125 / 135
アルバイト勧誘編
エピローグ
しおりを挟む
期末試験を迎えるまでの間、俺達は定期的にニノの家に集合しては期末試験に向けての対策勉強を行っていた。
その後のニノと一家の人達の関係は良好らしい。
ニノには俺と梨音の関係性は知られてしまったが、その後に新之助がイジってこないということは秘密のままにしてくれているみたいだ。
今さらバラされたとしてもやましいことは何もないわけだし、梨音と幼馴染であることは皆んな知っている。
俺達の関係性ごときで人一人が幸せになるのなら安いものだ。
「新之助様は少々お頭に問題を抱えていらっしゃるようで」
「うるせー! 妖怪メイド婆!!」
新之助の保健体育以外の壊滅的な学力は俺達の手に余るものだったようで、助っ人ことメイド長の牧村さん(妻)に勉強を教えてもらうことになったのだが、案の定水と油だったようで、勉強の行く末は難航していた。
「鈴華さんだ! 鈴華さんを呼んでくれ!」
「鈴華さんは勉強あまり得意じゃないよ」
「ぐぬぬ……」
「も~、私が代わりに教えるから。試験まで時間ないんだから真面目にやりなさいよ」
「…………まぁ八幡でもいいか」
「〝八幡〟でも…………?」
「教えてもらうなら八幡がいいなあ!! もう八幡しか勝たん!!」
不意な失言に睨みつけられ、慌てて訂正をする新之助。
お前の脇が甘いのはそういうところだ。
「新之助、真面目にやらないとまた保健体育以外全部赤点取るぞ」
「鬼真面目だっつーの。真面目という言葉を擬人化したらたぶん俺になる」
「世も末だな」
前橋は現代文と古文に頭を抱えつつ教科書と睨めっこしていた。
逆に数学と情報処理に関してはこちらが学ぶことが多かった。新之助ほど尖った成績ではないが、生徒会会計としての能力の高さには目を見張るものがある。
「むむむ…………」
「前橋、せっかくニノがいるんだから古典に関してはニノを使った方がいいぞ」
「う、うん……。ニノ、お願いします」
「僕に任せてよ。ラ行変格活用を暗記で言えるようにしてあげる」
「微妙過ぎるだろ」
とはいえニノに任せておけばある程度大丈夫なのは間違いない。
現代文に関しては特段俺が教えられることはない。
暗記するか表現力を読書等で伸ばすしかないだろう。
数時間後、一家で夕飯をご馳走になってから、俺達は帰路へと着いた。
明日からの期末試験に向けて、個人的には不安要素はあまりない。
少なくとも、赤点を取るようなことはないだろう。
「少し遅くなっちゃったね。家に帰ったら21時過ぎちゃうよ。お店の方は大丈夫かな」
「問題ないだろ、今日はもっちーさんいるみたいだし」
「そうだよね」
そこからしばらく沈黙が続いた。
暗くなった夜道に車や人通りはあまり多くなく、俺達の足音だけが小気味良く響いている。
時折、梨音が小走りになることに気付き、俺は少し歩くペースを落とした。
「ありがとう」
「普通のことだろ」
少し前であれば梨音が小走りになることはなかった。
というのも足を痛めていた俺に、梨音がペースを合わせてくれていたからだ。
だが今は俺の足が復調したことにより、俺の歩くペースが無意識に速くなってしまっていた。
だから以前に梨音がしてくれていたように、俺が歩くペースを落とすのは当然のことなんだ。
周りの人と足並みを揃え、協調性を持つ。
俺が再び身を投じる世界には協調性は求められても足並みを揃えることはない。
他を出し抜くか出し抜かれるかの世界。
自分の行く末を考えているうちに家へと着いた。
この時間になるといつも通う常連のオジさん達が集まって酒盛りをしている。
そんな中にもっちーさんは上手く溶け込んで対応していた。
ゲームが好きだと言っていたもっちーさんだったが、そこは流石の大学生。
酔っ払ったオジさん達のセクハラ紛いなトークも華麗にかわしてみせていた。
「望月ちゃん酒注いでくれよ! 女の子に注いでもらう酒が一番美味えわ!」
「いやいやそんなことないっすよー。それに自分まだ19っすから。1月で20歳なんすけど」
「ええっ!? まだ10代かよ!」
「望月ちゃんみたいな若い女の子が入ったからか、この店も華が出てきたな!」
「あら、私だけじゃ華が足りませんか?」
梨音のお母さんがにこやかに言った。
でも目が笑ってねぇ。
殺気がダダ漏れになってるのが分かる。
「あ、いや……梨花さんが一番」
「もう最強です」
「佐藤さんも内田さんも、ウチはそういうお店じゃないから従業員にセクハラ要望するのはやめてくださいね」
「「すんません……」」
母は強し。
さすが若元オジさんを尻に敷いているだけのことはある。
「…………裏から入るか」
「…………そうだね」
俺達は見つかって絡まれる前に裏口へと回り込んだ。
「でも梨音が手伝いしてるところを見てもあの二人はセクハラ発言しないのに。お前魅力足りないんじゃないか?」
「これから凄くなるのよ」
「具体的には?」
「私を視界に入れた人がみんな気絶する」
「もはやそういう兵器だろそれは……」
俺達はコッソリと裏から家に入り、それぞれの部屋に戻った。
風呂に入り、一通りの準備を済ませて早々に布団の中へと潜り込む。
期末テスト、生徒会、サッカー。
取り組むべきことは多いが、妥協はしない。
「大丈夫…………きっと上手くいく」
何かを蔑ろにはしたくない。
時折、店から聞こえてくる喧騒を耳にしながら、俺は静かに眠りに落ちていった。
その後のニノと一家の人達の関係は良好らしい。
