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レッスン1

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「さて、どちらから演奏しますか?」

 リストの演奏が終わるとレッスンが始まった。
 リストの演奏の後にピアノを弾くなど、差が明らかになるだけだが、これはレイナの社交界デビューのためのレッスンだ。
 自分から弾くべきだろうとレイナが覚悟を決めた時、アイリスがの鈴の音のような声が響いた。

「アイリス、弾きたい!」

 目をキラキラさせてニコニコの笑顔で言ったアイリスに、リストは頷き、レイナが固まっている間に「どうぞ」とエスコートをした。 

 ピアノの椅子にちょこんと腰を下ろしたアイリスがたどたどしく弾き始めたのは、アイドクレース領に伝わる童謡。
 この辺りの子供たちならみんな歌える曲だ。

 アイリスは知的障害を持っている。15になった今でも書けるのは自分の名前とレイナの名前だけ。
 歩けるようになったのは5歳の頃。ちゃんと会話ができるようになったのは10歳の頃だった。

 それでも、幼き頃からピアノには興味を示し、熱で体調を崩しぐずっている時もピアノを聴かせれば笑顔になった。
 今弾いている童謡もたどたどしくはあるが、アイリスが3年かけてようやく弾けるようになったものだ。

 最後の1音を引き終わり、アイリスが膝の上に手を戻すとリストの拍手が響いた。

「アイリス様はとても音楽がお好きなのですね。難しい部分を弾いている時もとても楽しそうでいらっしゃいました」

 リストの言葉を聞き、アイリスの表情が今まで以上に明るくなる。

「アイリス、ピアノ大好きなの」

「えぇ、伝わりましたよ。じゃあ1つアドバイスです。最後のここ、もう1拍置いてから次の音に行った方がもっと素敵な音楽になります」

 リストがアイリスの後ろから手を回し、1フレーズお手本を聴かせるとアイリスは真剣な表情でそれを聴き、すぐさま自分で弾き始めた。

 たどたどしさはまだたるものの、リフトのお手本を1回聴いただけで、アイリスの演奏は格段に良くなった。
 リストは驚きの表情を浮かべ、アイリスを見つめる。
 そして、ソファーで事の成り行きを見守っていたレイナを振り返って興奮した様子で言った。

「レイナ様!アイリス様はとても耳が良いのですね。私が教えたところ以外も、1回聴いただけで直っています」

「確かに、耳が良いとお母様も言っていましたが、それほどですか?」

「はい、これは素晴らしい才能です。アイリス様、私が1度始めから終わりまでお手本を見せるので、真似して貰えますか?」

「はい!」

 リストが演奏した童謡は、今まで聴いてきたよりもリズミカルで軽やかだった。
 リストの演奏が終わると、アイリスの演奏が始まる。
 ミスタッチもあるし、リストのように滑らかな演奏とは言えないが、リストの演奏と同じように軽やかだった。



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