怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ

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アルバイト勧誘編

大城国紗凪②

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「注意すべきは桐谷さんだけでいい」

 そう言ったのは高坂だった。
 敵陣でボールを回している間、俺達は無理に詰めに行くことはしなかった。
 高坂がバランスを取り、俺と山田弟にそう指示していたからだ。

 高坂の見立て通りと言うべきか、簡単なパス回しでも分かるが桐谷以外の人達はそれほど上手くない。
 ドリブルで抜かれるようなことも、パス回しで間を通されるような連携も無いだろう。
 自陣でドッシリと構えていれば、最初に山田がパスカットしたように網で絡めとることができるはずだ。

 相手は桐谷を含めて三人で上がってきていたが、俺以外の三人がマークに付いてパスを出させまいとしていた。

「紗凪、右カット!」

 敵が自陣に入ってきたところで俺は高坂の指示通りにパスコースを切りつつ、ボール保持者に詰めていった。
 サッカーであればフィジカルで勝負するところではあるが、生憎とフットサルでは激しい体のぶつけ合いはNGらしい。
 少々の物足りなさを感じつつも俺は圧をかけた。

「くっ、健人!」

 追い込まれた敵は苦しいながらもパスを受けるために下がってきていた桐谷に無理矢理にパスを出した。
 下がった桐谷のためにディフェンスを山田とスイッチした高坂がマッチアップする。
 前を向かせまいとプレッシャーをかける高坂と、なんとかドリブルで抜こうとする桐谷の一戦。
 背面から圧を掛けられている桐谷は得意のスピードを披露できないはずだ。
 俺はパスの選択肢を警戒して、すぐにプレスを掛けられる準備をしておく。

「舐めんな!」

 桐谷が左へターンをし、前へ向かおうとする。
 それに反応した高坂。
 しかし、すぐさま桐谷が右足のアウトサイドで右へとクイックターンをした。
 その反応速度の速さは、俺では振り切られてしまうほどのスピード。恐らくこのターンの速さが桐谷のもう一つの武器だろう。

「二度目は────ない!」

 しかし、対するのは未だ化け物の片鱗を見せる高坂修斗。
 そのターンにすら反応してみせ、ボールと桐谷の間に体を差し込んでインターセプトしてみせた。

 おおっとどよめくプレイヤー達。
 俺は縦に走り出した。
 一度もこちらを見ていないが、奴ならこの動きに気付くはず。

「山田! 紗凪だ!」

 高坂がすぐに山田へとボールを下げ、俺にボールを出すよう指示した。
 山田がワンタッチでボールを浮かせて前線の俺にパスを出した。

「だっはっは! こいつぁ面白いな!」

 本当に欲しいところにボールが来やがった。
 パスを出したのは山田だが、俺が走り込んでいることを想定していた高坂。
 こんな奴が同じチームにいたらサッカーが楽しくてしょうがないだろうな。

 ボールをトラップし、戻ってきていたディフェンスに体を寄せられるもボールをそのまま運び、ゴール右隅へと流し込んだ。

「上々上々。逆転だな」

「ナイス大城国!」

「ナイスゴール」

 それぞれとハイタッチを交わす。
 時間は既に半分の5分を過ぎていた。

「よく取れたな高坂」

「今のは最初から切り返すのを予測してたから追いつけたようなもんだな。そのまま縦に行ってたら山田と挟みこむつもりだったし。紗凪もよく縦に走り込んだな、流石だぜ」

「お前なら出すと思ってな」

 一人でゴールも決めれて、周りを引き立たせるプレーも出来て、守備もオルディーズのスタメンFWから奪取できるレベル。こいつに出来ないことはあるのかよ。

「あり得ねぇ……! 何でこの俺があんな奴なんかに……! こちとら軽い気持ちで無双できると思って来たんだぞ……!」

 おーおー誰が見ても分かるレベルでイラついてらっしゃる。
 自分より格下の相手にマウント取ろうとして楽しいか?
 そんなんだから鹿島オルディーズは狩野隼人がいなくなってから弱くなったんだろーよ。
 スタメンのフォワードがこの様じゃあなぁ。

「このままあの人はマンマークで抑え込めばいけるな。それは山田にお願いするか」

「高坂、俺へのパスは浮かせたもので構わんぞ。その方が足元よりもやりやすい」

「マジかよ変な奴だな」

「お前もな」
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