上 下
50 / 135
生徒会勧誘編

前橋きい③

しおりを挟む
「はぁ…………」

 家に帰り、湯船に浸かりながら今日の試合の事を思い出していた。
 中学時代に見ていた高坂は、司令塔として走り回り敵の間を切り裂くようなパスを見せていた。
 普通はそこに出さないだろうという所でも、よりチャンスに繋がるところであれば自分で持ち込みパスを通す。
 それが高坂修斗の強み。

 そして今日、1年ぶりに見た高坂の足技は全くと言っていいほど衰えてはいなかった。
 もちろん相手に初心者が多いということと、走ることができないという部分はあったけど、味方の動きに合わせたドンピシャのパスはまるでイニエスタを彷彿とさせていた。
 当時、私が目を奪われたプレーは健在だった。

 でもだからこそ、怪我さえなければ高坂が1ということはあり得なかったはずだ。
 きっと、さらに多くの人の目を奪うようなプレーを重ねて、順調な人生を歩んでいたんだと思う。
 私は今も高坂のファンとして……活躍する彼を追っていたはず。

 …………一緒にプレーしたりすることなんてあるわけもなく、同じ学校で生徒会として一緒にやることもなく、友達になることもなかった。

 それが今は友達として、一緒にプレーをして。

 高坂が怪我をしたから。

「…………自分が嫌になる」

 ブクブクと口まで湯船に浸かった。
 少しでも高坂が怪我したことを喜んでしまった自分に腹が立った。
 確かに憧れだった高坂と一緒になれて嬉しい。
 それはたぶん…………間違いないと思う。
 元々口下手な方だけど、高坂と一緒にいるとドキドキして余計に緊張する。

 異性としてとかじゃなくて、テレビのアイドルを間近で見たような、ファンとして追っていたからこそのドキドキだとは思うけど……。

『つまり今の前橋は普段よりむしろエロいということに』

「ん~~~!!」

 ザブンと頭まで湯船に浸かった。

(きっとそう…………これはファンとしてのドキドキだ)

 湯船の熱さも相まって、熱くなった私の顔を冷ますのに時間がかかった。



 お風呂から上がると、お兄ちゃんが部活から帰ってきていて、リビングでくつろいでいた。

「……おかえり」

「おお、あがった? じゃあ次は俺が入るわ」

 お風呂の順番待ちしてたんだ。
 少し長風呂しすぎたかな。

 お兄ちゃんもFC横浜レグノスでサッカーをやっていて、ユースに上がることは出来ず瑞都高校にスポーツ推薦で入った。
 ユースに上がれなかった時はやっぱり落ち込んでいたけど、それでも腐ることなく瑞都高校のサッカー部で毎日練習に励み、今ではキャプテンを務めている。

「あ、そういえば今日フットサルやってきたんだろ?」

「……なんで知ってるの?」

「神奈月が言ってた。高坂修斗、どうだった?」

 お兄ちゃんが興味津々に聞いてきた。

「相変わらず上手かった」

「じゃあフットサルはやれたんだな!?」

 ……ああ、お兄ちゃんも高坂がサッカーをやれるのであれば部活に誘いたいんだ。
 今年最後だし、あと一歩という実力のところに高坂が入れば全国は間違いないよね。

「でも走れないよ」

「怪我か?」

「うん」

「か~そっかぁ」

 最後に全力で走っているところは見たけど、そのせいで痛めているようだった。
 だからサッカーをするのはやっぱり無理なんだと思う。

「まぁ怪我人に頼っていても仕方ないよな。キイとしては一緒にプレーできただけでも嬉しそうだけど」

「そ、そんなことない」

「の割には、機嫌良さそうだけどな」

 思わず顔をペタペタと触って確認する。
 お兄ちゃんは結構そういうところが目敏いから嫌だ。
 人の機微を見るのが得意なのかな。

「キイは本当分かりやすいよな。素直っつーか、顔に出るっつーか。素のテンションが低めだから機嫌良いときは声が跳ねてる」

「う……うるさい」

「その調子じゃ高坂の前だと緊張してそうだな」

「そんなことない! もうお風呂行って!」

「はいはい」

 お兄ちゃんがリビングから出て行った。

 …………そんなに顔に出てるわけない。
 ちゃんと高坂と顔を見て話せてる………………顔を見て…………?
 今思い返してみると、高坂と話す時はだいたい目線を逸らして話している気がする。
 高坂の身長が高いから上を向かないといけないっていうのもあるけど…………。

 でも試合の時はアイコンタクト出来てたし。
 アイコンタクトで意思疎通のパスを………………。

「………………うう」

 その時のことを考えたら高坂の顔がずっと浮かんできて、無性に恥ずかしくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

先輩に振られた。でも、いとこと幼馴染が結婚したいという想いを伝えてくる。俺を振った先輩は、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。

のんびりとゆっくり
青春
俺、海春夢海(うみはるゆめうみ)。俺は高校一年生の時、先輩に振られた。高校二年生の始業式の日、俺は、いとこの春島紗緒里(はるしまさおり)ちゃんと再会を果たす。彼女は、幼い頃もかわいかったが、より一層かわいくなっていた。彼女は、俺に恋している。そして、婚約して結婚したい、と言ってきている。戸惑いながらも、彼女の熱い想いに、次第に彼女に傾いていく俺の心。そして、かわいい子で幼馴染の夏森寿々子(なつもりすずこ)ちゃんも、俺と婚約して結婚してほしい、という気持ちを伝えてきた。先輩は、その後、付き合ってほしいと言ってきたが、間に合わない。俺のデレデレ、甘々でラブラブな青春が、今始まろうとしている。この作品は、「小説家になろう」様「カクヨム」様にも投稿しています。「小説家になろう」様「カクヨム」様への投稿は、「先輩に振られた俺。でも、その後、いとこと幼馴染が婚約して結婚したい、という想いを一生懸命伝えてくる。俺を振った先輩が付き合ってほしいと言ってきても、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。」という題名でしています。

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人
青春
幼少の頃から日本サッカー界の至宝と言われ、各年代別日本代表のエースとして活躍し続けてきた片桐修人(かたぎり しゅうと)。 順風満帆だった彼の人生は高校一年の時、とある試合で大きく変わってしまう。 悪質なファウルでの大怪我によりピッチ上で輝くことが出来なくなった天才は、サッカー漬けだった日々と決別し人並みの青春を送ることに全力を注ぐようになる。 高校サッカーの強豪校から普通の私立高校に転入した片桐は、サッカーとは無縁の新しい高校生活に思いを馳せる。 しかしそんな片桐の前に、弱小女子サッカー部のキャプテン、鞍月光華(くらつき みつか)が現れる。 「どう、うちのサッカー部の監督、やってみない?」 これは高校生監督、片桐修人と弱小女子サッカー部の奮闘の記録である。

処理中です...