上 下
5 / 44

親友2

しおりを挟む
 レイナが自室に戻ると、扉の前でスミカとフレナが待ち構えていた。 

「レイナ!侯爵様に呼ばれていたんでしょ?なんの話しだった?」

「社交界デビューの話でしょ?」

 2人とも話の内容は想像がついているようで、期待に満ち溢れた目でレイナを見つめる。
 
「あぁ、うん。乳母やメイドとドレスと宝飾品を誂えるようにって。だから、2人とも、ネカを呼んできてくれる?」

 ネカはレイナの乳母だ。ほぼ一緒に育てられたスミカとフレナも母のように慕っている。

「了解!」

 スカートを翻してかけていくスミカとフレナを見送り、レイナは自室に入る。

 ワンピースに皺がつくのにも構わず、レイナはベッドにぼふんっと飛び込んだ。
 ふかふかのベッドは勢い良く飛び込んだレイナを優しく抱きとめる。
 じんわりと滲んでくる涙を枕に顔を押し付けることで誤魔化しながらレイナは、想像していた今後を思った。

 今でも、4人がレイナと呼び捨てにするのを窘める人達は多い。それでもレイナは4人とは対等でありたかった。だから大人がいるところと、4人だけのところでは対応を変えていた。

 でも、護衛騎士と専属の執事が付けば、レイナが1人でいられる時間はほぼ無いに等しい。たとえあったとしても、5人だけの空間は無くなる。そう思っていた。5人だけの空間が無くなれば必然的に、貴族と使用人としての対応をする場しかなくなり、彼らと対等に言葉を交わし、愚痴を言い、くだらない喧嘩をすることなど無くなる。

 でも、護衛騎士がラエルになるならば話は別だ。今まで通り周りの目がないところでは普通に会話が出来るかもしれない。

 侯爵家の娘として産まれた時点で、そんなものは望んではいけないのかもしれないが、それでもレイナは貴族としてではなく、1人の女の子として過ごせる彼らとの時間が何よりも大切だった。

 それに、とレイナは思う。
 きっとお父様は私たちの関係を知っている。
 他の使用人たちも分かっていて見ないふりをしてくれている。仕事で忙しいけれど、私が思うよりちゃんと見ていてくれている。お父様は知っていて、その関係を取り上げないでいてくれた。

 もしかしたら罪滅ぼしなのかもしれない。私から母を奪ってしまったと、同じように愛されるはずなのにアイリストの間に差ができてしまっていると以前執事長に話しているのを聞いたことがある。

 なおも溢れてこようとする涙を根性で止め、レイナはゴロンとベッドの上で仰向けになる。
 廊下から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。スミカとフレナがネカを連れてきたのだろう。

 皺になったワンピースを見て、「何をしているんですか!」とすっ飛んでくるネカを想像し、苦笑いしながらレイナは起き上がり、今更意味も無いかもしれないが、ワンピースを撫で付けて皺を伸ばした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

処理中です...