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アルバイト勧誘編
過去遡及③
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気付けば夕刻。
流石に6限終わりからの自宅訪問は遊んでいられる時間が短い。
ニノの家の場合は特に、家までの移動距離がかかるせいで帰りのことを考えると長居することは出来ないだろう。
その点を踏まえると、勉強会をするにあたってニノの家でやる場合は休みの日が好ましいのかもしれない。
土日であれば朝から集まることができるからな。
時刻が18時を回った頃合いで俺は切り上げる旨をみんなに促した。
新之助は駄々をこねていたが、前橋が少しソワソワし始めていたのを俺は見逃さなかった。
「前橋、もしかして門限とかあったりする?」
「門限……ってほどでもないけど、お母さんが心配するかも」
「あーそうだよね。今から帰ったとしても19時ぐらいになっちゃうよね。私達が平気だったからきいのことまで気が回らなかったよ」
「んじゃしゃーねーな。お開きにしようぜ」
「僕、牧村さんに送って行ってもらえるように話してくるよ」
「ごめんねニノ」
ニノが立ち上がり、部屋から出て行った。
俺達は各々荷物をまとめはじめた。
「だけど本当に良い所よね~」
八幡が改めて呟いた。
それに呼応するかのように他の奴も頷く。
「こんなお屋敷で過ごせたらきっと楽しいよね」
「やっぱ欲しいものとか何でも買ってもらえんのかね」
「そりゃそうでしょ。この部屋見る限りニノに物欲があるかどうかは不明だけどね」
普通の部屋だとしても物は少ないだろう。
それほどまでにニノの部屋は物の数とスペースが不恰好だ。
だけど俺は牧村さんからの話を聞いているからか、荷物が少ない理由をなんとなく察した。
ニノは例え欲しいものがあったとしても、両親にねだるようなことは絶対にしないのだろう。
それはこの家の両親がニノにとって両親ではないから。
恐らく、ニノにとってこの部屋は自分の部屋という認識ではなく、居候と同じ感覚なのだろう。
同じ居候の俺が全く居候感を感じていないのもアレなのかもしれないが、2年経った今でも他人のように接しているというのは少し冷たいようにも感じる。
ニノの両親がどんな人達なのか知らない以上、あまり踏み込んだことは言えないが。
しばらくするとニノが牧村さんと共に部屋に戻ってきた。
「駅までお送りさせていただきます」
牧村さんが深々とお辞儀をした。
ニノが話してくれたようで、行きと同じように送ってくれるみたいだ。
部屋から出て階段を降り、玄関の前へ来たところでまだ会ったことのない女性がメイド長に薄いコートのような上着を脱がしてもらっている場面に出会した。
年齢的には俺の母親と同じくらいだ。
ただ、一つ一つの動作に気品……のようなものが見られる。
とてもじゃないが俺の母親のようにTHE主婦というものではないだろう。
「お帰りなさいませ、奥様」
「あら? もしかして…………ハジメ君のお友達?」
「あ……そう、です」
ニノがぎこちなく女性に返した。
奥様と言っているし、きっとこの人がニノを引き取ってくれた一家の人なんだろう。
にしても敬語とは。ここまで距離があるものなのか?
流石に他の奴も少し不思議に思っている。
「あらあら~、牧村さんから連絡はもらっていたのだけれど……ハジメ君の保護者の一都子と申します」
保護者…………保護者と来たか。
「仲良くしていただいているみたいで、ありがとうね~」
「いえいえ、当然のことですよ! にしてもお若いですねニノのお母さん!」
おまっ…………!!
いつもはそのコミュ力凄えと思ってきたけど、このタイミングでお母さん呼びは地雷じゃね!?
「あらやだわ~。お世辞が上手いのね」
「ほんと、お世辞だけは上手いわよね」
「お世辞だけはってどういう意味だ八幡よ」
…………俺の気にしすぎか?
