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3章
②下剋上(3)
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早速「ウィンド」「ウィンド」「ウィンド」「ウィンド」と一斉に四人が魔法を唱えてきた。杖の先はもちろん予想通り全員自分の方向だ。
緑の魔法球は連続で飛んでくる。当たれば確実に吹っ飛び場外、ゲームオーバーだ。だが距離がある。
最初の二つの球は軽くよけた、が時間差で次の二つが飛んでくる。
「ウォーター、ウォーター、シャイン」
自分の魔法に威力はない。スピードで勝負するしかない。
三つの魔法球を打ちだして距離を詰め、自分の方からウィンドへ突っ込んでいく。
「お~と、タカヒロ選手自分から魔法球に突っ込んでいってます。何を考えているのでしょうか。相殺しようにもあのウォーターでは足りません。最下位の考えることはわかりません」
悪意の感じられる実況中継をよそに、そのまま至近距離でウォーターをウィンドにぶつける。
「相殺!……は無理だろうな。」
ウィンドは消えることなくそのまま飛んできた。三番、四番とも安堵の表情を浮かべる。
「よっしゃもら……ってまぶし!?シャインか」
「こんなところで安心するのが運の尽き。仲良くやられろ。ファイヤー、分割、掃射!」
至近距離での急激な攻守交代、というよりも守の隙も与えずに眼前で三番四番に向かってガトリング掃射。実際のダメージは小さい。だがこのルールはどんなワンヒットでも十ポイント減だ。開始三分で三番と四番がゲームオーバーだ。ブーイングがひどいな。だが自分にとっては何を言われようとガヤガヤとしか聞こえない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
観客席の隅っこではマユリとサキ先生が試合を見ていた。
「タカ君、最初からえげつないですね」
「私はいい気味だと思うがな。それにタカヒロはあんな仲良しごっこ組に負けるはずがない」
「たしかにそうかも。それにあの戦いもタカ君らしいというか」
「タカ君らしい、か。そうだな。そう思えるならいい。それといいか、マユリもこの戦いはよく見ておくんだぞ。今しか見れないかもしれないからな」
妙に真剣な言葉だった。今しか見れないってそりゃ催しは一回こっきりだから当たり前のはずなのに。まあいつもの熱血教師ぶりなのかな。
「はい」
その時はさらっと流した。今はできるだけ楽しもう。そう思った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「最初から番狂わせが起きましたね~。ですが最後はまだまだ分かりませんよ~」
人数が二人減ったのは大きい。魔法が見切りやすくなって不意打ちの心配がない。
「シャイン」
「ダーク!」
「ウィンド!」
だが相変わらず三対一というのはうっとうしい。自分が出した魔法を一人は打ち消し、もう二人は攻撃に専念してくる。早めに決めなければ体力切れになる。
打ち出されたウィンドを避けて、攻撃してくる五番に近づく。
「もう同じ手は食わないよ。ダーク」
さきに相手が自分の視界を打ち消してきた。
「同じ手を使うとは言ってないんやけどな。自分もダーク、そしてウォーター!」
自分にウォーターを打って、二人のダークが合わさった闇の外へ出る。闇から明後日の方向へウィンドの球が雑に飛んで行っている。さぞ勝利の気分を味わっているのだろうか、慌てているのかどちらかだろう。
掲示板をチラッと見ると自分のライフは残り五十で変動なしだ。自分の魔法ならライフは減らないことを確信し
「分割、掃射!」
闇の中へ上空からウィンドの球を満遍なく打った。おお、五番のライフがどんどん減っていってるな。愉快だ。
「シャイン」
ようやく闇が晴れたっと思った瞬間に、
「遅いな。ファイヤー」
至近距離で五番の最後の十ポイントを削った。自分の残ライフもわからず打たれ続け無残に散った。
「とうとう下位組の試合も大詰めで~す。まさか最下位とワースト二が残るとは私も予想しておりませんでした。ブーイングの嵐がすごいですが、ぜひともワースト二、合格者マチ選手には失格者タカヒロに勝ってほしいですね」
アナウンサーも中立の態度を完全に捨てている。さて軽く勝ちに行くとしますか。
「えっと、二番さんですか。遠慮なくつぶしに行きますよ」
さあこれでスカッとフィナーレとしよう。スカッとジャパンを体現しよう。
「いいですよ。どうぞつぶしてください。お願いします。あっ、あとマチですから。二番ではありませんから」
「・・・・・・はい?」
あまりにも意外な答えに肩透かしを食らった。
「?そこは望むところだ、くらい言ってほしいんですが。二番さん」
「いいんです。私は点数もいらないですし、タカヒロさんにあげます」
素直で真面目そうな子だ。嘘は言っていない。が疑うのが性分だ。
「どうも信じられないんですが、じゃあウィンドで吹っ飛ばされてくれますか?」
「私の名前を呼んでくれたらいいですよ。あと……えっと……痛くしないでくださいね。それに……」
マチが近付いてきた。一応隠し玉でウォーターを持っているが、すぐに緊急避難できるようもう一度杖を握りしめる。手汗が随分にじんでいる。
しかし、マチは杖すらも捨て自分の耳元に口を近づけてきた。
「私、白の軍が嫌いですから。タカヒロさんにあこがれます」
はっとしたん瞬間自分はウィンドを唱えてマチを吹っ飛ばした。痛くしないでね、どころか今までで最高のウィンドだった。
審判員が飛んでいくマチをウィンドのサンドバックで抑えて救護室へ運んでいった。ふとマチは自分の方を一瞬見て微笑んでいた。疲れたようなそんな微笑み。
いったい何だったのだろうか。だがこれだけは言っておきたかった。
「二番さん、私は慣れあうつもりはない。ただのワースト一位とワースト二位だ。それ以外の何物でもない。私以外は皆、敵だ」
何か話したそうな感じがしたがそのまま救護室に運ばれていった。本当に一体何だったのだろう。
その時ゴングが鳴った。
「は~い、試合終了!いや~誰がこの結果を予想したでしょうか。なんと失格者が予選を突破してしまいました。しかしあの研修生たちはまだまだ未熟でした。明日は上位組の試合です。失格者がメタメタにやられるのを乞うご期待!では解散」
闘技場から出る際、雑踏に紛れて聞こえなかったブーイングがより個別具体的に明瞭に聞こえた。「お前には心がないのか」「そんなんだから友達がいないんだ」「あいつS?ひどすぎるよね」「マチちゃんかわいそう」エトセトラ。人を傷つける言葉を言ってはいけませんと学校で習わなかったのか。心無い言葉を発するお前らのほうが心がないだろう。自分の中で必死に反論を立てる。いや、私は敵だからいいのか?そう、敵は愚弄されて当たり前だ。二番さんもワースト一位がいるから浮かばれる。
私自身は理性で支える。支えて支えて支えて支え切って、そして明日勝てば圧倒的な地位と名誉だ。こんなことを言えないくらい偉くなってやる。ボッチにはカネと権力が必要なのだ。
「タカ君!」
ブーイングを言いながら通りすがる雑踏の中、マユリが声をかける。よくこの中自分に声をかけてきたな。
「やっぱりマユリは強いよ」
「そんなことはおいといて、さっきのマチ?との戦い、あれなんだったの?」
「なんだったんやろうな」
「とぼけない!あの子、痛くしないでねとか耳元に口を近づけたりとかいったい何?」
「あんな喧噪のなかよく聞こえたね」
「それはサキ先生のサウンドで……って話をそらさないで。」
「二番の子、白の軍が嫌いって言ったんだよ」
「!?それほんと?」
「うん、それに戦闘放棄までして」
「欲がないのか、変わった子ね」
「それに、僕にあこがれるとかも言っとったわ」
