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4章
③終わり
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学生時代のテニス部での「はりつけ」を思い出した。僕はあの頃から何も変わっていない。最期まで一人だった。
今、5色の光が僕に向けられている。死を迎える光はそれはそれは美しい。まるでボッチを正義が駆逐するかのように思える。
フルにチャージされた魔法球は一斉に今放たれようとしている。
死ぬってどんな感じだろう。天国とかあるのか。また生まれ変わるとかあるのか。いやそんなことはない。人間の空想上の産物に過ぎない。腐って土にかえるだけだ。いずれにせよ、こんな世界は二度とごめんだ。
エネルギーが吸われる。意外と苦しくない。段々と意識が遠のいていく感じだ。眠るように、一生目覚めることのない眠りに入ろうとしている。
その時、大きな、そしてなじみ深い声が響いた。
「ケミカル!」「ケミカル!」
永遠の眠りに着こうとしていた僕は急にたたき起こされた。安眠妨害をしたその主は、
「マユリ、サキ先生・・・・・・どうして」
「何、勝手に死のうとしているんだ。死ぬなどこの私が許さん」
「そうだよ、タカ君!先に修了式に行くとかありえないよ!」
校長は特に怒る様子も、驚く様子もなく静かに突然の乱入者に語り掛けた。
「おい、君たち。何をしているんだ。ここは修了式の場ではない。マユリさんは早く友人たちと修了式で談笑でもしておいで。サキ先生もこんなところでサボってないで式の準備をしていただきたい」
「すみませんが、嫌です。私はタカ君とサキ先生と修了式を迎えたいです」
「それはできない相談だね。契約の履行中に変な思い入れができてしまったのかもしれないけど、そんなものは一時の心の揺らぎにすぎない。こちらから契約を持ちかけた手前私が言うのもなんだが、マユリさんはもっといい人と付き合うべきだ。というよりもっといい人と付き合える。それに契約は本日をもって終了だ。ご苦労を掛けた。しっかりと報奨金も支払おう。それにさっきの妨害も不問にする」
いかにも心が広いですよーというような感じで語り掛けている。合理的に考えても憎まれている僕を切り捨て、金をとる方が賢い選択だ。僕が死んで終わり。サキ先生とマユリがお金を得て、高い地位を得て、不自由ない生活を送る。それでいいじゃないか。
なのにどうして。
「嫌です」
「そうだな、私も嫌だな」
「そうか、お前らはその『ボッチ』に味方するのか。仕方ない。君たちは地下に幽閉だ。取り押さえろ!」
一斉に兵士がサキ先生とマユリに襲い掛かる。さすがに校長直属の近衛隊だ。魔法の威力もスピードもけた違いだ。マユリはあっという間に追い詰められている。サキ先生は応戦しているものの、このままではジリ貧だ。
「もういい。もうええから。やめれくれ。金がもらえるんやろ!」
「ウィンド!」
サキ先生が自分の体にウィンドを当てて包囲網を突破した。瞬間的な高速移動だ。
「タカヒロ、金じゃないんだよ。心なんだよ」
「!?」
「逃げろ。そして生き延びろ。きっとボッチ以外の生き方も見つけられる。気づいてるんだろ?今のままじゃダメだって。それにな・・・・・・」
「何をしている。たかが教官一人に生徒一人に何を手間取るお前たちではないだろ?」
「たかが教官一人?舐めてもらっちゃ困る。私はこの白の軍、事務官長、この魔法システムを作った者の一人だ。どこまでいっても所詮私の掌の上だ。サウンド!」
オレンジの球が飛び出す。よくわからないプログラム言語のようなものが発せられる。僕とマユリ、兵士たちは唖然と、サキ先生は自信満々の笑みで、さっきまで余裕の表情だった校長は青ざめている。
オレンジの球が消えると同時にはりつけにされていた僕の真後ろに空間の裂け目が現れた。
「さぁ、また会おうぜ!マユリもこい、ウィンド」
サキ先生のウィンドでマユリが吹っ飛ばされ、僕に直撃する。
「どうして・・・・・・」
「どうしてもこうしてもないよ。わたしも一緒に連れて行って」
「なんで・・・・・・」
「ん~~~~~!じれったい。わたしがタカ君のことが大好きだから!」
マユリは顔を真っ赤にしている。気持ちが整理できない。なんで、どうして、なんで、どうしてが頭の中でループしている。
「僕は・・・・・・」
言いかけた瞬間、体が弾かれ、空間の裂け目に飲み込まれていく。校長が魔法球を放っていた。
「マ、ユリ・・・・・・」
手を伸ばそうにも張り付けれていて体が動かない。
「必ず、絶対に必ず会いに行くから!わたし、返事待ってるから!」
視界が暗闇に包まれた。耳にはカタンカタンとリズムのいい音、体は心地よい振動に揺られていた。
どこにいくのか、ほどなくして音も振動も感じなくなった。代わりに温かくて柔らかいものに包まれている。視界が晴れていく。
そこは畳の部屋、5畳半の部屋、二階東向き。
そして聞き覚えのあるガシャンガシャンという音、そして聞き覚えのある声。
「ギーーーーーーーーーーー!」
こん棒を持った中世風の鎧を着た二頭身の生き物が目の前でこん棒を振り上げていた。やっぱり死ぬのか。目をつぶった。
YOU ARE DEAD・・・・・・?