あの人は別にお母さんと言われても何も気にしていないみたいだな。
とすると…………やっぱり打ち解けてないのはニノの方か……。
「もう帰ってしまうのかしら?」
「これからみんなを駅まで送り届けてもらうところです」
「そう…………牧村さん、ハジメ君の大事なお友達、気をつけてあげてくださいね」
「勿論でございます奥様」
「みなさん、またいつでもいらして下さいね」
「ありがとうございます」
「お邪魔しました~」
ニノのお母さんに別れをつげ、俺達は家の外へ出た。
丁度タイミングが良かったのか、車が外で待機していた。
今度はリムジンではなかったが、俺達の人数でも余裕で乗れるぐらいの広さがあった。
リムジンよりもよっぽど落ち着くからこっちの方が助かる。
乗り込もうとすると、しれっとニノもついて来ていた。
「ん? ニノも来るのか?」
「一応ね。最後まで送るよ」
「そんないいのに~」
と言いつつも否定するわけでもなくニノと一緒に車に乗り込み、緩やかに発進した。
「そんなことより、メイド長が俺に何も言ってこなかったのが不気味な件について」
「流石にニノお母さんの前でニノの友達を卑下するようなことは言わんだろ」
「そもそも佐川君にそこまで興味ないと思うよ」
「それはそれでショックだ!! あと最後に鈴華さんに会えなかったのが悲しい!!」
「なにそれ」
「ファンタジーなリアルがメイドというものにはあるんだよ! 鈴華さんめっちゃ可愛いし!」
「そればっかりだね」
「さいてー」
ニノの家庭訪問、思いがけず色々と気になるところがあった。
そのうち、ニノから話してくれる時が来るのだろうか。
流石に6限終わりからの自宅訪問は遊んでいられる時間が短い。
ニノの家の場合は特に、家までの移動距離がかかるせいで帰りのことを考えると長居することは出来ないだろう。
その点を踏まえると、勉強会をするにあたってニノの家でやる場合は休みの日が好ましいのかもしれない。
土日であれば朝から集まることができるからな。
時刻が18時を回った頃合いで俺は切り上げる旨をみんなに促した。
新之助は駄々をこねていたが、前橋が少しソワソワし始めていたのを俺は見逃さなかった。
「前橋、もしかして門限とかあったりする?」
「門限……ってほどでもないけど、お母さんが心配するかも」
「あーそうだよね。今から帰ったとしても19時ぐらいになっちゃうよね。私達が平気だったからきいのことまで気が回らなかったよ」
「んじゃしゃーねーな。お開きにしようぜ」
「僕、牧村さんに送って行ってもらえるように話してくるよ」
「ごめんねニノ」
ニノが立ち上がり、部屋から出て行った。
俺達は各々荷物をまとめはじめた。
「だけど本当に良い所よね~」
八幡が改めて呟いた。
それに呼応するかのように他の奴も頷く。
「こんなお屋敷で過ごせたらきっと楽しいよね」
「やっぱ欲しいものとか何でも買ってもらえんのかね」
「そりゃそうでしょ。この部屋見る限りニノに物欲があるかどうかは不明だけどね」
普通の部屋だとしても物は少ないだろう。
それほどまでにニノの部屋は物の数とスペースが不恰好だ。
だけど俺は牧村さんからの話を聞いているからか、荷物が少ない理由をなんとなく察した。
ニノは例え欲しいものがあったとしても、両親にねだるようなことは絶対にしないのだろう。
それはこの家の両親がニノにとって両親ではないから。
恐らく、ニノにとってこの部屋は自分の部屋という認識ではなく、居候と同じ感覚なのだろう。
同じ居候の俺が全く居候感を感じていないのもアレなのかもしれないが、2年経った今でも他人のように接しているというのは少し冷たいようにも感じる。
ニノの両親がどんな人達なのか知らない以上、あまり踏み込んだことは言えないが。
しばらくするとニノが牧村さんと共に部屋に戻ってきた。
「駅までお送りさせていただきます」
牧村さんが深々とお辞儀をした。
ニノが話してくれたようで、行きと同じように送ってくれるみたいだ。
部屋から出て階段を降り、玄関の前へ来たところでまだ会ったことのない女性がメイド長に薄いコートのような上着を脱がしてもらっている場面に出会した。
年齢的には俺の母親と同じくらいだ。
ただ、一つ一つの動作に気品……のようなものが見られる。
とてもじゃないが俺の母親のようにTHE主婦というものではないだろう。
「お帰りなさいませ、奥様」
「あら? もしかして…………ハジメ君のお友達?」
「あ……そう、です」
ニノがぎこちなく女性に返した。
奥様と言っているし、きっとこの人がニノを引き取ってくれた一家の人なんだろう。
にしても敬語とは。ここまで距離があるものなのか?
流石に他の奴も少し不思議に思っている。
「あらあら~、牧村さんから連絡はもらっていたのだけれど……ハジメ君の保護者の一都子と申します」
保護者…………保護者と来たか。
「仲良くしていただいているみたいで、ありがとうね~」
「いえいえ、当然のことですよ! にしてもお若いですねニノのお母さん!」
おまっ…………!!
いつもはそのコミュ力凄えと思ってきたけど、このタイミングでお母さん呼びは地雷じゃね!?
「あらやだわ~。お世辞が上手いのね」
「ほんと、お世辞だけは上手いわよね」
「お世辞だけはってどういう意味だ八幡よ」
…………俺の気にしすぎか?
あの人は別にお母さんと言われても何も気にしていないみたいだな。
とすると…………やっぱり打ち解けてないのはニノの方か……。
「もう帰ってしまうのかしら?」
「これからみんなを駅まで送り届けてもらうところです」
「そう…………牧村さん、ハジメ君の大事なお友達、気をつけてあげてくださいね」
「勿論でございます奥様」
「みなさん、またいつでもいらして下さいね」
「ありがとうございます」
「お邪魔しました~」
ニノのお母さんに別れをつげ、俺達は家の外へ出た。
丁度タイミングが良かったのか、車が外で待機していた。
今度はリムジンではなかったが、俺達の人数でも余裕で乗れるぐらいの広さがあった。
リムジンよりもよっぽど落ち着くからこっちの方が助かる。
乗り込もうとすると、しれっとニノもついて来ていた。
「ん? ニノも来るのか?」
「一応ね。最後まで送るよ」
「そんないいのに~」
と言いつつも否定するわけでもなくニノと一緒に車に乗り込み、緩やかに発進した。
「そんなことより、メイド長が俺に何も言ってこなかったのが不気味な件について」
「流石にニノお母さんの前でニノの友達を卑下するようなことは言わんだろ」
「そもそも佐川君にそこまで興味ないと思うよ」
「それはそれでショックだ!! あと最後に鈴華さんに会えなかったのが悲しい!!」
「なにそれ」
「ファンタジーなリアルがメイドというものにはあるんだよ! 鈴華さんめっちゃ可愛いし!」
「そればっかりだね」
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