ピアノが楽しいと感じたのは初めてです」

 レイナは呆然として言った。
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