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遅延新入生勧誘編
説明責任⑤
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弥守の家は最寄駅から3駅隣にあるということで、駅まで送り届けてから別れた。
今日は酷く疲れた一日だ、精神的に。
だが、まだ梨音に言い訳もとい説明をしなければならないという仕事が残っている。
なんか桜川の時にも似たようなことがあった気がするな。
家に帰ると、表のお店の方が少し慌ただしくしており、お店の前にも行列ができていた。
夕方のこの時間にしては珍しいなと思い覗いてみると、どうやら学生の団体客が来ているみたいだった。
俺はすぐに部屋に戻り荷物を置くと、制服のブレザーだけを脱いでお店の方へと向かった。
「繁オジさん、手伝いますよ」
「おお、修斗帰ってきてたのか! 悪いな注文取って料理運んでくれるか?」
「任せてください」
「ちょうどバタバタしてたから助かるわ~」
繁オジさんと梨花さんが忙しなく動いて料理を作っており、俺は注文、料理運び、レジ打ちを担当することになった。
昔からしょっちゅうご飯を食べに来ててメニューは全部暗記しているし、梨音と一緒に手伝いをしていたからレジ打ちもある程度できる。
テキパキと効率良く仕事をこなしていく。
「あら、珍しく修斗君がいるじゃない」
「こんにちは藤崎さん。変わらずお綺麗で」
ここの常連でもある藤崎さんが来ていた。
昔からの顔見知りだがお店で会うのは久しぶりだ。
「やーねぇこんなオバさん捕まえて。今日はお手伝い?」
「そんなところですね。混雑していたみたいなので」
「そうなのすっごい混んでてビックリしちゃった。でも若元さんのところは美味しいから当然よね」
「ですね。藤崎さん、いつものサバの味噌煮定食で大丈夫ですか?」
「よく覚えてたわねー。お願いね」
「かしこまりました」
それから店内が落ち着くまでの1時間ほど手伝いをしていた。
梨音はまだ帰ってこなかったが、俺一人でも充分に回せたから問題ないだろう。
「いやー助かったぞ修斗。ここ最近何故か忙しい日が続いていてな」
「それも修斗くんや梨音がいない時が多いのよね~。繁盛するのは嬉しいことではあるんだけど」
「今日はたまたま生徒会が休みだったんで早く帰ってきましたけど……明日からはまた遅くなるので手伝いは難しいですね」
「うーん……バイトでも雇うか……」
むしろ今まで二人でやってこれていたことの方が驚きだ。
今日みたいな激務が続けばいつか倒れてもおかしくない。
「とにかくありがとよ」
「助けになれて良かったです」
俺が部屋へと戻ろうとしたところで裏口から梨音が帰ってきた。
「あ」
「よぉ、おかえり」
「うん」
うーん、普通だ。
このそっけない感じは普段とあんまり変わらん。
機嫌が悪いときのコイツは目も合わせてくれないしな。
「帰り遅かったな。どっか寄ってたのか?」
「修斗に言う必要ある?」
いやこれ機嫌悪いだろ。
言葉の節々からトゲが出てる。
ちょっと軽く質問しただけで豪速球の返答が返ってきた。
「別に必要はないけど……」
「修斗こそ帰ってくるの早いね。鷺宮さんと一緒じゃなかったの?」
「弥守とは別に何も……」
「へー、下の名前で呼ぶほど仲良いんだ」
目敏いところ突いてくんなぁ……!
下の名前で呼ぶことにそんな意味はないだろーに。
「り、梨音のことだって名前で呼んでるし普通だろ」
「そうだね。でもキイや桜川さんは苗字で呼んでるよね」
「それは……あいつが下の名前で呼べって言うから」
「ふーん」
萎縮してる場合じゃないぜ俺。
とりあえず弥守とは何もないということを説明しないとなんだが、いい説明の仕方は………………あっ、あった。
「じゃ、部屋に戻るから」
「梨音」
「な、なによ」
「………………いや、なんでもない」
「……? 変なの」
梨音を一度呼び止めて説明しようとしたが、やはり話すのを躊躇ってしまい、梨音はそのまま階段を上がって自分の部屋に戻ってしまった。
簡単に弥守と何もないことを証明する説明。
それは、今日弥守に告白されたことを話せば良かった。
弥守に気持ちを伝えられ、それを断ったと説明すれば、俺と弥守が何もないことを証明する手段になる。
だけどそれは弥守の気持ちを踏み躙る行為だ。
自分が楽をしたいがために人の好意と行為を出汁にして、他の第三者にそれを話す。
それじゃあ何のために真摯に応えたのか分からなくなる。
「はぁ…………サッカー以外で頭を使うのは苦手なんだけどな」
サッカーをやっていた時はシンプルだった。
良いプレーができるかできないか、試合に勝つことができるかできないか。それ以外に考えることはなかった。
確かにサッカーが出来なくても楽しい経験はたくさんできている。