「それはうそだよ。悪魔の言葉に惑わされちゃだめだよ。タカ君」
「何を根拠に。それに悪魔って……」
するとつかつかとサキ先生が二人の会話の間に入ってきた。
「おう、タカヒロよく頑張った、というか私の教え子ならこれくらい当たり前だな」
「そうですね。当たり前です」
「よし、この調子なら安心したぞ。マユリも最後のマチとタカヒロの戦いを見て一目散にかけていったからな。なぁマユリ。愛しのタカ君が心配でたまらなかったんだろ。なぁなぁなぁ」
「違います!ちょっとお手洗いに行きたかっただけだから!」
「トイレなら逆方向だけど」
「そうだったっけ?……えっとえっとえっとじゃあ……」
「マユリ、顔が赤いぞ」
「えっ!?」
「それにサキ先生、えっと二番さんだっけ、その人の事を悪魔だから惑わされちゃダメってマユリが言
うんですよ」
「それはおもしろ……いや実に重要な証言だな。そこんとこ詳しく」
「二人してからかって~~うぅ~~」
相変わらず顔を赤らめながら走っていってしまった。っと思ったらまた戻ってきた。
「そうそう、タカ君、今日はお疲れ様!明日も頑張れるよう、料理期待しといて!」
「ああ、期待しとくよ!」
「うんっ」
曇りのない満面の笑みでマユリは今度こそ部屋へ戻っていった。
あああったかい。さっきまで吹雪の中にいるようだったが、今は暖炉のそばでいるようだ。
「良い感じだろ?」
「そうですね。まあ後数日で合格者になろうが失格者になろうが卒業ですが」
「そう冷たいことを言うな。しかももしお前が合格者になったらマユリと二人で私直属の部下になる予
定になってるんだから」
「それ初耳ですよ!?」
「ずっと一緒だ!」
残念さと何かかが入り混じったような気持ちになる。残念さはよくわかる。今まで愛してやまなかった一人の時間が奪われるのだ。自由が奪われる。忙しくなる。気を遣う日々が待っている。それに嫌われ者はここにいるべきではない。
しかしそれと同時によくわからない心が弾むものを感じる。うれしいのか。いやそんなはずはない。この私に限ってそんなことはない。偉く、強く、賢く、理性的に、野獣にならず生きるべきだ。重くのしかかる『本心のまま、思うまま、欲望のまま突っ切れ』に目を背けて。
緑の魔法球は連続で飛んでくる。当たれば確実に吹っ飛び場外、ゲームオーバーだ。だが距離がある。
最初の二つの球は軽くよけた、が時間差で次の二つが飛んでくる。
「ウォーター、ウォーター、シャイン」
自分の魔法に威力はない。スピードで勝負するしかない。
三つの魔法球を打ちだして距離を詰め、自分の方からウィンドへ突っ込んでいく。
「お~と、タカヒロ選手自分から魔法球に突っ込んでいってます。何を考えているのでしょうか。相殺しようにもあのウォーターでは足りません。最下位の考えることはわかりません」
悪意の感じられる実況中継をよそに、そのまま至近距離でウォーターをウィンドにぶつける。
「相殺!……は無理だろうな。」
ウィンドは消えることなくそのまま飛んできた。三番、四番とも安堵の表情を浮かべる。
「よっしゃもら……ってまぶし!?シャインか」
「こんなところで安心するのが運の尽き。仲良くやられろ。ファイヤー、分割、掃射!」
至近距離での急激な攻守交代、というよりも守の隙も与えずに眼前で三番四番に向かってガトリング掃射。実際のダメージは小さい。だがこのルールはどんなワンヒットでも十ポイント減だ。開始三分で三番と四番がゲームオーバーだ。ブーイングがひどいな。だが自分にとっては何を言われようとガヤガヤとしか聞こえない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
観客席の隅っこではマユリとサキ先生が試合を見ていた。
「タカ君、最初からえげつないですね」
「私はいい気味だと思うがな。それにタカヒロはあんな仲良しごっこ組に負けるはずがない」
「たしかにそうかも。それにあの戦いもタカ君らしいというか」
