黄昏の王国〜ヒロイン不在の乙女ゲームの世界で私が勇者をつくるまで〜

風来ほっけ

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15・握り潰されていた真実(シナリオ)と可能性(フラグ)2

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「で、その私兵から連絡を受けて研究所を調べさせ、トーヤ・バレンアレンという研究員に行き着いて、4日後には身柄を拘束してた。
 …単純に神殿の前で怪しい行動をしたというだけで、犯罪の立証ができない以上、憲兵に訴える訳にいかなかったから、あくまで個人的な尋問の範囲だったけど。」
 トーヤの捕縛、下手したら誘拐とか監禁でこっちが訴えられる可能性ありな手段だった。
 危ない橋渡らせてごめんなさい我が家の私兵さん達!
 ボーナス出すよう父に進言しとくわ!!

「けど捕まったら割と素直に理由を白状してさ。
 …最初は帝国の工作員か何かで、神殿にスパイを送り込んだんだと思ってたのに、聞いたら理由が明後日の方向で、まあ驚いたのなんのって。
 王子の偽物を作った上で、実は密かに保護してた事にして、王家から報償金をせしめる計画だったらしくて。
 けど似ても似つかないものが出来たから、殺す訳にもいかなくて神殿に捨てたんだとさ。
 研究費が欲しかったらしいんだけど、見れば女みたいな顔した大人しそうな男で、とてもそんな大それた事考えるような奴には見えなかったから。」
 まじか!トーヤが王子の複製作ったのってそんな理由だったの!?
 思った以上にゲス野郎だったわあいつ!!

「…けど、それを聞いてしまったら、奴とやつの研究を、決して表に出すわけにはいかなくなった。」
 そう言ったメルクールの声のトーンが、それまでとは明らかに変化する。

「王子の偽物がもし、本当に作られていたとしても、俺たちにはそれが本物でないと断言できる理由があった。
 …実は12年前に離宮で亡くなったとされる王子は、父さんが助けて、今も生きてる。
 そして俺と父さんは今、その王子を、いずれは王宮に戻す方針で動いてる。
 俺があの日王城に現れたのも、その流れだ。」
 うん、それは知ってる。
 ゲームでも最初のうちの『アローン』は、王太子に戻る為に行動していたのだ。
 けど物語が進むにつれ、アローンは王太子の座より、自分の幸せを考え始める。
 同時に、自分が王になる事が、はたして国の為になるだろうかと。
 そして実際、彼が王家に戻る事になるエンディングはひとつだけで、しかもそれはアローン自身のエンディングではない。
 アローンの攻略が可能となる2周目以降で、ファルコとアローン両方のルートを最後まで進めており(実はある事情によりこの2人の攻略は途中までが一緒だ)、どちらのエンディング条件も満たしている状態で、最後の晩に誰に会いに行くかの選択で誰も選ばなかった場合、それまでずっとわんこだったファルコがマリエルを攫って王都を出奔するという、信じられない事態となる。
 その際、残されたアローンが王家に戻り、数年後の2人が旅先で、彼が王になったと知る事になるこれは、『裏ファルコ爆誕』と呼ばれた、まさかの勇者ヤンデレ化エンディングだった。
 これ以外のルートでは、アローン自身のそれも含めて彼が王位継承権を取り戻す結末はなく、勇者として国を救ったファルコが、王の養子となりいずれは王位を継ぐ事になる筈なのだ。
 という事は今は協力関係にあるものの、次第にアローン自身の意志と商会の思惑が離れていくわけで、もしかしてゴローのストーリーにアローンが影すら登場しなかったのは、途中どこかで2人の主従関係が解消されていたからなのかもしれない。

「…判るだろ?あいつの存在は、こっちにとっては不安定状態の爆薬だ。
 勇者くんの正体とあいつの存在が明るみになれば、こっちが握ってる本物の王子の正当性が一気に危うくなる。
 偽物が作れるって事実がある以上、そっちも偽物だって言われたらそれで終わりなんだ。
 俺たちはそもそも、善意だけでこんな事をしてるわけじゃない。
 商会にメリットがあると判断してなければ、最初からこんなヤバい橋は渡ってない。
 王家に確実に恩を売れるカードを持ってるのに、それが偽物だと少しでも疑われたなら、その時点で完全に俺たちは破滅する。
 だから、あいつとあいつの研究を、表舞台に出すわけにはいかないんだ。
 …幸い、あいつに名誉欲はなくて、あいつにとっては面白い研究対象と、それに必要な資金さえあれば、それがどこであろうと構わないようだから、離れた片田舎に研究所を与えてそこに放り込み、適当に難題な課題を定期的に与え、一生そこに縛り付けて、王都に近づかないよう監視しておくつもりだ。
 そもそも、王家相手に詐欺を働くつもりだった男だからな。
 それを未然に防いで、犯罪者となる事を防いでやった上、望みのものを与えてやるんだから、優しすぎるくらいだろ?」
 メルクールはそう言って私の肩を、より強く引き寄せた。
 ……うわあ、笑顔が黒い。

「というわけで姉さんも、この件は他言無用でお願いします。
 …そもそも勇者くん本人には、まったく罪はないわけだしさ。
 姉さんの手を必要以上に煩わせるようなら、こっちも考えがあるけど、それだけ。
 ……お茶、冷めちゃったね。淹れ直してあげるよ。」
「…お願いするわ。」
 気候は暖かいのに、なんだか薄ら寒い気がする。
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