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05【魔法学園1年生 4】
しおりを挟む「失礼するよ。ここにシャロン・ガルシアは来ている?」
「エ、エルヴィス様!?」
部屋へ入ってきたのは制服を着た細身の男子生徒だった。
シャロン以外の生徒たちにとっては予想外の訪問だったようで、驚きを隠せずアスティは動揺で声が上擦っている。
「ここに居たのはアスティ嬢でしたか、エリザベスがガルシアを探しているのだが来ていないかい?」
シャロンは薬と強打で頭がぐらぐらして前がよく見えないが、自分を呼ぶ声はしっかりと聞こえていた。「私はここにいます!!」と力一杯の声を上げる。
「ブキブキブキー!!」
え?どういうこと?
意味がわからずもう一度叫んでみる。
「ブキブキキー!!!」
は?どうして…?
シャロンの口からは到底人間の言葉ではない、動物の鳴き声のような音ばかりが出る。
眩暈が落ち着いてくると、横向きで横たわっていた体を起こし床に座った。何だか手足も短く感じて動かしにくい。やっとのことで腰を落ち着かせたシャロンは改めて皆んなの方に目を向け驚愕した。
先程まで自分と同じくらいの背丈だった生徒達が急に大きくなっているのだ。
「な、なにこれ!?」と、思わず呟いた言葉もやはり言葉にはなっていなかった。
「ブ、ブキキ︎!?」
「はぁ。」
頭上から溜息が聞こえたと思うと、シャロンは誰かに首根っこを掴まれ持ち上げられる。凄い勢いで地面が遠ざかったため、あまりの恐怖で目がまわる。上昇がぴたりと止まったことに気づき、思わず瞑ってしまった目をそっと開くと、目の前には銀髪の大きな顔があった。こちらをじっと観察している。
「……これ、どういう事?」
彼はシャロンから目を離さず、静かにアスティ達に問う。しかし誰もが押し黙り口を開く様子を見せない。
「シャロン・ガルシア、見てごらん。」
そう言い、シャロンをつまんだ手は壁に掛かっていた鏡の前へと移動した。そこに映し出されていたのは真っ黒な子豚であった。なるほど、あの毒薬は変身薬だったわけだ。シャロンは妙に冷静になった思考で鏡に映った子豚をまじまじと見ていた。
「アスティ嬢、これをやったのは君かい?」
「いいえ!違いますわ!」
即答だった。あまりにもはっきりと言うアスティの言葉にシャロンは思わず勢いよく振り向いてしまう。他の皆んなも堂々と嘘をつく彼女に引いているようだ。直接手を下さなくともやらせたのはお前だろうと心の中で突っ込まずにはいられなかった。
しかし、誰もアスティには意見できないらしく、彼女の言葉を否定する人はいなかった。黙ってしまった彼らにエルヴィスと呼ばれた男はわざと大きく溜息を付くと、シャロンを摘まんだまま何も言わずに部屋を出て行ってしまった。
ちょっとどこに行くのよ!とシャロンは言いたかったが、どうせ子豚の鳴き声しか出ないので諦めた。が、ここである重大なことを思い出す。シャロンの相棒である短剣の行方だ。急いであたりを見まわたすと床の上で静かに横たわり、放置されている短剣を発見した。
「ブキブキキー!(お願い拾ってー!)」と、なりふり構わず全力でエルヴィスに訴えるが願いは届かず、ぐんぐんと部屋から遠ざかっていく。
「ブキキ…。(私の相棒が…。)」と耳をへにゃりと垂らして嘆くシャロンだった。
諦めの境地のまま一体どこに連れて行かれるのやらと、静かにしていると隣の部屋へ入っていった。そこは先程の部屋とは違い、塵一つない綺麗な部屋だった。
壁際に配置された棚には燦爛と輝く小瓶が沢山並べられている。小瓶自らが薄らと光を放っているようで、赤や黄、緑、紫など様々に色が変わる様はとても美しい。
「エリザベス、連れて来た。」
部屋には大きなテーブルを囲むようにして3人の令嬢達が座っている。そのうちの一人がエリザベス・リア・ハウエルズだった。
「ありがとう、兄様。お隣が騒がしいと思ったらやはり虐めていたのね。本当にアスティったら困った子ね。」
エリザベスは手に持っていたカップを置くと椅子からすらりと立ち上がった。シャロンの元まで近づき、目線を合わせるとじっと見つめ小首を傾げた。
ふいにシャロンの鼻先を軽くつつくと「これ元に戻せないの?」と目線を上げエルヴィスに聞く。
「流石に変身薬は嫌だ。」
「そう残念ね…。まあ、とりあえず座って!こちらが貴女の席ね!」
エリザベスは自分の席の隣を示しながらシャロンに向かって言った。なのに彼女が案内した席に何故かエルヴィスが座ると、彼は膝の上にシャロンを乗せる。
この状況は一体何なのだと困惑し、ジタバタと暴れるシャロンだったが、頭をエルヴィスに優しく撫でつけられ、大人しくするように宥められてしまった。
こうして、エリザベスと初めて見る令嬢2人、エルヴィスとその膝の上にいるシャロンとの5人による謎のお茶会が始まったのだった。
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