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アルバイト勧誘編
不意強襲③
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「高坂っち~お疲れ~!」
コート外で観戦していた梨音、桜川、前橋が駆け寄ってきた。
「優勝さすがすぎるよ高坂っち! もう全然サッカーできるじゃん!」
「でもまた無理したでしょ。まだ足完治してないのにさ」
「しょうがないだろ。あんな正面空いてたら誰だって走る選択肢以外ないぞ」
「よく分かんないけど…………そうなの?」
梨音の問いかけに桜川と前橋が同時に頷いた。
さすがサッカー経験者は分かってくれるか。
「それに、私達とやった時よりもレベル高かった」
「前橋っちならついていけるかもだけど、私じゃ無理かな~。すぐパスミスしそう」
「そんなことないと思うけど……」
「修斗は早く着替えてきなよ。私達待ってるから」
梨音に促され、俺は更衣室に行き汗の処理をし、膝に巻いていたテーピングを張り替え、私服姿へと着替えた。
少し膝に痛みはあるが、以前と比べると遥かにマシになっている。
全力のダッシュを一本入れてもこの程度の痛みということは、リハビリが徐々に効果を表しているということだ。
諦めずにやってきて良かった。
梨音達の元へ戻ると、さっそくこの後どこでご飯を食べるか話していたところだった。
「この前食べに行ったチェーン店とは別のところ行きたいよね~」
「きいは食べたいものとかある?」
「……特にない」
「ジャンキーにマックとか!」
「修斗食べないんじゃないかな。またサッカー始めたってことは当時みたいに体に悪い物とか控えてるし」
「ストイックマンじゃん!」
「ストレッチマンみたいに言うな」
「高坂来た」
合流早々突っ込ませるな。
中学の時にも誰かにおんなじツッコミした記憶あるぞ。
「別にファストフード系でも構わないよ。率先してそういうものを食べないってだけだから。当時ほど厳しくしてるわけじゃないさ」
「じゃあマック決定! レッツゴー!」
「桜川元気良すぎ」
「動いてないから体力有り余ってるんだよきっと」
「わたし小学生じゃないよ!?」
フットサル会場から出て最寄り駅へと向かう途中、河川敷近くを通っていた。
日の光が反射し、水面がキラキラと輝きを放つ川を澄ましたように眺めながら歩く。
土日の休みに午前中はフットサルをし、そのまま友達とご飯を食べに行く。
高校生らしいかと言われればなんとも言えないが、いかにも学生生活というものを満喫している。
当時の俺の脳内にはサッカー以外の選択肢は無く、ましてや女友達なんてのも梨音ぐらいのものだった。
別にクラスメイトに嫌われていたわけではないと思うが、そもそも俺がサッカー以外のことについて眼中に無かったというのが正しい。
梨音も別に女としてというよりも幼馴染としての認識しかしてなかった。
だから今、サッカー以外の世界観を知りながらも改めてサッカーへの情熱を捧げようとしている俺は、私生活とサッカーの両立というものへ挑戦しているのかもしれない。
サッカーへ全てを捧げなくても俺は昔のようにやっていけるのだろうと。
ただ効率良くやれる術を知ったのだと。
だが、現実は自分の思い通りに進むことなんて決してない。
当時、俺が大怪我を負ったように、良いところを両方取りできるほど世の中は甘くはない。
俺はそれを思い出す。
「…………ん?」
前からランニングをしてくる男。
それに、その後ろから自転車で追いかけている女。
すぐに全身の毛がざわりと逆立つのを感じた。
こんな何もないところで、まさかこんなタイミングで出会うとは思わなかった。
「はっ……はっ……はっ…………ん? おお!?」
「あら」
前から来たのは東京Vのユース選手にしてかつての俺の親友、神上涼介。
そして自転車に乗っていたのは俺がサッカーを再開しようと決心することを決定付けた鷺宮=アーデルハイト=弥守。
俺が今会いたくない人物ナンバー1、2揃い踏みだ。
「修斗! それに若元か? 奇遇じゃないかこんなところで!」
「そうだな。そっちはランニングか?」
俺は至って冷静ですと言わんばかりに受け答えをした。
正直、内心穏やかではない。
いや、これは別に涼介に対して恨み辛みがあるというわけではもちろんない。
強いて言えば弥守に対しては恨み辛みがあるが、涼介に会いたくない理由は前と同じ、嫉妬心からだ。
「ああ。俺は昔から練習前にこの道を走るのが日課なんだ」
「相変わらず努力してんなぁ」
「当時のお前ほどじゃないけどな。試合に負けた理由を自分のせいにはしたくない」
涼介ほどの才能があっても、こいつは努力をすることをやめない。
だから当時の俺はこいつと気が合ったのかもしれない。
「高坂っち、この人って東京Vの神上涼介選手だよね?」
「そうだよ」
「きゃー! 凄い本物だ! 世代別日本代表の至宝、ヴァリアブル世代の筆頭とも言われる選手! 初めまして握手してください!」
おいオタク出てるって。
つーか初対面の人に遠慮なく握手求めんのスゲーな。
前橋なんかキョドッて梨音の後ろに隠れてんじゃねーか。絶対涼介のこと知ってるくせに。
「握手ぐらい全然構わないさ。修斗達はどこかに出掛けていたのか? 随分と可愛い子達を連れているじゃないか」
「可愛いだなんてそんな」
「お世辞上手くなったね涼介君」
「…………」
「可愛いとか言うと全員調子乗るからやめとけ」
