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13.ノービスミルク売り
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ミルティさんが頑張って出してくれたミルクを今日こそは値切らせないぞと気合いを入れて露店をやっていると見た事のある客が来た。
「よぉ兄さん、相変わらずミルク売ってるな」
尖がり帽子に白髭の男。最初にミルク瓶を売った客だった。白髭なのでご年配だと思われるが、あえて男と称しているのはやけに体つきがしっかりしているのと堂々とした風貌をしているからだ。
「前に買った分はなかなか役に立ったぞ、今日も銅貨3枚にまけてくれ」
「まけませんよ、相場の半分以下じゃないですか!」
「ちっ、こないだはまけてくれたじゃねぇか」
「あれは相場を教えてくれたサービスです」
「なるほど、今回も対価がいるという訳だな。何が聞きたい」
「いや、本当にまけませんからね?」
つい先ほど気合いを入れたところだ、値切られてたまるか。
「そうだな、兄さんはあまり商売に慣れてないと見える、違うか?」
「いや、そうだけど…」
「そしてこの町に来たのも最近だ、そうだな?」
「……」
何も答えていないのに一拍置いて男は頷いた。
「ならこの町についての話はどうだ。どうして露店を開くのに場所代を取られないのか? それにここの市は朝の早い時間帯でも割と賑わってるよな、それは何故だ?」
ぐっ、そういえばそこらへんは気になっていたところだ。だからと言って安々と話に乗っては思う壺。
ここは沈黙で通すことにした。しかし男は満足そうに頷いて続ける。
「やはり知らないか、しかも気になっている」
「……言ってないのになぜ分かる」
魔法か? ノーモーションで発動出来るものなのだろうか?
「なぜかって……っくくく、対価はそっちを教えるのでもいいぜ」
男は不敵に笑う。その挑発めいた反応から察するに、おそらく大したトリックじゃなさそうだ、いや……トリックでもないのか? ジッと男を観察してみる。両手は常に見える位置にあり、何かしている様子はない。代わりに僕の方へと向けた視線を絶えず逸らさずにいた。そういうことか。
「ただの読心術ですね。こちらを観察して反応を見て判断したんだ」
「ははっ、まあな。でもこの町について気になっているのは確かだろう」
「それはそうですが急を要する情報でもないので銅貨3枚にしたりはしませんよ」
「5枚ではどうだ」
「…7枚です」
半額にする気はさすがにないが、銅貨3枚で情報を買ったと考えるならそれも悪くない。
「仕方ない。見かけよりはちょろくはなかったか」
やれやれと男は話し始める。
「外から来る商人に限って場所代を要求しないのは割と最近になっての事だ。というのも、この町の近辺にダンジョンが発生してな、ダンジョンについては知っているな? 何だその曖昧な表情は…。まあ、そのおかげで冒険者がこぞって集まって来たわけだ。中で採れるものには価値があるから、危険に飛び込んででも金銭を得たい連中は我先にとやって来る。そんな訳でこの町には急激に外から来る者が増えた。そうすると今度は色々と足りないものが出てくる。元からあった店では賄い切れなくなって、ついには領主が外の商人に対して場所代を徴収しないことを決めた。それからは訪れる冒険者や商人で賑わってるってところだ」
「なるほど、膨れ上がった需要は外からの供給で補う事にしたと、でもそれってけっこう損してるんじゃないか?」
「いいや、物資不足で冒険者の数が減る方が損だ。放ってたら魔物で溢れるし、ギルドの誘致でそこから税も取れるしな、どうだ? 銅貨5枚くらいにはなったか」
「…7枚です」
そこからさらに一悶着あって結局6枚にまけてしまった。
ごめんよミルティさん、不甲斐無い僕を許しておくれ。
スキットルをあおりミルクを飲む。あー、ほんのり甘くて美味しい。美味いですミルティさん。これがこれ以上、値切られてたまるか! それから先は鋼の意思でどんな交渉ごとにも応じなかった。昼も近づいてきたあたりでも売れ残っていたので、さすがに焦り始めたが粘り続けていたら何とかはけた。
ということで今日の売り上げは銀貨2枚と銅貨6枚。いつものように食材を買っていると見慣れないものが並んでいた。黒に近い紫の卵一つ、ポンと置かれている。しかもやたらと大きい。
「これは?」
「今朝仕入れたばかりのダンジョン産、でかい鳥系魔物の卵だよ、ボリューム栄養共に満点!」
「そんなの食べれるのか?」
「ダンジョン産と聞いてひいてる口かい? 魔物も食う段階までいけば家畜や狩猟動物と何ら変わらないよ。しかもこいつの卵は味も良いと評判だ」
「どんな魔物のなんだって?」
「俺は仕入れてるだけだから聞いた話だけど、陸上を物凄い速度で走って来てサマーソルトやウインドミルといった足技を繰り出してくる巨大鳥らしいよ」
なんだそれ、途中までダチョウをイメージしていたがアグレッシブ過ぎる。そして何気に銅貨6枚もする。買うと明らかに無駄遣いな気がするが、気になる。
「毎度あり!」
結局買ってしまった。
さて、もう一つどうしても買いたいものがある。だがどうやら市にはないらしい。広場を抜けて通りに突き出している看板を見ながらしばらく歩いていると目的の店が見つかった。
買い物を済まし店を出る、そろそろミルティさんが待ってる頃かもしれない、急いで帰ることにした。
ちなみに売り上げから買った分を差し引くと残ったのはわずか銅貨6枚。これまでの分と合わせると銀貨1枚と銅貨6枚だが、このペースで行くと天井の修繕費を貯めるのにたっぷり1ヵ月はかかってしまいそうだ。何か別口の収入も考えないとな。
「よぉ兄さん、相変わらずミルク売ってるな」
尖がり帽子に白髭の男。最初にミルク瓶を売った客だった。白髭なのでご年配だと思われるが、あえて男と称しているのはやけに体つきがしっかりしているのと堂々とした風貌をしているからだ。
「前に買った分はなかなか役に立ったぞ、今日も銅貨3枚にまけてくれ」
「まけませんよ、相場の半分以下じゃないですか!」
「ちっ、こないだはまけてくれたじゃねぇか」
「あれは相場を教えてくれたサービスです」
「なるほど、今回も対価がいるという訳だな。何が聞きたい」
「いや、本当にまけませんからね?」
つい先ほど気合いを入れたところだ、値切られてたまるか。
「そうだな、兄さんはあまり商売に慣れてないと見える、違うか?」
「いや、そうだけど…」
「そしてこの町に来たのも最近だ、そうだな?」
「……」
何も答えていないのに一拍置いて男は頷いた。
「ならこの町についての話はどうだ。どうして露店を開くのに場所代を取られないのか? それにここの市は朝の早い時間帯でも割と賑わってるよな、それは何故だ?」
ぐっ、そういえばそこらへんは気になっていたところだ。だからと言って安々と話に乗っては思う壺。
ここは沈黙で通すことにした。しかし男は満足そうに頷いて続ける。
「やはり知らないか、しかも気になっている」
「……言ってないのになぜ分かる」
魔法か? ノーモーションで発動出来るものなのだろうか?
