war of the ボッチ~ボッチでもラブコメできますか?~

前田 隆裕

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3章

④合格祝い(デート?)

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 下剋上戦からずいぶん寝ていたらしい。自分ではわからないくらい相当無理したのだろう。気が付けば卒業の日前日になっていた。

「光のパレードか。三陣でこの世界に来た人たちがやってくれるそうだけど」

「相当大きなお祭りみたいだよ。食べて、飲んで、歌って、踊って、とにかくめちゃくちゃ楽しいってサキ先生が言ってた」

「サキ先生も来ればよかったのにな。なんか急にその日は忙しくなるとか言い出してな」

「うん……そうだね」

「じゃ、僕は先にウォーターベッドを手配しにいくから、裏門で待っててくれる?」

「わかった。タカ君もあの時の特別授業みたいにすっぽかさないでね」

「それは、ひじょーにいたいところを突くね」

 笑いながら僕はサキ先生の事務室を後にした。

 思い返せば一か月はあっという間だった気がする。一か月の辛抱だ、一か月がんばれば、なんてずっと思ってきたがそれも終わってしまった。あとの事はサキ先生に話をつけている。後は卒業のみだ。

 卒業がこんなにすがすがしいのは初めてだ。これまでは最後の思い出作りと言わんばかりの周囲の盛り上がりについていけず、もやもやとした気持ちのまま、はやばやとたった一人先に家に帰っていた。紆余曲折あったが、今回はそばに人がいる。たった一人いるだけでこんなに気持ちが変わるものなのかと正直驚きだ。

 ウォーターベッドを手配して、裏門に来てみるとマユリはいなかった。そうかすっぽかされたのは自分の方か。よし、帰ろう。ボッチがこんな期待を抱くのは間違っている。

「って、またどうして帰ろうとしてるのかな?」

「ああ、マユリが急に僕に嫌気がさして、ドタキャンされたのかと思って」

「そんなことしないよ~」

「そんなことするのが人の怖いところ」

「ろくな出会いしか……、あっこれデジャブだ」

「僕もそう思った。……まあ、それは置いといて、さあ乗って。もうウォーターは使わんくってええよな。スカートの、時はウォーター、使わない。しっかり刻み込んだから」

「今日はウォーター使っても別に大丈夫だよ。ちゃんと下に履いてるから」

「防御力抜群でいいね」

「防御力って……タカ君ってちょっと変わってるよね。今更だけど」

「そうそう、自分は他とは違うんや。個性と言ってほしいな」

「そんな変わったところを含めて、わたしは・・・・・・って!なんでもない、なにを言ってるんだろわたし。つかれてるのかな」

「じゃあ帰る?」

「当然行くよ!さあレッツゴー!」

 ウォーターでマユリをふわりと浮かせてウォーターベッドにそっと乗せた。スカートもめくれず、魔法の上達を実感する。判断基準が少々微妙なのが残念だが。

 夕日が段々と沈んでいっている。まだ赤い空を二人で静かに飛んでいった。ただでさえ人混みが苦手なのに、人混みに向かうまでにまた渋滞とやらで人混みにぶつかるのは嫌だった。そんな僕の気持ちをくんでか、ウォーターベッドは一番空いているルートを通るようにしてくれたようで、こうして静かに飛んでいけているわけだ。ガーゴイルとの戦いでは苦楽を共にし、もはや戦友みたいな感覚だ。物が友達とは、いかにもボッチらしい。

「明日は卒業だね」

 不意にマユリが口を開いた。

「そうやね」

「あっという間だった。急に知らない世界に飛ばされて、人類消滅とか言われて、魔法とか使って魔物を倒して、ほんとにいろいろあった。一生分生きたような気がするよ」

「一生分は大げさや。これからもまだまだずっと続く。今は人間百年の時代やからね」

「これからどうなるんだろう」

「なに、サキ先生がいれば大丈夫。あの人、校長にすら直談判に行くような人だから何があっても安心や」

「うん、そうだね」

「やろ?あっ光の塔とやらが見えてきた。もうすぐ到着や。ウォーターベットのヘリにつかまって」
 着陸態勢に入る。

「『僕がいれば大丈夫』とはいってくれないの?」

「え?なんやって、ちょっと操縦に集中してて聞こえへんかった」

「もう、タカ君の難聴」

「難聴で悪かったな」

「そんなことは聞き取るんだね。じゃあちょっとアレンジして鈍感地獄耳?」

「いつになく辛らつだけど、もうなんでもええや、どうぞお好きに」
 マユリはくすくす笑っていた。からかわれていたのか、怒られていたのかよくわからない。相変わらず人の気持ちというのは難しい。

 その後は人生最高といってもいいほど感動的な思い出となった。周りはあたたかなシャインの光に包まれて、サウンドによるにぎやか、それでいてほっとするような曲が流れていた。またお祭りにつきものの出店もたくさんあり、

「タカ君!あっちも見に行こっ」

「そんなにはしゃがんくても」

「なんか楽しすぎてやばいよ~。それにタカ君も私服姿、やけにかっこよく見える」
 少し顔を赤らめながら、マユリは恥ずかしいことを言ってくる。こっちまでドキッとするやないか。

「えっと、まあそのなんや、こういう暗いところでイルミネーションを見るときは人の目の瞳孔が開くわけで、その開いた瞳孔を見ると人は心理学的に気持ちが昂るわけであって……」

「タカ君は平常運転だね。でもちょっと動揺した?」

「いや、僕はいつでも冷静沈着、のはず」

「今日はそんなタカ君をもっとドキドキさせてやる!」
 意地悪っぽく微笑むマユリはまたしてもドキッとさせる。

「もう十分ドキドキさせられてるんだけどな……」

「何か言った?」

「いやなんでもない。それよりほかにも見たいところがあるんやったっけ?」

「そうそう!さあさあどんどん見て回ろ。楽しい時間はあっという間だよ。今日は朝まで寝かさないぜっ」

「それ、違う意味にも聞こえるから要注意ね」

「……!?ちっ、違うからね。私はそういうつもりで言ったんじゃないからね。ただいっぱい楽しもうって意味だから」

「わかってるわかってる。マユリはおもしろいな~」

「からかわないでよ~」

 そんな甘い時間が過ぎていった。とても甘くて、これまでブラックコーヒー並みの苦さの人生がカフェオレぐらいにはなっただろうか。こんな時間が一生続けばいいと思ってしまった。あんなに一人がいいと言っていたのに、いったい自分はどうしてしまったのだろうか。何が僕を変えてしまったのだろうか。

 いったい何が?きっとサキ先生やマユリなのは間違いない。だがその根本がわからない。温かくて、ほっとするような、それでいて少し刺激があって……。

「タカ君、早く~」

 やっぱりわからん。そうだ、サキ先生も言っていた。こういうのは理屈じゃない。感情的なものなのだろう。それなら考えても無駄だ。いつか自然とわかる。

「すぐ行くよ~」

 人混みを咲きながらマユリを追いかける。
「ちょっとすいません。どいてもらえますか」
 声をかけた瞬間にしまった、思った。

「おう、タカピーひさしぶりだな。ずいぶんと楽しそうで」
 周りを見ると下剋上戦で戦った上位、男5人がいた。
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