17 / 30
鋼神勇者
第15話 戦場
しおりを挟む知多半島。神聖同盟の拠点と目される有馬雄一郎邸。そこに向かって警察の人員輸送車が複数走っていた。
狭い舗装道路を一列になって進んでいる。
有馬の会社には捜査の手が入ったが既にもぬけの殻だった。
ヘリによる先行偵察の結果、有馬邸に多くの人員が居ることが分かったため、愛知県警の警官隊が強制捜査に向かうことになった。
「岐阜県警が取り逃がしたらしいが」
「間抜けだ」
「愛知県にはSATがある」
「完全武装の我々なら余裕だがね」
車両内にはどこか楽観的な雰囲気が漂っていた。
20年前の災害後。治安維持を担ってきた自負も有るのだろう。
輸送車へ随伴するパトカーには城太郎に煮え湯を飲まされた鈴木朔太郎が乗っていた。
「あのガキが取り逃したらしいぞ、いいきみだ。なあ、そう思うだろう」
朔太郎は運転席に座る若い警官に話し掛けた。有馬邸に聞き込みに行った時に一緒にいた彼だ。
「確かにスッとしますが、でも相手はブラックコアを持っているんですよね。我々だけで対処できるのでしょうか?」
「あんなもんしょせんはリモコンなんだ、操作してる奴を捕まえちまえばいいんだ」
「そううまく行くのでしょうか?」
「心配性なんだよお前は」
その時だった。
ドゴオオオオオオオオオオオン‼
先頭の人員輸送車が轟音と共に吹き飛んだ。
横倒しになり、そのまま燃え上がる。
「な、なんだ」
先頭車が擱座したことにより後続車は急停車する。朔太郎は様子を見るためにパトカーを降りた。
運転席の若い警官も降りる。
しかしその瞬間ボンッという鈍い音と共に彼は倒れ付した。
「お、おい、どうした」
朔太郎はパトカーを後ろから運転席側に回り込んだ。
「ヒィッ」
倒れ付した若い警官は下半身がなかった。まだ息があるのか内臓を撒き散らしながら呻いていた。
「う、うう」
そして朔太郎の方に手を伸ばすとそのまま動かなくなった。
「じ、地雷か」
朔太郎は腰を抜かして尻餅をついた。
その時、車列に十数発のロケット弾が着弾した。
すさまじい爆発と共に燃え上がる車両。
愛知県警官隊は壊滅した。
…………
………
……
…
「まさか真正面から来るとはな」
即席のHQ(指揮所)で偵察用ドローンからの映像をみながら有馬雄一郎こと「赤スーツの男」は呟いた。
有馬は偽名のひとつであり、彼にとって名前など意味を持たないものだった。
今はトレードマークの赤スーツに覆面をしている。
「ヘリは?」
「既に落としました。これ以上情報を与える必要もありません」
「陣地の構築は」
「8割完成しています。ここから10キロと20キロのところに塹壕を掘りました。鉄条網を敷き詰めています。」
「迫撃砲の陣地は完成しています。税関をごまかすのが難しかったので二門しか持ち込めませんでした」
「警察相手には充分だろう」
彼らがこんな籠城に近いことをしているのには理由があった。
本来ならば手にいれた核物質をナージャに積み、自分達は迎えに来た自国の潜水艦に乗って共に海中から脱出。
日本の領海の外に待機している艦隊にナージャごと引き渡す予定だった。
しかし、ここで問題が起こった。先の戦闘でナージャが受けた損傷が予想外に大きかったのだ。
潜水能力そのものは失われていないが、核物質を運ぶために必要な、素材と一体化して格納する機能が不具合を起こしていた。
気密が確保出来ないのだ。このままでは海中に漏出してしまう。
自己修復能力での回復を待っていたら、今度は三河湾内に大量の自衛軍の潜水艦が警戒に当たるようになっていた。
これでは神聖同盟の潜水艦が迎えに来ることができない。しかし潜水艦を蹴散らすためにはナージャを出撃させなければならず、その間に拠点を敵のブラックコアで襲撃されれば終わりだ。
ナージャの回復を待つために時間稼ぎが必要だ。もしくは敵のブラックコアをここで倒しきるか。
「だがこの国が軍隊の出動をさせたがらない事には助かる。」
軍用兵器を持ち込んでいる神聖同盟のスパイたちだったが、バックアップを受けた陸軍と戦ってはひとたまりもないだろう。
最終的には出動することになるだろうがそれまでには決着がついているはずだ。
だから主に警察を相手にすればいい。それならば問題ない。
「治安出動には国会の承認が要るのだったか?さらに時間が稼げるな」
…………
………
……
…
荒間城太郎邸。
電灯を消した薄暗い書斎で彼は何者かと通話をしていた。
盗聴対策を徹底的に施したホットラインである。
「お願いしますよ」
「……」
通話相手の声は第三者には聞こえない。
「今彼らを逃せば通商協定の大国に大きく借りを作ることになります」
「………」
「県知事の要請に基づく出動なら国会の承認も必要ないはずです」
「……………!!」
「マスコミがやかましい?また金をバラまけばいいでしょう。恐山地下の金鉱脈はそっくりお渡ししましたよね」
「……」
「はい。知事の説得もお願いします。こちらにはつてがないので」
「……」
「私は役に立っているでしょう?あなたには利益をもたらすように動きます」
「」
最後に城太郎はゆっくりと含むように呟いた。
「宜しくお願いします。官房長官」
…………
………
……
…
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜
猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。
ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。
そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。
それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。
ただし、スキルは選べず運のみが頼り。
しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。
それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・
そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる