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10【魔法学園1年生 9】
しおりを挟むリリーに案内されたのは、薄暗い3畳程の空間に薄手のカーテンが掛かった部屋だった。
入って正面に小窓がひとつと、1人分の机と椅子が部屋の真ん中にあるだけだ。
「こちらにおかけください。」
シャロンはリリーに従い椅子へ腰掛ける。長年使っているのだろう。使用感のある椅子は、装飾より機能性が重視され座面にも安定感があった。
リリーはシャロンの横に立つと、首にかけていた石を外しシャロンの目の前に置く。
「ここの部屋は通信及び遠隔での情報収集を管理している部屋です。この部屋の中は特殊魔法が施されており、魔力通信を受信しやすくなっております。ではまずは私のネックレスの魔石に手をかざしてください。」
シャロンは言われた通り、エメラルドに輝く魔石へ手をかざす。それに合わせてリリーが呪文を唱える。
「我は汝の主人リリー契約者なり。この者に我の権限の一部を許可する。」
すると魔石は七色に輝き始めた。何度か色を変えたのち、静かにその発光を落ち着かせる。
もしかして何か失敗したかとシャロンは振り返りリリーの顔を見た。しかしリリーは無表情のまま、手を離しもう一度かざすように促してきたので、シャロンは頷くと指示に従う。すると目の前に大きな映像が現れたのだった。
「この魔石が装置の要なのです。只今シャロンさんの事も登録したのでこの石に手をかざせば映像画面を起動する事ができます。さて、魔法学園内には100個の映像魔石が隠されています。これはそこから送られてきているリアルタイムの映像です。」
目の前の映像には校舎中央の吹き抜けを飛び交う生徒達が映し出されていた。話し声や周囲の音もしっかりと聞こえている。
女子生徒がエリザベスに鋭い眼差しで睨まれながらバラ鞭で叩かれたいなどといった話し声が聞こえてしまい、なんだかいたたまれない妙な気分になってしまった。シャロンは思わず本音が口をつく。
「凄いですね。秘密の会話までまる聞こえです。」
「そうですね。エリザベス様にそんな趣味はありませんけどね。」
主人で良からぬ妄想をされ少し気分を害したようだ、返事が素っ気ない。
リリーが指先で映像にそっと触れると、一枚だった映像が細かいマスの目に分かれ一つひとつが違う場面の映像と変わった。
各教室、廊下、校舎入り口、更衣室まで写っている。プライバシーも何も無い。これは盗撮になるのでは?と不安にもなる。
リリーはシャロンの考えている事を察し、生徒手帳の385ページに『国が責任を持ち生徒達の安全を守るため、校内は映像魔石で常に監視しております。』という文があるので問題ないと説明してくれた。
エリザベスを筆頭に構成されているこのハーミット同盟は国王陛下から直々の許可を得ているからこそ、学園でこのような活動を行えるのだという。目的のための正当な使用であれば大抵のことは何とかなるし、プライバシーの侵害だという人物が出ても捻り潰してもらうことが出来る。しかしその代わり陛下からきた任務は確実にこなさなければならないそうだ。
「これが石から送られてきている全ての映像です。全100箇所、シャロンさんのお仕事はこれらの映像を見ながらどこにどの向きで映像石が隠されているか見つけ地図にまとめる事です。これを三日で終わらせてください。……あとこの部屋で映像確認ができるのは毎日午後6時30分から1時間の私が付き添える時間のみです。」
「えぇ!?」
「今日はあと20分程でここのお部屋は閉めます。エリザベス様の湯浴みがありますので。あぁ、それとお伝えし忘れていましたが、試験に合格すると試験官のコードネームを教えてもらえます。是非頑張ってください。」
その後、シャロンは必死に映像魔石が写しているであろうところを覚え、忘れないうちにと早速現場へ探しに向かったのだった。
紙とペンを持っていなかったため自分の記憶力だよりになってしまった。記憶が新しいうちに一刻も早く見つけなくてはと焦る。
まずは最上階の5階にある1年生の教室とその周辺を探索してみる事にした。
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部活動も終わり寮の食堂や大浴場がにぎわっている頃、シャロンは一人教室の前に立っていた。
流石にこの時間の教室は暗い。明かりは廊下の壁に掛けられた魔法蝋燭のみ。これは蝋が溶けずにいつまでも炎を宿すことが出来る蝋燭なのだ。
シャロンは指輪を嵌めている指先に小さな光を灯し軽く息を吹きかけた。光は綿毛のようにふわっと宙へ飛ぶと空中に漂う。それを自分の周りに3つほど漂わせた。これは光の基礎魔法の一つだ。
ここには確か5つの映像魔石が隠されている。一つは黒板の上あたりから生徒たちを見下ろすような角度。あとは教室後方と左右から教室全体を映せる位置。最後に床から見上げる角度の映像だ。
教室をざっと見回しただけではまるでわからなかった。何かこれが映像魔石だと確信が持てるものが見つかると良いのだが。シャロンは考える。
当てずっぽうに探すのも時間の無駄なので、まずは比較的位置が把握しやすそうな黒板の上あたりに絞って探すことにした。学園内とはいえ、簡単に見つけられるようなところに設置しないはずだ。あちこち覗いたり、無駄と分かりながら黒板を叩いたりしながらしばらく探しまわる。
おや?
シャロンは一瞬きらりと光る何かが目を掠めた気がした。気になり目を凝らすと、黒板の上にあるザンダシエラ全体の地図に目が留まる。地名や町名が書かれている文字の横に二つの何かが嵌っていた。一見、わかりやすくするための装飾に見えるが、あれは一対の目だ。直径2㎜未満の小さな真珠のような宝石の目にエメラルド色のドットの瞳が僅かに発光している。
明日の放課後に監視映像で最終確認し確証を得よう。瞳と対峙する位置に移動し見つめる。石そのものに意思がないのは承知の上だがしっかりとこちらを見つめ返してきているような感覚にドキッとする。
シャロンは目線を外し目を閉じると目頭を押さえた。少し休むと再び目を開ける。今度は目線を合わせないように、再度確認した。確証はないが、今はそれが映像魔石だと仮定して残りの4つを探していく。映像から推測した位置の範囲に同じようなものが4つあったことで、シャロンの中では仮定はほぼ確定へと変わっていたが、リリーへの確認は必須だ。
その後、覚えていた他学年の教室など40箇所を確認し終えると、シャロンは自室へと戻り、軽い仮眠を取ったのだった。
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