ニノには俺と梨音の関係性は知られてしまったが、その後に新之助がイジってこないということは秘密のままにしてくれているみたいだ。
今さらバラされたとしてもやましいことは何もないわけだし、梨音と幼馴染であることは皆んな知っている。
俺達の関係性ごときで人一人が幸せになるのなら安いものだ。
「新之助様は少々お頭に問題を抱えていらっしゃるようで」
「うるせー! 妖怪メイド婆!!」
新之助の保健体育以外の壊滅的な学力は俺達の手に余るものだったようで、助っ人ことメイド長の牧村さん(妻)に勉強を教えてもらうことになったのだが、案の定水と油だったようで、勉強の行く末は難航していた。
「鈴華さんだ! 鈴華さんを呼んでくれ!」
「鈴華さんは勉強あまり得意じゃないよ」
「ぐぬぬ……」
「も~、私が代わりに教えるから。試験まで時間ないんだから真面目にやりなさいよ」
「…………まぁ八幡でもいいか」
「〝八幡〟でも…………?」
「教えてもらうなら八幡がいいなあ!! もう八幡しか勝たん!!」
不意な失言に睨みつけられ、慌てて訂正をする新之助。
お前の脇が甘いのはそういうところだ。
「新之助、真面目にやらないとまた保健体育以外全部赤点取るぞ」
「鬼真面目だっつーの。真面目という言葉を擬人化したらたぶん俺になる」
「世も末だな」
前橋は現代文と古文に頭を抱えつつ教科書と睨めっこしていた。
逆に数学と情報処理に関してはこちらが学ぶことが多かった。新之助ほど尖った成績ではないが、生徒会会計としての能力の高さには目を見張るものがある。
「むむむ…………」
「前橋、せっかくニノがいるんだから古典に関してはニノを使った方がいいぞ」
「う、うん……。ニノ、お願いします」
「僕に任せてよ。ラ行変格活用を暗記で言えるようにしてあげる」
「微妙過ぎるだろ」
とはいえニノに任せておけばある程度大丈夫なのは間違いない。
現代文に関しては特段俺が教えられることはない。
暗記するか表現力を読書等で伸ばすしかないだろう。
数時間後、一家で夕飯をご馳走になってから、俺達は帰路へと着いた。
明日からの期末試験に向けて、個人的には不安要素はあまりない。
少なくとも、赤点を取るようなことはないだろう。
「少し遅くなっちゃったね。家に帰ったら21時過ぎちゃうよ。お店の方は大丈夫かな」
「問題ないだろ、今日はもっちーさんいるみたいだし」
「そうだよね」
そこからしばらく沈黙が続いた。
暗くなった夜道に車や人通りはあまり多くなく、俺達の足音だけが小気味良く響いている。
時折、梨音が小走りになることに気付き、俺は少し歩くペースを落とした。
「ありがとう」
「普通のことだろ」
少し前であれば梨音が小走りになることはなかった。
というのも足を痛めていた俺に、梨音がペースを合わせてくれていたからだ。
だが今は俺の足が復調したことにより、俺の歩くペースが無意識に速くなってしまっていた。
だから以前に梨音がしてくれていたように、俺が歩くペースを落とすのは当然のことなんだ。
周りの人と足並みを揃え、協調性を持つ。
俺が再び身を投じる世界には協調性は求められても足並みを揃えることはない。
他を出し抜くか出し抜かれるかの世界。
自分の行く末を考えているうちに家へと着いた。
この時間になるといつも通う常連のオジさん達が集まって酒盛りをしている。
そんな中にもっちーさんは上手く溶け込んで対応していた。
ゲームが好きだと言っていたもっちーさんだったが、そこは流石の大学生。
酔っ払ったオジさん達のセクハラ紛いなトークも華麗にかわしてみせていた。
「望月ちゃん酒注いでくれよ! 女の子に注いでもらう酒が一番美味えわ!」
「いやいやそんなことないっすよー。それに自分まだ19っすから。1月で20歳なんすけど」
「ええっ!? まだ10代かよ!」
「望月ちゃんみたいな若い女の子が入ったからか、この店も華が出てきたな!」
「あら、私だけじゃ華が足りませんか?」
梨音のお母さんがにこやかに言った。
でも目が笑ってねぇ。
殺気がダダ漏れになってるのが分かる。
「あ、いや……梨花さんが一番」
「もう最強です」
「佐藤さんも内田さんも、ウチはそういうお店じゃないから従業員にセクハラ要望するのはやめてくださいね」
「「すんません……」」
母は強し。
さすが若元オジさんを尻に敷いているだけのことはある。
「…………裏から入るか」
「…………そうだね」
俺達は見つかって絡まれる前に裏口へと回り込んだ。
「でも梨音が手伝いしてるところを見てもあの二人はセクハラ発言しないのに。お前魅力足りないんじゃないか?」
「これから凄くなるのよ」
「具体的には?」
「私を視界に入れた人がみんな気絶する」
「もはやそういう兵器だろそれは……」
俺達はコッソリと裏から家に入り、それぞれの部屋に戻った。
風呂に入り、一通りの準備を済ませて早々に布団の中へと潜り込む。
期末テスト、生徒会、サッカー。
取り組むべきことは多いが、妥協はしない。
「大丈夫…………きっと上手くいく」
何かを蔑ろにはしたくない。
時折、店から聞こえてくる喧騒を耳にしながら、俺は静かに眠りに落ちていった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。


可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる