怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ

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アルバイト勧誘編

過去遡及②

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 ニノの両親が2年前に亡くなっている…………じゃあこの屋敷にはニノと牧村さん夫婦と鈴華さんというメイドさんしかいないってことか?
 いや…………牧村さんの口ぶりではニノの両親については人伝ひとづてに聞いたような話し方だ。
 実際に会っていない…………両親が亡くなってからこの屋敷に勤め始めたのか?

「牧村さん達は最近になってこの屋敷に来たんですか? ニノの両親が亡くなったから…………」

「いえ……逆でございます。坊っちゃまがこの屋敷に来られたのです。坊っちゃまは…………にのまえ家の実子ではございません。養子なのです」

 養子!?
 ニノが元々ここに住んでいたわけじゃないのか!?
 どうりで自分の家のメイドであるはずの鈴華さんにキョドッていたわけだ。

「そうなんですね……」

「坊っちゃまがここに来られたのはご両親が亡くなられてから間も無くですので、2年前になります。坊っちゃまの旧姓は秋野あきのはじめ、ご両親と旦那様は親戚に当たり、当時一人残されてしまった坊っちゃまを子供がいなかった旦那様と奥様が引き取ることを強く希望し、にのまえ家の養子となった次第でございます」

 たまたま養子に来た家の苗字がにのまえだったおかげで名前が一一ということに…………。
 新之助に教えてもらった時に、お前の親のセンスをバカにしてすまなかったよニノ。
 そんな事情があったなんて知らなかったんだ。
 その後もお前はそんなことを全然匂わせはしなかったしな。

「ニノはその…………新しい両親と仲良くやれてますか?」

「旦那様と奥様は仕事で家にいないことが多いですが、坊っちゃまのことは常に気遣っておられます。しかし…………正直なところ、坊っちゃまは私達から一歩引いて接しているように見られますな」

「遠慮している…………ということですか?」

「はい。あの子はとても優しい。それゆえに自分を押し込めて我慢している部分があるようです。両親を一度に亡くし、知らない人達の元で急に暮らすことになったのですから無理もないと思いますが…………」

 俺も両親とは別れて暮らしているが、梨音達は昔から知っている気の知れた人達だ。
 今さら遠慮というものはないが、ニノの場合は距離感を掴むのが難しいのだろう。
 加えてニノの性格だ、人とコミニュケーションを取るのが苦手なアイツは自分から話しかけるのも難しいのかもしれない。

「それでも最近は明るく見えております。きっと高坂様や本日来てくださった他のご友人の方々のおかげだと思っております」

「ああ、いえいえ」

 まぁ褒められるとするなら話すきっかけを作った新之助と、意外と話が面白いニノ自身の性格だな。
 新之助がいなけりゃ趣味も合わないニノにわざわざ声を掛けたりはしなかったはずだ。

「これからもどうか坊っちゃまと仲良くしてあげて下さい」

「そんなのこっちから頭下げてお願いしますよ。恥ずかしい話、俺も友人が多い方とは言えませんからね」

 元仲間チームメイトは多いが。

「話が長くなってしまいましたな。坊っちゃまのお部屋までご案内しましょう」

「すいません」

 そういえば迷ったって体なんだった。

 俺は牧村さんに連れてもらいニノの部屋へと戻ってきた。
 その頃には部屋の中からニノの喜ぶ声が聞こえていた。

「いやったぁー!」

「まーたニノが一抜けかよぉ」

「何でそんなに強いのかしらね」

「ババ抜きなんて運なのにねー」

「ふっふっふ、ババ抜きを運と思っているうちはまだまださ」

「…………むぅ」

「逆にきいは弱すぎるよ」

「意外と顔に出やすいよね」

「そんなことない…………はず」

 どうやらニノがババ抜きで無双しているらしい。
 そして前橋は最弱か。
 なんか分かる気がする。

「ありがとうございました牧村さん」

「いえいえ。何か御用があればすぐにお呼びください」

 牧村さんは再び深々とお辞儀をして階段を降りていった。

「さて、と…………待たせたなお前ら!」

「おせーよ修斗!! 便秘マンか?」

「ちょっと佐川汚い」

「バカ言え快便だ」

「修斗も」

「とりあえずこの試合が終わるまでちょっと待ってろよ。サクッと上がってやっからよぉ!」

 そして新之助が最下位だった。
 前橋はギリギリ一騎打ちに勝ち最下位を逃れていた。
 超大喜び。
 俺がサッカー始めるって言った時よりも笑顔。複雑。
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