桜川に頭を叩かれ、梨音にはケツを蹴られ、前橋には二の腕をつねられた。
釘刺しただけじゃん。
コート外で観戦していた梨音、桜川、前橋が駆け寄ってきた。
「優勝さすがすぎるよ高坂っち! もう全然サッカーできるじゃん!」
「でもまた無理したでしょ。まだ足完治してないのにさ」
「しょうがないだろ。あんな正面空いてたら誰だって走る選択肢以外ないぞ」
「よく分かんないけど…………そうなの?」
梨音の問いかけに桜川と前橋が同時に頷いた。
さすがサッカー経験者は分かってくれるか。
「それに、私達とやった時よりもレベル高かった」
「前橋っちならついていけるかもだけど、私じゃ無理かな~。すぐパスミスしそう」
「そんなことないと思うけど……」
「修斗は早く着替えてきなよ。私達待ってるから」
梨音に促され、俺は更衣室に行き汗の処理をし、膝に巻いていたテーピングを張り替え、私服姿へと着替えた。
少し膝に痛みはあるが、以前と比べると遥かにマシになっている。
全力のダッシュを一本入れてもこの程度の痛みということは、リハビリが徐々に効果を表しているということだ。
諦めずにやってきて良かった。
梨音達の元へ戻ると、さっそくこの後どこでご飯を食べるか話していたところだった。
「この前食べに行ったチェーン店とは別のところ行きたいよね~」
「きいは食べたいものとかある?」
「……特にない」
「ジャンキーにマックとか!」
「修斗食べないんじゃないかな。またサッカー始めたってことは当時みたいに体に悪い物とか控えてるし」
「ストイックマンじゃん!」
「ストレッチマンみたいに言うな」
「高坂来た」
合流早々突っ込ませるな。
中学の時にも誰かにおんなじツッコミした記憶あるぞ。
「別にファストフード系でも構わないよ。率先してそういうものを食べないってだけだから。当時ほど厳しくしてるわけじゃないさ」
「じゃあマック決定! レッツゴー!」
「桜川元気良すぎ」
「動いてないから体力有り余ってるんだよきっと」
「わたし小学生じゃないよ!?」
フットサル会場から出て最寄り駅へと向かう途中、河川敷近くを通っていた。
日の光が反射し、水面がキラキラと輝きを放つ川を澄ましたように眺めながら歩く。
土日の休みに午前中はフットサルをし、そのまま友達とご飯を食べに行く。
高校生らしいかと言われればなんとも言えないが、いかにも学生生活というものを満喫している。
当時の俺の脳内にはサッカー以外の選択肢は無く、ましてや女友達なんてのも梨音ぐらいのものだった。
別にクラスメイトに嫌われていたわけではないと思うが、そもそも俺がサッカー以外のことについて眼中に無かったというのが正しい。
梨音も別に女としてというよりも幼馴染としての認識しかしてなかった。
だから今、サッカー以外の世界観を知りながらも改めてサッカーへの情熱を捧げようとしている俺は、私生活とサッカーの両立というものへ挑戦しているのかもしれない。
サッカーへ全てを捧げなくても俺は昔のようにやっていけるのだろうと。
ただ効率良くやれる術を知ったのだと。
だが、現実は自分の思い通りに進むことなんて決してない。
当時、俺が大怪我を負ったように、良いところを両方取りできるほど世の中は甘くはない。
俺はそれを思い出す。
「…………ん?」
前からランニングをしてくる男。
それに、その後ろから自転車で追いかけている女。
すぐに全身の毛がざわりと逆立つのを感じた。
こんな何もないところで、まさかこんなタイミングで出会うとは思わなかった。
「はっ……はっ……はっ…………ん? おお!?」
「あら」
前から来たのは東京Vのユース選手にしてかつての俺の親友、神上涼介。
そして自転車に乗っていたのは俺がサッカーを再開しようと決心することを決定付けた鷺宮=アーデルハイト=弥守。
俺が今会いたくない人物ナンバー1、2揃い踏みだ。
「修斗! それに若元か? 奇遇じゃないかこんなところで!」
「そうだな。そっちはランニングか?」
俺は至って冷静ですと言わんばかりに受け答えをした。
正直、内心穏やかではない。
いや、これは別に涼介に対して恨み辛みがあるというわけではもちろんない。
強いて言えば弥守に対しては恨み辛みがあるが、涼介に会いたくない理由は前と同じ、嫉妬心からだ。
「ああ。俺は昔から練習前にこの道を走るのが日課なんだ」
「相変わらず努力してんなぁ」
「当時のお前ほどじゃないけどな。試合に負けた理由を自分のせいにはしたくない」
涼介ほどの才能があっても、こいつは努力をすることをやめない。
だから当時の俺はこいつと気が合ったのかもしれない。
「高坂っち、この人って東京Vの神上涼介選手だよね?」
「そうだよ」
「きゃー! 凄い本物だ! 世代別日本代表の至宝、ヴァリアブル世代の筆頭とも言われる選手! 初めまして握手してください!」
おいオタク出てるって。
つーか初対面の人に遠慮なく握手求めんのスゲーな。
前橋なんかキョドッて梨音の後ろに隠れてんじゃねーか。絶対涼介のこと知ってるくせに。
「握手ぐらい全然構わないさ。修斗達はどこかに出掛けていたのか? 随分と可愛い子達を連れているじゃないか」
「可愛いだなんてそんな」
「お世辞上手くなったね涼介君」
「…………」
「可愛いとか言うと全員調子乗るからやめとけ」
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釘刺しただけじゃん。
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