「なぜかって……っくくく、対価はそっちを教えるのでもいいぜ」
男は不敵に笑う。その挑発めいた反応から察するに、おそらく大したトリックじゃなさそうだ、いや……トリックでもないのか? ジッと男を観察してみる。両手は常に見える位置にあり、何かしている様子はない。代わりに僕の方へと向けた視線を絶えず逸らさずにいた。そういうことか。
「ただの読心術ですね。こちらを観察して反応を見て判断したんだ」
「ははっ、まあな。でもこの町について気になっているのは確かだろう」
「それはそうですが急を要する情報でもないので銅貨3枚にしたりはしませんよ」
「5枚ではどうだ」
「…7枚です」
半額にする気はさすがにないが、銅貨3枚で情報を買ったと考えるならそれも悪くない。
「仕方ない。見かけよりはちょろくはなかったか」
やれやれと男は話し始める。
「外から来る商人に限って場所代を要求しないのは割と最近になっての事だ。というのも、この町の近辺にダンジョンが発生してな、ダンジョンについては知っているな? 何だその曖昧な表情は…。まあ、そのおかげで冒険者がこぞって集まって来たわけだ。中で採れるものには価値があるから、危険に飛び込んででも金銭を得たい連中は我先にとやって来る。そんな訳でこの町には急激に外から来る者が増えた。そうすると今度は色々と足りないものが出てくる。元からあった店では賄い切れなくなって、ついには領主が外の商人に対して場所代を徴収しないことを決めた。それからは訪れる冒険者や商人で賑わってるってところだ」
「なるほど、膨れ上がった需要は外からの供給で補う事にしたと、でもそれってけっこう損してるんじゃないか?」
「いいや、物資不足で冒険者の数が減る方が損だ。放ってたら魔物で溢れるし、ギルドの誘致でそこから税も取れるしな、どうだ? 銅貨5枚くらいにはなったか」
「…7枚です」
そこからさらに一悶着あって結局6枚にまけてしまった。
ごめんよミルティさん、不甲斐無い僕を許しておくれ。
スキットルをあおりミルクを飲む。あー、ほんのり甘くて美味しい。美味いですミルティさん。これがこれ以上、値切られてたまるか! それから先は鋼の意思でどんな交渉ごとにも応じなかった。昼も近づいてきたあたりでも売れ残っていたので、さすがに焦り始めたが粘り続けていたら何とかはけた。
ということで今日の売り上げは銀貨2枚と銅貨6枚。いつものように食材を買っていると見慣れないものが並んでいた。黒に近い紫の卵一つ、ポンと置かれている。しかもやたらと大きい。
「これは?」
「今朝仕入れたばかりのダンジョン産、でかい鳥系魔物の卵だよ、ボリューム栄養共に満点!」
「そんなの食べれるのか?」
「ダンジョン産と聞いてひいてる口かい? 魔物も食う段階までいけば家畜や狩猟動物と何ら変わらないよ。しかもこいつの卵は味も良いと評判だ」
「どんな魔物のなんだって?」
「俺は仕入れてるだけだから聞いた話だけど、陸上を物凄い速度で走って来てサマーソルトやウインドミルといった足技を繰り出してくる巨大鳥らしいよ」
なんだそれ、途中までダチョウをイメージしていたがアグレッシブ過ぎる。そして何気に銅貨6枚もする。買うと明らかに無駄遣いな気がするが、気になる。
「毎度あり!」
結局買ってしまった。
さて、もう一つどうしても買いたいものがある。だがどうやら市にはないらしい。広場を抜けて通りに突き出している看板を見ながらしばらく歩いていると目的の店が見つかった。
買い物を済まし店を出る、そろそろミルティさんが待ってる頃かもしれない、急いで帰ることにした。
ちなみに売り上げから買った分を差し引くと残ったのはわずか銅貨6枚。これまでの分と合わせると銀貨1枚と銅貨6枚だが、このペースで行くと天井の修繕費を貯めるのにたっぷり1ヵ月はかかってしまいそうだ。何か別口の収入も考えないとな。
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