怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ

文字の大きさ
上 下
119 / 135
アルバイト勧誘編

不意強襲①

しおりを挟む
【高坂目線】


 ズキッ。

 右膝に少しピリッとした痛みが走った。
 テーピングで固めてるとはいえ、ここまで1時間半近くフットサルを続けている代償がきたか。
 守備の時はだいぶサボらせてもらっていたけど、今のヒールリフトで膝にとどめをさしたのかもしれない。
 だとしたら今のシュートを決めきれなかったのはもったいなかった。

 相手はベンチの人と交代をしていた。
 時間的にはあと5分。
 それぐらいなら大丈夫だと思うけど、さっきみたいなドリブルはもう出来ないかもしれないな。

「となると…………」

 パスの選択肢しか俺には無くなっているが、相手のようにパス&ゴーは難しい。
 俺が実行可能で考え得る戦い方じゃ、あの人達相手に優勢には回れない。
 ここは経験者の意見を参考にすべきだ。

「山田」

「おん?」

「このままじゃダメだ。攻め方を変えたいんだけど何か良いアイディアはないか?」

「そうだな…………さっきの敵の攻撃は見てたろ? 全員がポジション関係無く流動的に動いてディフェンスを崩すやり方。あれが本来のフットサルだな」

「だけどアレはコンビネーションがシビアなものじゃないか? 俺達であそこまでパスを回せるかどうかは───」

「高坂ならできるだろ?」

 さも当然と言った顔。
 あっさり言ってくれるなこいつ。

「やってみないことには分からんけど……」

「俺達なら問題ないぜ。なにせ、血の繋がった兄弟と小学校からの馴染みだからな。そこらの奴らよりもよっぽど意思の疎通はできる」

「じゃあ…………ポジションは無くし、パス&ゴーのやり方でいくんだな?」

「俺達はな。高坂は中央でくさびのやり方を頼む」

「何でだよ。俺ならできるって言っ───」

「膝」

 山田が俺の右膝を指差した。
 右足に体重を乗せずに立っていることに気が付いていたのか。

「結構限界来てんだろ? 無理すんなよ」

「……目ざといな」

「無理をするような大会じゃないんだぞ。ほとんど遊びみたいなもんなんだからよ、怪我が悪化したら誘ったこっちの目覚めが悪くなるっての。それに、天下の高坂修斗なら走らなくても俺達の動きに付いて来れるだろ?」

「無茶言うなぁ」

 山田の頼みも段々遠慮のなくなってきたものになった。
 それだけ信用してもらっている証拠ではあるんだが。

「じゃあそれでやるか」

「作戦名は全特攻で」

「そのまんまかよ」

 相手ボールでキックオフ。
 再び少ないタッチ数でパスを繋いでいき、俺達のエリアへと迫ってくる。
 ゾーンディフェンスの中で流動的に動くボールに対して、こちらもマークの貼り替えを迅速に行なっていく。
 横に出されるパスは仕方ない。
 俺達が狙うべきは──────。

「カット!」

 縦に鋭く出されたパスに山田が反応してパスカットした。
 すぐさま紗凪と山田弟が駆け上がる。
 しかし、山田が俺にパスを預けた瞬間には敵も素早く二人のマークに付いていた。
 戻りも速い。

「山田」

 山田に一度パスを戻す。
 紗凪と山田弟がパスの受けれる位置に戻ってきた。
 そして簡単にボールをハタいて相手と同じように動き回りながらパスを交換しあう。
 3人は流石の連携力だった。
 俺を介さずともお互いの意思の疎通が取れていた。
 その中で、どうしてもパスの受け手がいない時には俺が顔を覗かせてボールを受け、キープ、もしくはダイレクトでボールを散らして配球する。

「レベル高……!」

 相手の誰かが零した言葉に自分のことながら俺も同感した。
 紗凪は当然だとしても、山田や弟もミスらしいミスをほとんどしない。
 ここまで2分近く相手に取られることなくパスを細かく回し続けている。
 言い換えればそれだけ相手のマークが厳しくて縦に抜け出せるパスを出せていないということになるが、守りは攻めよりも疲れる。
 ここまで流動的にボールを回し続ければ、相手には休む暇を与えず、恐らくここまで全試合で走り回ってきたであろう彼らは少なからず疲労の影響が出るはずだ。

 その一瞬を狙う。

 自然とボールが左へ寄り始めたので俺が右へ少しづつ展開する。
 俺の正面、つまり右サイドが完全に空いている。
 要因としては2つ。
 パスを回され続けていることでフラストレーションが溜まっている敵がボールに対して少し前がかりになってきているから。
 そしてもう一つは、俺が走れないということを相手が完全に理解している。
 この試合、技で相手をかわすドリブルは見せても、スピードで裏取りやドリブルは見せていない。
 現に今も俺はここまでのパス回しでも歩いて受けている。
 その結果から見て相手は俺が走れないのだろうと思い込んでいるわけだ。

 意図して生まれたわけじゃないが隙ができた。
 山田はああ言っていたが、ここで走らない選択肢がフットボールプレイヤーにあると思うか?

「山田!!」

 センターライン中央にいた山田にボールが渡った瞬間、俺は前へ駆け出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~

くまたに
青春
冷姫と呼ばれる美少女と友達になった。 初めての異性の友達と、新しいことに沢山挑戦してみることに。 そんな中彼女が見せる幸せそうに笑う表情を知っている男子は、恐らくモブ一人。 冷姫とモブによる砂糖のように甘い日々は誰にもバレることなく隠し通すことができるのか! カクヨム・小説家になろうでも記載しています!

処理中です...