怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ

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生徒会勧誘編

推薦基準③

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 今週末にフットサルでボールを蹴れるかもしれない。
 その可能性を考えただけで俺はじっとしていられなかった。
 家へと戻った俺は部屋へと戻ると、簡単に動ける服に着替え、ボールとスパイクを取るとすぐに出掛ける準備をした。

「どこか出掛けるの? 修斗」

 裏口から出ようとしたところで梨音に声をかけられた。

「ちょっと公園行ってくるわ」

 梨音は俺の格好とボールを見て、少し呆れたように、でも少し嬉しそうに笑った。

「無理はしないでね」

「おうよ」

 まるで無邪気な少年のように俺は外へと出た。
 外の景色が普段よりも明るく見える。
 きっと気のせいなんだろうけど、心の持ちよう一つでこんなにも変わるとは。

 少し跳ねるようにして走ってみる。

 右膝が少し痛むが、苦痛で顔が歪むほどではない。
 言ってみれば筋肉痛みたいなものだ。
 それに、調べたらフットサルは基本的にスライディングやタックルといった危険行為は基本的に禁止されているケースが多いみたいだ。
 交流会と言うしそんな危険なプレー自体そもそもされるとも思わないけど、これを機にフットサルをやるのもアリかもしれない。
 俺自身の膝と要相談だけど。

 近くの公園に来た。

 結構広く、ちょっとしたグラウンド並みの広さがあり、滑り台やブランコとは区切られているため小さい子達にボールが当たる心配もない良いところだ。
 小さい頃から梨音と一緒によくこの公園で練習していた。
 梨音は見てるだけだったけどな。

 俺は軽くリフティングから始めた。
 この程度の衝撃なら特に足は痛くない。
 それに、部屋でも暇さえあればボールを触っていたせいか、怪我以前とまではいかなくてもボールが足に吸い付く感覚はまだ失われていなかった。
 足首や股関節のストレッチも欠かさなかったからな。

 次に足元でボールを素早く動かした。
 左右の足裏を使い、左に右にボールを動かしながら後ろに下がっていく。

 続いて右足首をフリックして右にボールを出すと見せかけて左に動かすエラシコ。
 これも問題無くできた。

 マルセイユルーレット、ヒールリフト、クライフターン。
 ドリブラーとしては抑えておくべきスキルを次々に試してみたが、若干体幹がふらつく以外はどれも滞りなく使うことができた。
 小さい頃から染み付いた動きは、そうそう忘れることはないみたいだ。

「ははっ。やっぱこれだよな!」

 調子に乗った俺は勢い余って公園の壁に向かってボールを強く蹴った。

「っ!!」

 ズキッッッと右膝に痛みが走った。
 前にグラウンドでボールを蹴った時よりも激しい痛みだった。

「ってて……! やっぱ強くは蹴れないか……」

 俺は右膝を少しさすりながら、壁に跳ね返ったボールを取りに行った。

「ちょっと大丈夫?」

 見ると梨音が転がったボールを手にして、心配そうにこちらへ駆け寄ってきていた。

「また無茶したんじゃないの?」

「何だ、来てたのか」

「7時過ぎても帰って来ないから心配になったのよ」

 気付くと確かに辺りが少し暗くなり始めていた。
 いつの間にそんな時間経ってたのか。

「まったく、修斗のことだからどうせ夢中になってるんじゃないかと思ってたけど、予想通りじゃない」

「いやぁ、ほら、やっぱせっかくフットサルやるんだったら練習はしとかないとさ」

「無理しないでって言ったのに」

 そう言いながらも梨音は笑っていた。
 まるで俺が無茶するのを分かっていたような口ぶりだ。

「でもこうして修斗が練習しているところを見るのも、久しぶりな気がする」

「小学生ぐらいまではよく練習してたな。中学からはクラブチームで遅くまで練習してたから公園でやる機会はほとんどなかったし」

「ここで練習してた頃は、一つ技ができるたびに私に自慢してたよね。こんなことできるんだぜーって」

「い、言ってたかぁ? そんなこと」

「言ってたよ。それで私が凄ーいってリアクションとったら、得意げになった修斗がその後違う技をしようとして、ボールに乗っかって転んでたし」

「なんで覚えてんだよそんな恥ずい話!! 忘れてくれよ頼むから!」

「忘れませーん。もしもの時のための弱味として握っておきまーす」

「ぐぬぬ……!」

「ぷっ…………あははは!」

「へっ…………はははっ」

 俺達はお互い吹き出したように笑った。
 こんなくだらないことで笑い合える、そんな心地のいい関係性なのが俺と梨音だ。

「そろそろ帰ろう。晩御飯の支度、できてるよ」

「そうだな」

 暗くなり、街灯が点き始めた帰り道を、俺はまるで昔の頃のように梨音と並んで帰っていった。
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