怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ

文字の大きさ
上 下
130 / 135
サマーバケーション勧誘編

夏休み④

しおりを挟む
 ケーキを買い、店を出て俺達は瑞都みずと高校へと戻った。
 箱の中には20分保つドライアイスを入れてもらっているが、この暑さだ、寄り道はせずに真っ直ぐ向かう。
 学校に戻ったところで丁度サッカー部が校門の周りに集まっているのが見えた。
 たぶんこれから外周を走らされるのだろう。
 このクソ暑い中ご苦労様なことである。

 部員を見るのは東京Vヴァリアブルに完膚なきまで叩きのめされていた時以来だ。
 全国大会出場にも手が届くと言われ、自分達の強さに自信があった時になす術もなく負け、彼らの気持ちは折れずに来れたのだろうか。
 そこで反骨心を見せた選手はいたのだろうか。

 ───果たして俺だったら、心が折れずに戦うことが出来たのだろうか。
 完膚なきまでに負けたような経験はないが、少なくとも怪我をして心が折れた経験はある。
 そう考えると意外と俺は…………メンタルが弱いのか?
 いや……サッカーができないと言われれば誰でも心折れるよな。

「全員、体をしっかりほぐせよ。怪我しないようにな」

 そう呼び掛けていたのは元鹿島オルディーズのエース、狩野隼人だった。
 賢治との一対一に負け、最後まで何もさせてもらえず試合を終えたあの選手は、一見して変わらず部内でもリーダーシップを取っているようだった。

(そういえば狩野は弥守の謀略で卒業後はクシャスラFCに所属することが決まっているんだっけか)

 そのモチベーションがあれば大敗を喫したとしても、自分の練習を怠るわけにはいかないだろう。
 プロの世界は実力を示さなければ容赦なくクビを切られる世界だし、いつまでも立ち止まってなんていられない。
 常に後から後から、優秀な選手が自分を追い越していくかもしれないのだから。


 練習の邪魔をしないように脇をすり抜けようとしたところで、聞き慣れた元気な声に呼び止められた。

「あー! 梨音っちに前橋っち、それと高坂っちだ! なーにしてんの外から戻ってきて」

 腕を捲り、部員に負けず劣らずの汗を額から流しているサッカー部のマネージャー、桜川さくらがわ美月みずきだった。
 どうやら給水のボトルをカゴに入れて部員のために準備しているようだった。
 俺達を見つけるやいなや重そうなカゴを揺らしながら笑顔で走り寄ってきた。
 笑うと八重歯がちらりと顔を覗かせる。

「美月だ。暑い中大変だね」

「選手のみんなに比べたら全然だよ! むしろこれぐらい汗かいた方が気持ちいいまである!」

「ええ……」

 前橋が冗談でしょとでも言いたげな表情をする。
 どこまでインドア派になったんだ。

「そうそう美月、ついでに聞きたいことあるんだけど少し時間ある?」

「うん? あるよー。みんなが走って戻ってくるのをタイム測りながら待つだけだし、そのタイムは他の先輩が測ってくれてるから」

「じゃあさ、今度夏休み期間中にみんなで海に行こうと思ってるんだけど来る?」

「え!? 海!? 行く行く絶対行く!! 行かない選択肢が無い!」

 予想以上な食いつき方。
 新之助と同じくらいの熱量を感じる。

「部活の方は大丈夫なのか?」

「一日ぐらい先生に言えば大丈夫だよ。マネージャーは他にもいるし」

「ちなみに他のメンツはここにいる3人だろ? それと新之助とニノと八幡かな」

「八幡さん? とはあんまり絡みないから初めましてかな。ニノって確かおとなしめの人だよね」

 そうだっけ?
 イベント事は大体桜川もいた気がするが、確かに放課後は一緒にならないし勉強会の時も桜川はいなかったな。
 でもニノも八幡もお前のことは超知ってると思うぞ。
 二人に限らず俺のクラスの奴らなら入学初期の頃の桜川のストーカー具合見てたからな。

「知らない人いても大丈夫そ?」

「もちろん! 全然仲良くなる自信あるし!」

「流石すぎる」

 見た目も可愛いし愛嬌も良いときた。
 こりゃサッカー部内でもモテるんじゃなかろうか。
 狙ってるやつは多そうだな。

「じゃあまた時間とか決まったら連絡するね」

「はーい。新しく水着買わなきゃなぁ」

 そう言って桜川はるんるんで戻っていった。

「水着……」

 水着という言葉に反応を示す前橋。
 海行くようの水着持ってるんだろうか。
 ちなみに俺は持ってない。
 プールにも海にも行ったことがないからだ。
 持ってるとしても学校で使う紺色の無地の水着のみ。

「前橋…………スクール水着着てくるとかいうボケかますなよ」

「しないよ!」

 一応、釘刺しておかないと、一緒にいるこっちが恥ずかしめに合うからな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~

くまたに
青春
冷姫と呼ばれる美少女と友達になった。 初めての異性の友達と、新しいことに沢山挑戦してみることに。 そんな中彼女が見せる幸せそうに笑う表情を知っている男子は、恐らくモブ一人。 冷姫とモブによる砂糖のように甘い日々は誰にもバレることなく隠し通すことができるのか! カクヨム・小説家になろうでも記載しています!

処理中です...