俺はどうしても主人公になれない

もぐのすけ

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コメディ編

22話 聖夜につき

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「いらっしゃい加藤君。ゆっくりしていってね」

 リビングにちょこっとだけ顔を出した。
 里美のお母さんがおり、見た目通りに優しそうな人だ。
 お義父とうさん…………失礼。
 里美のお父さんはまだ帰ってきていないようだ。

「お邪魔します。あまり長居しないようにしますので」
「気にしなくていいのよ。なんなら泊まっていく?」

 親公認ゲッツ。
 それはつまり…………そういう展開になってもいいということだよな?
 俺はそこらの草食系男子じゃないんだぜ?
 下心はもちろんあるし、チャンスがあるなら飛びつくつもりだ。
 だってまだ手を繋いでしかないんだぜ?
 今時こんな健全なお付き合いあるかよ。
 俺は今日、男になる!!

「清正も夜には帰るってば。ほら、部屋行こ?」

 そんな事は無かった。
 本人が却下した。
 すいませんでした。

 里美はリビングを出るとそのまま階段を上っていった。
 俺ももちろんその後ろについて行く。

「里美の部屋は2階にあるんだな」
「うん」
「1人部屋ってのはやっぱりいいよな」
「あれ? 清正も1人部屋じゃなかった?」
「まぁ…………微妙だよな。ふすまで仕切られてるだけだからテレビの音とかダダ漏れだし。それで妹とケンカになる」
「あ~凄い想像できる」

 階段を上り右に曲がると突き当たりに扉があり、表に『SATOMI LOOM』というシャレオツなネームプレートが掲げられていた。

「どうぞ~」

 里美が扉を開け、中へと案内する。

 うん。
 整ってんな~…………。
 勉強机にベッド。
 小さなテーブルが一つに控えめな大きさのテレビ。

 俺と違ってガサツな所がない。

「おお…………掃除した?」
「そりゃしたけど……だから元から綺麗だってば。じゃあそこ座ってていいよ。お茶とってくるね」

 そこって…………ベッドじゃん。
 いいのか?
 ベッドに座っていいのか?
 じゃあ遠慮なく座るぜ。
 ハァハァ…………って変態か俺は!!

 be cool……。

「それじゃあ失礼して。ついでに茶菓子も追加してよ」
「うわっ。厚かましい発言だ」
「なんてね。ちゃんと俺が買ってきてっから必要ねーよ」

 そう言って俺はカバンから、道中どうちゅうに買ったロールケーキを取り出した。

「え、いつの間に買ってたの!?」
「はっはっは。企業秘密だ」

 企業秘密っつーか、本当は最寄駅に行く前に買っておいただけだ。
 普通のケーキにすると、カバンの中に入れた時に形が崩れそうだったのでロールケーキにした。

「じゃあとってくるね」

 そう言って里美は出て行った。
 部屋に残された俺は特に何をするわけでもなくボーっとしていた。
 無心にならないとソワソワしてしまうからだ。
 落ち着かないこの気持ち。
 彼女の家に来たことがある奴なら分かるだろう。

 ふと勉強机を見ると、中学の時の卒アルがあるのを発見した。

「懐かしいな……」

 手に取って中を見てみる。
 懐かしい顔触れが並んでいた。
 その卒アルの写真の中に、俺と桐生が2人で並んで笑い合っている写真があった。
 もちろんカメラ目線というわけではない。

「こんなピックアップされてる写真があったのか……」

 別に俺は友達がいなかったわけではない。
 桐生と一番仲が良かったというだけだ。
 だが、桐生はあまり友達が多いとは言えなかっただろう。
 女の子からの人気は凄まじいものがあったが、男子と遊んでいるのをあまり見たことがない。
 それは今も変わらないが…………。

 里美は…………お、いた。
 笑ってる所なんか今とあまり変わらないよな~。
 まぁたったの1、2年しか経ってないし当たり前だけど。
 それでも今の方が垢抜けてるよな。
 高校入ってからのほうが可愛くなった。

「お待たせ~…………って卒アル? うわぁ私も最近見てなかったなぁ。懐かしい!」

 お茶が乗ったお盆をテーブルに置き、里美が俺の隣に腰掛け、俺の手元にある卒アルを覗き込んできた。
 フワリとした甘い香りが俺の鼻をくすぐる。

 なんだか少し照れ臭くって。
 俺は座り直すフリをして微妙に距離をとった。

「何だか幼く見えるね~。ほら、清正の一年生の時なんて子供みたい!」
「うるせ。そしたらお前も化粧なんてしてないから芋っぽいじゃんか」
「芋っぽいってひどくない!? どうせ清正には私の魅力は分かりませんよー」

 里美がプイっとそっぽを向く。
 どうしようもなく可愛い。

 美咲ちゃんが同じことをしても、同じように可愛いと思うのだろうけど、何かが違う。
 これが惚れてるってことなんだろうか?
 だとしたら、何て耐え難いものなんだろう。

 こんな感覚、経験が無い今だからこそ得られるものなのかもしれない。
 時が経てば自然とこの感情も薄れていくのだろうか。
 それなら俺は、今を大切にしたい。

「お前の魅力は嫌と言うほど分かるよ……。だから何度も言ってるんだ。俺はお前に惚れてるんだよ、里美」
「ふえっ!? な、な、何よ急に……。そんなハッキリ言わなくても……」

 俺は里美の目をじっと見つめる。
 里美は目を泳がせながら、ワタワタと顔を赤らめていた。

 俺は覚悟を決めた。
 絶対目は逸らさない。

「里美はどうなんだよ?」
「うえぇ………………? い、言わなきゃダメかな…………?」

俺は無言で頷く。

「う………………………………うん。私も清正のこと…………好きだよ」

 そう答え、スッと目を閉じる里美。
 俺は彼女の頰に手を添え、そして徐々に顔を近づ………………。

「や、やっぱ無理ーーーーーーー!!」

 突き飛ばされた。
 あまりの出来事に思わず放心してしまう俺。

 ………………マジ?

「あ! ご、ごめん清正! 違うの! 嫌とかそういうことじゃなくて、恥ずかしすぎて心臓止まるっていうか……まだ早いっていうか……! とにかく悪気があったわけじゃないの!」

 パタパタと顔を手で仰ぎながら必死で弁明する里美。
 突き飛ばされた瞬間、ショックで死んだかと思った。

「そ、そっか……。いや、悪いな。雰囲気で何となく…………。それにしてもビビった~、ガチで今泣きそうだったわ」
「ご、ごめんって! あ、ほら見て! 外! 雪降ってるよ!」

 急いで話題を変えた里美は窓へと駆け寄った。
 つられて俺も外を見ると、パラパラと雪が降り始めていた。

「本当だ……」
「凄いね、ホワイトクリスマスだ!」

 そう言って里美は窓を開けた。
 恐らく本音は、火照ほてった顔を冷ましたいという意図があるのだろう。
 何故分かるのか?
 だって俺も同じだから。

「ゴメンね清正」
「もういいって。俺の方が配慮足りてなかったよな。ゴメン」

 外を眺めながら沈黙になる。
 拒否された以上、バツが悪くて言葉が出てこない。
 自分が思っている以上にショックだったみたいだ。

「いつか……」
「?」

 里美が口を開く。

「いつか私の準備ができるまで……待っててくれる?」
「………………ああ、いくらでも。待つことには慣れてるんだ」
「えへへ、ありがとう」

 俺達はお互いにはにかみながら、窓を閉めて部屋へと戻った。
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