上 下
71 / 135
遅延新入生勧誘編

再会微毒②

しおりを挟む
「なんやクシャスラのところのお嬢やないか。こんなところで何してんねん」

 クシャスラとは弥守の父親が経営しているドイツのプロサッカーチーム、クシャスラFCのことだ。

「制服見て分からないかしら? 私もここの生徒なの。そんなことより、さっきの城ヶ崎の発言は聞き捨てならないわね。修斗を誰も必要としていない? ここに一人、必要としている人がいるわ」

「アンタはサッカーしていた時の修斗にホの字だったんちゃうんか。修斗がサッカー出来ないことは知っとるやろ」

「もちろん知ってるわよ。でも修斗の価値はサッカーだけじゃないことを城ヶ崎は知らないみたいね。彼がこの高校に来て、今何をしているのかを」

 そこから始まった弥守の話はある意味で衝撃的な内容だった。
 俺が高校に入学してからの一連の出来事。
 新之助やニノと遊ぶようになり、生徒会に勧誘されてフットサルをやったり、生徒会役員として今も多くの人から必要とされているか、など。
 第三者目線で聞いていれば俺のことを良く知ってくれている素晴らしいアピールトークになると思われるが、何が恐ろしいって、弥守が高校に来て俺と再会したのが昨日というところだ。
 まるで入学初日から隣で見てましたかのように堂々と話す弥守の姿に、俺の内心では恐怖心のほうがギリギリまさっていた。

「分かった? サッカーが出来なくとも修斗は色んな人に必要とされているのよ」

 得意気に話し終えた弥守を見て、俺は頼りになるとかそういう感情はなくて、なんというか……引いた。

「鷺宮の言う通り、人の価値は一つだけじゃないぞ優夜」

「はっ、まぁええわ。悪いが修斗、俺達はもうあの頃とは違う。例えお前が今からサッカーに復帰しようが、もう間に合わへん。この試合でそれを証明させたる」

 そう言って優夜は去って行ってしまった。
 弥守は勝ち誇ったようにフンと鼻を鳴らした。

「修斗どうだった!? 私の援護射撃!」

「あ、ああ。助かったよ」

 多くの弾がこちらに被弾していたように感じたけど、褒めてと言わんばかりに目をキラキラと輝かせている弥守を見て素直にお礼を伝えた。
 悪気があるわけじゃなかったからな、きっと。

「修斗、優夜のことは気にするな。アイツはライバル視していた修斗がサッカーを辞めて、そのまま勝ち逃げされたと思っているんだ。ああ見えて、当時修斗が怪我をさせられた時に誰よりも相手にキレていたのはアイツだからな」

「ある意味純粋なだけ、か……。試合、頑張れよ。俺も見てるからさ」

「ああ。お前にガッカリされないようにするよ」

 軽く握手を交わし、涼介もこの場を後にした。
 優夜とは少し揉めてしまったが、涼介と会えたのは結果的に良かったのかもしれない。
 心の奥に突っ掛かっていたものが払拭された気分だ。

「試合、見るの?」

 弥守が聞いてきた。

「そのために来たからな」

「じゃあ私もー」

「別にいいけど……つーかお前、どうやって俺の今までの高校生活調べたんだよ」

「そんな法に触れるようなこと口に出せないよ」

「法に触れるようなことやっちゃったの!?」

 いやいやーと笑って誤魔化す弥守。
 ストーカーレベルに拍車が掛かってきたなコイツ……! もしかして反省する気ゼロ?

 グラウンド横のネット裏に着いたところ、既に桜川が待っていた。
 他にも見に来ている人達は多く、場所取りみたいになっている。
 ちょうど瑞都高校側のベンチ裏になるから人気高いポジか?

「あっ、高坂っちー…………と、どなた?」

「休学明けで昨日から学校に来た……」

「鷺宮=アーデルハイト=弥守よ」

「桜川美月です! もしかしてハーフさん!? 宮っちって呼んでいい??」

「好きにすれば」

 グイグイ食いつく桜川に対して、相変わらず他の人には塩対応の弥守。
 足して2で割ったら丁度いいんじゃないか?

「ま~た高坂っちは綺麗な女の子連れて~、梨音っちが怒るよ~」

「別に何人も連れて歩いてねーよ。それに何で梨音の名前が出るんだ」

「何でって……そりゃあ、ねぇ?」

 ニヤニヤとしながら桜川が聞いてくる。
 変な邪推はしないでもらいたいな。

「梨音っちに前橋っちに宮っち、あと神奈月先輩とかもそうだよね。いやぁ可愛い女の子達からモテモテですなぁ」

 ちっちちっちうるさいな。
 特別仲が良いだけで、誰一人としてそういう仲じゃねーよ。
 神奈月先輩に至っては上司みたいなもんだぞ。

「つーかそのくくりなら桜川も入ってんだろ」

「ええっ!? いやいやいや、私はほら、可愛いくはないから……」

「いや、はたから見たら充分可愛いだろ」

「へぇ!?」

「サッカーやってたからか引き締まった体に、適度に焼けてる健康的な日焼け肌、ショートカットの髪型はいかにもスポーツやってますって感じで似合ってるしな」

「あわわわわ……! そ、それ以上は、ストップで!」

「はぁ? お前が話し始めたんだろ」

「いやもうホント……これ以上はお腹一杯というか…………恥ずかしすぎて気絶しそうというか……!」

 なんだよ俺のことはよく褒めちぎるくせに。
 褒められ慣れてないタイプか?

「…………修斗」

「うわビックリした! 急に腰をつつくな弥守」

 ちょうど脇腹の部分の弱いところを突かれて、思わずビクリと体が震えた。

「あんまり見せつけられるのも癪だったから」

「何だそれ」

 つーかやべぇ、今気付いた。
 桜川と弥守の間にいるわけだけどコレ、見方を変えると旧ストーカーと現ストーカーに挟まれてるよどうしよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺にはロシア人ハーフの許嫁がいるらしい。

夜兎ましろ
青春
 高校入学から約半年が経ったある日。  俺たちのクラスに転入生がやってきたのだが、その転入生は俺――雪村翔(ゆきむら しょう)が幼い頃に結婚を誓い合ったロシア人ハーフの美少女だった……!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

先輩に振られた。でも、いとこと幼馴染が結婚したいという想いを伝えてくる。俺を振った先輩は、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。

のんびりとゆっくり
青春
俺、海春夢海(うみはるゆめうみ)。俺は高校一年生の時、先輩に振られた。高校二年生の始業式の日、俺は、いとこの春島紗緒里(はるしまさおり)ちゃんと再会を果たす。彼女は、幼い頃もかわいかったが、より一層かわいくなっていた。彼女は、俺に恋している。そして、婚約して結婚したい、と言ってきている。戸惑いながらも、彼女の熱い想いに、次第に彼女に傾いていく俺の心。そして、かわいい子で幼馴染の夏森寿々子(なつもりすずこ)ちゃんも、俺と婚約して結婚してほしい、という気持ちを伝えてきた。先輩は、その後、付き合ってほしいと言ってきたが、間に合わない。俺のデレデレ、甘々でラブラブな青春が、今始まろうとしている。この作品は、「小説家になろう」様「カクヨム」様にも投稿しています。「小説家になろう」様「カクヨム」様への投稿は、「先輩に振られた俺。でも、その後、いとこと幼馴染が婚約して結婚したい、という想いを一生懸命伝えてくる。俺を振った先輩が付き合ってほしいと言ってきても、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。」という題名でしています。

処理中です...