だけどそれ以外にも大変なことが多々ある。
必ずしも楽しいことばかりではないってことだよな。
今日は酷く疲れた一日だ、精神的に。
だが、まだ梨音に言い訳もとい説明をしなければならないという仕事が残っている。
なんか桜川の時にも似たようなことがあった気がするな。
家に帰ると、表のお店の方が少し慌ただしくしており、お店の前にも行列ができていた。
夕方のこの時間にしては珍しいなと思い覗いてみると、どうやら学生の団体客が来ているみたいだった。
俺はすぐに部屋に戻り荷物を置くと、制服のブレザーだけを脱いでお店の方へと向かった。
「繁オジさん、手伝いますよ」
「おお、修斗帰ってきてたのか! 悪いな注文取って料理運んでくれるか?」
「任せてください」
「ちょうどバタバタしてたから助かるわ~」
繁オジさんと梨花さんが忙しなく動いて料理を作っており、俺は注文、料理運び、レジ打ちを担当することになった。
昔からしょっちゅうご飯を食べに来ててメニューは全部暗記しているし、梨音と一緒に手伝いをしていたからレジ打ちもある程度できる。
テキパキと効率良く仕事をこなしていく。
「あら、珍しく修斗君がいるじゃない」
「こんにちは藤崎さん。変わらずお綺麗で」
ここの常連でもある藤崎さんが来ていた。
昔からの顔見知りだがお店で会うのは久しぶりだ。
「やーねぇこんなオバさん捕まえて。今日はお手伝い?」
「そんなところですね。混雑していたみたいなので」
「そうなのすっごい混んでてビックリしちゃった。でも若元さんのところは美味しいから当然よね」
「ですね。藤崎さん、いつものサバの味噌煮定食で大丈夫ですか?」
「よく覚えてたわねー。お願いね」
「かしこまりました」
それから店内が落ち着くまでの1時間ほど手伝いをしていた。
梨音はまだ帰ってこなかったが、俺一人でも充分に回せたから問題ないだろう。
「いやー助かったぞ修斗。ここ最近何故か忙しい日が続いていてな」
「それも修斗くんや梨音がいない時が多いのよね~。繁盛するのは嬉しいことではあるんだけど」
「今日はたまたま生徒会が休みだったんで早く帰ってきましたけど……明日からはまた遅くなるので手伝いは難しいですね」
「うーん……バイトでも雇うか……」
むしろ今まで二人でやってこれていたことの方が驚きだ。
今日みたいな激務が続けばいつか倒れてもおかしくない。
「とにかくありがとよ」
「助けになれて良かったです」
俺が部屋へと戻ろうとしたところで裏口から梨音が帰ってきた。
「あ」
「よぉ、おかえり」
「うん」
うーん、普通だ。
このそっけない感じは普段とあんまり変わらん。
機嫌が悪いときのコイツは目も合わせてくれないしな。
「帰り遅かったな。どっか寄ってたのか?」
「修斗に言う必要ある?」
いやこれ機嫌悪いだろ。
言葉の節々からトゲが出てる。
ちょっと軽く質問しただけで豪速球の返答が返ってきた。
「別に必要はないけど……」
「修斗こそ帰ってくるの早いね。鷺宮さんと一緒じゃなかったの?」
「弥守とは別に何も……」
「へー、下の名前で呼ぶほど仲良いんだ」
目敏いところ突いてくんなぁ……!
下の名前で呼ぶことにそんな意味はないだろーに。
「り、梨音のことだって名前で呼んでるし普通だろ」
「そうだね。でもキイや桜川さんは苗字で呼んでるよね」
「それは……あいつが下の名前で呼べって言うから」
「ふーん」
萎縮してる場合じゃないぜ俺。
とりあえず弥守とは何もないということを説明しないとなんだが、いい説明の仕方は………………あっ、あった。
「じゃ、部屋に戻るから」
「梨音」
「な、なによ」
「………………いや、なんでもない」
「……? 変なの」
梨音を一度呼び止めて説明しようとしたが、やはり話すのを躊躇ってしまい、梨音はそのまま階段を上がって自分の部屋に戻ってしまった。
簡単に弥守と何もないことを証明する説明。
それは、今日弥守に告白されたことを話せば良かった。
弥守に気持ちを伝えられ、それを断ったと説明すれば、俺と弥守が何もないことを証明する手段になる。
だけどそれは弥守の気持ちを踏み躙る行為だ。
自分が楽をしたいがために人の好意と行為を出汁にして、他の第三者にそれを話す。
それじゃあ何のために真摯に応えたのか分からなくなる。
「はぁ…………サッカー以外で頭を使うのは苦手なんだけどな」
サッカーをやっていた時はシンプルだった。
良いプレーができるかできないか、試合に勝つことができるかできないか。それ以外に考えることはなかった。
確かにサッカーが出来なくても楽しい経験はたくさんできている。
だけどそれ以外にも大変なことが多々ある。
必ずしも楽しいことばかりではないってことだよな。
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