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09【魔法学園1年生 8】
しおりを挟むリリーの通信から30分でメンバーが揃った。
その間、シャロンは唖然とせざるおえなかった。エリザベスは椅子の背もたれに寄り掛かりながら足を組むと、右腕を肘掛けに乗せ頬杖をついていた。その姿は今までの洗礼された上品さが微塵も感じられなかった。人が変わったようだ。
揃った6人の生徒を従えるエリザベスの前に一人でぽつんと立つシャロンは、今更になって大変な同盟に入りたいと言ってしまったのだなと実感する。それほどまでの変わりようだったのだ。
「皆さん、急な呼び出しに応じてくださりありがとうございます。こちらシャロン・ガロシアさんが我らのハーミット同盟に入りたいそうなので恒例の試験を行いたいと思います。」
「って言うか、エリザベス嬢が猫かぶりをやめてる時点でもう新メンバー決定なんじゃないの?」
短く切り揃えた茶髪の少年が頭の後ろで手を組みながら言った。「あ、ちなみに俺はカイル・タートンね。」とシャロンに向けて笑いかける。
メンバーの中にはペトラとナターシャも居り、ナターシャは「シャロンさーん。」と呼びながら手を振っている。相変わらず可愛いくてシャロンの気持ちが少し軽くなった。
「これがあるから、私は合格で良いと思っているわ。でも皆にも納得した上で仲良くしてほしいから試験はやります。」
エリザベスは手に持っていた封筒をリリーに渡す。それを受け取ったリリーは封を開け順番にメンバーへ見せていった。
「推薦状持ちとか何者!?」
カイルがまさかという表情でシャロンと推薦状を何度か交互に見返す。
ナターシャとペトラは落ち着いた様子で「なるほど。」と一つ頷き、既にエリザベスの考えを受け入れている様子であった。
ただ一人、アスティだけはシャロンを睨みつけたままだった。背後からは黒い霧が漏れ出している。
エリストロ魔法学園において推薦状が発行されることは非常に珍しく、殆どの生徒は試験を受けての入学だ。シャロンも最初は自分の身に起きたことが信じられなかったが、あのなんでもやりそうな祖父が絡んでいたのでなんとなく受け入れていたところもある。
「数少ない闇属性持ち。推薦をもらうには充分な理由よ。それにアスティ達との戦闘を見たけれど、魔法・体術共に実力もあるわ。」
「エリザベス嬢がそこまで言うのなら本当に試験はいらないと思うけど、まぁアスティが納得してないか。」
カイルはちらりとアスティの方を見るが、彼女にひと睨みされると慌てて目を逸らした。
アスティはシャロンに仕掛けたときとは打って変わり今は無言を貫いてるが、否定的なのは明白だ。
「シャロンさんはとある本を探すためにこの学園に入学したそうです。そして、私達もまたとある本を探している。」
エリザベスの言葉にシャロンは目を見開いた。同盟というからには何か目的があるのだろうとは予想出来たが、まさか本を探しているとは。彼女は何かを知っていて同盟に誘ったのだろうか。推薦状を入手している事やその場に居なかったにも関わらず「アスティ達との戦闘を見た」という発言といい、シャロンは彼女に対して底知れぬ怖さを感じずにはいられなかった。
「さて、早速だけど、これからシャロンさんにはメンバー1人ひとりの手伝いをしてもらうわ。それぞれがどのようなことを行っているのか、そして何よりもメンバーとの相互理解に努めてもらいます。」
彼女は話を切り替えるように試験内容を説明し出した。
シャロンは試験というので、戦闘などの激しいものを想像して身構えていたが、"相互理解"とは少し意外で驚いた。しかし、同盟に入る以上、最低限お互いを仲間だと認め合い協力出来る関係でないといけないのは理解出来る。恐らく、一番の難関はアスティだろう。集まったときから現時点で黒い霧の量は増す一方だ。隣に座るエリザベスの顔が霧に覆われ霞だしている。
「では、まず誰からいきましょうか?」と、エリザベスは手入れされた綺麗な爪で1人ずつメンバーを指差し選んでいく。問いかけに対して直ぐに反応したのはリリーだった。
「エリザベス様、私からでも宜しいでしょうか?」
「そうね、一番手には適任ね。リリー宜しく頼むわ。シャロンさん、リリーのいうことをしっかり聞いて第一試験頑張ってくださいね。」
エリザベスの"全ての試験を突破してね"という圧を感じながらシャロンは「わ、わかりました。」と返事をする。そのあと、ナターシャ、ペトラ、カイル、アスティの順で試験を受けることになった。
――――
「改めまして私はエリザベス様の侍従ですが、ハーミットでは情報管理を担当しております。エリザベス様が既に貴方を御認めになっていますので、私からは仕事の内容とあとに続く各メンバーのご紹介を少しさせて頂きます。」
リリーは、自分のあとに続き歩くシャロンに説明をしながら、ルビーの部屋の奥にある扉を開き、短い廊下を真っ直ぐ進んだ。
彼女はシャロンのことを既にメンバーの一員だとした上で試験をするようだ。これはある意味、シャロンにどのような試験をするのかを教えてくれるということなのだろうか。何となく優しさを感じた。
彼女は廊下の突き当たりにある扉の前で立ち止まると、何か呪文を詠唱する。招集をかけたときのように色鮮やかな光に扉が包まれるとカチッと僅かに音が鳴った。厳重にかけられていた鍵が解除魔法によって解かれ、彼女は扉を開いてシャロンに向き直った。
「シャロンさん着きました。こちらが第一試験の部屋になります。この部屋で、明日から三日間、放課後に私の手伝いをしてもらいます。」
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