第一部 完
今、5色の光が僕に向けられている。死を迎える光はそれはそれは美しい。まるでボッチを正義が駆逐するかのように思える。
フルにチャージされた魔法球は一斉に今放たれようとしている。
死ぬってどんな感じだろう。天国とかあるのか。また生まれ変わるとかあるのか。いやそんなことはない。人間の空想上の産物に過ぎない。腐って土にかえるだけだ。いずれにせよ、こんな世界は二度とごめんだ。
エネルギーが吸われる。意外と苦しくない。段々と意識が遠のいていく感じだ。眠るように、一生目覚めることのない眠りに入ろうとしている。
その時、大きな、そしてなじみ深い声が響いた。
「ケミカル!」「ケミカル!」
永遠の眠りに着こうとしていた僕は急にたたき起こされた。安眠妨害をしたその主は、
「マユリ、サキ先生・・・・・・どうして」
「何、勝手に死のうとしているんだ。死ぬなどこの私が許さん」
「そうだよ、タカ君!先に修了式に行くとかありえないよ!」
校長は特に怒る様子も、驚く様子もなく静かに突然の乱入者に語り掛けた。
「おい、君たち。何をしているんだ。ここは修了式の場ではない。マユリさんは早く友人たちと修了式で談笑でもしておいで。サキ先生もこんなところでサボってないで式の準備をしていただきたい」
「すみませんが、嫌です。私はタカ君とサキ先生と修了式を迎えたいです」
「それはできない相談だね。契約の履行中に変な思い入れができてしまったのかもしれないけど、そんなものは一時の心の揺らぎにすぎない。こちらから契約を持ちかけた手前私が言うのもなんだが、マユリさんはもっといい人と付き合うべきだ。というよりもっといい人と付き合える。それに契約は本日をもって終了だ。ご苦労を掛けた。しっかりと報奨金も支払おう。それにさっきの妨害も不問にする」
いかにも心が広いですよーというような感じで語り掛けている。合理的に考えても憎まれている僕を切り捨て、金をとる方が賢い選択だ。僕が死んで終わり。サキ先生とマユリがお金を得て、高い地位を得て、不自由ない生活を送る。それでいいじゃないか。
なのにどうして。
「嫌です」
「そうだな、私も嫌だな」
「そうか、お前らはその『ボッチ』に味方するのか。仕方ない。君たちは地下に幽閉だ。取り押さえろ!」
一斉に兵士がサキ先生とマユリに襲い掛かる。さすがに校長直属の近衛隊だ。魔法の威力もスピードもけた違いだ。マユリはあっという間に追い詰められている。サキ先生は応戦しているものの、このままではジリ貧だ。
「もういい。もうええから。やめれくれ。金がもらえるんやろ!」
「ウィンド!」
サキ先生が自分の体にウィンドを当てて包囲網を突破した。瞬間的な高速移動だ。
「タカヒロ、金じゃないんだよ。心なんだよ」
「!?」
「逃げろ。そして生き延びろ。きっとボッチ以外の生き方も見つけられる。気づいてるんだろ?今のままじゃダメだって。それにな・・・・・・」
「何をしている。たかが教官一人に生徒一人に何を手間取るお前たちではないだろ?」
「たかが教官一人?舐めてもらっちゃ困る。私はこの白の軍、事務官長、この魔法システムを作った者の一人だ。どこまでいっても所詮私の掌の上だ。サウンド!」
オレンジの球が飛び出す。よくわからないプログラム言語のようなものが発せられる。僕とマユリ、兵士たちは唖然と、サキ先生は自信満々の笑みで、さっきまで余裕の表情だった校長は青ざめている。
オレンジの球が消えると同時にはりつけにされていた僕の真後ろに空間の裂け目が現れた。
「さぁ、また会おうぜ!マユリもこい、ウィンド」
サキ先生のウィンドでマユリが吹っ飛ばされ、僕に直撃する。
「どうして・・・・・・」
「どうしてもこうしてもないよ。わたしも一緒に連れて行って」
「なんで・・・・・・」
「ん~~~~~!じれったい。わたしがタカ君のことが大好きだから!」
マユリは顔を真っ赤にしている。気持ちが整理できない。なんで、どうして、なんで、どうしてが頭の中でループしている。
「僕は・・・・・・」
言いかけた瞬間、体が弾かれ、空間の裂け目に飲み込まれていく。校長が魔法球を放っていた。
「マ、ユリ・・・・・・」
手を伸ばそうにも張り付けれていて体が動かない。
「必ず、絶対に必ず会いに行くから!わたし、返事待ってるから!」
視界が暗闇に包まれた。耳にはカタンカタンとリズムのいい音、体は心地よい振動に揺られていた。
どこにいくのか、ほどなくして音も振動も感じなくなった。代わりに温かくて柔らかいものに包まれている。視界が晴れていく。
そこは畳の部屋、5畳半の部屋、二階東向き。
そして聞き覚えのあるガシャンガシャンという音、そして聞き覚えのある声。
「ギーーーーーーーーーーー!」
こん棒を持った中世風の鎧を着た二頭身の生き物が目の前でこん棒を振り上げていた。やっぱり死ぬのか。目をつぶった。
YOU ARE DEAD・・・・・・?
第一部 完
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