「タカ君らしい、か。そうだな。そう思えるならいい。それといいか、マユリもこの戦いはよく見ておくんだぞ。今しか見れないかもしれないからな」
妙に真剣な言葉だった。今しか見れないってそりゃ催しは一回こっきりだから当たり前のはずなのに。まあいつもの熱血教師ぶりなのかな。
「はい」
その時はさらっと流した。今はできるだけ楽しもう。そう思った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「最初から番狂わせが起きましたね~。ですが最後はまだまだ分かりませんよ~」
人数が二人減ったのは大きい。魔法が見切りやすくなって不意打ちの心配がない。
「シャイン」
「ダーク!」
「ウィンド!」
だが相変わらず三対一というのはうっとうしい。自分が出した魔法を一人は打ち消し、もう二人は攻撃に専念してくる。早めに決めなければ体力切れになる。
打ち出されたウィンドを避けて、攻撃してくる五番に近づく。
「もう同じ手は食わないよ。ダーク」
さきに相手が自分の視界を打ち消してきた。
「同じ手を使うとは言ってないんやけどな。自分もダーク、そしてウォーター!」
自分にウォーターを打って、二人のダークが合わさった闇の外へ出る。闇から明後日の方向へウィンドの球が雑に飛んで行っている。さぞ勝利の気分を味わっているのだろうか、慌てているのかどちらかだろう。
掲示板をチラッと見ると自分のライフは残り五十で変動なしだ。自分の魔法ならライフは減らないことを確信し
「分割、掃射!」
闇の中へ上空からウィンドの球を満遍なく打った。おお、五番のライフがどんどん減っていってるな。愉快だ。
「シャイン」
ようやく闇が晴れたっと思った瞬間に、
「遅いな。ファイヤー」
至近距離で五番の最後の十ポイントを削った。自分の残ライフもわからず打たれ続け無残に散った。
「とうとう下位組の試合も大詰めで~す。まさか最下位とワースト二が残るとは私も予想しておりませんでした。ブーイングの嵐がすごいですが、ぜひともワースト二、合格者マチ選手には失格者タカヒロに勝ってほしいですね」
アナウンサーも中立の態度を完全に捨てている。さて軽く勝ちに行くとしますか。
「えっと、二番さんですか。遠慮なくつぶしに行きますよ」
さあこれでスカッとフィナーレとしよう。スカッとジャパンを体現しよう。
「いいですよ。どうぞつぶしてください。お願いします。あっ、あとマチですから。二番ではありませんから」
「・・・・・・はい?」
あまりにも意外な答えに肩透かしを食らった。
「?そこは望むところだ、くらい言ってほしいんですが。二番さん」
「いいんです。私は点数もいらないですし、タカヒロさんにあげます」
素直で真面目そうな子だ。嘘は言っていない。が疑うのが性分だ。
「どうも信じられないんですが、じゃあウィンドで吹っ飛ばされてくれますか?」
「私の名前を呼んでくれたらいいですよ。あと……えっと……痛くしないでくださいね。それに……」
マチが近付いてきた。一応隠し玉でウォーターを持っているが、すぐに緊急避難できるようもう一度杖を握りしめる。手汗が随分にじんでいる。
しかし、マチは杖すらも捨て自分の耳元に口を近づけてきた。
「私、白の軍が嫌いですから。タカヒロさんにあこがれます」
はっとしたん瞬間自分はウィンドを唱えてマチを吹っ飛ばした。痛くしないでね、どころか今までで最高のウィンドだった。
審判員が飛んでいくマチをウィンドのサンドバックで抑えて救護室へ運んでいった。ふとマチは自分の方を一瞬見て微笑んでいた。疲れたようなそんな微笑み。
いったい何だったのだろうか。だがこれだけは言っておきたかった。
「二番さん、私は慣れあうつもりはない。ただのワースト一位とワースト二位だ。それ以外の何物でもない。私以外は皆、敵だ」
何か話したそうな感じがしたがそのまま救護室に運ばれていった。本当に一体何だったのだろう。
その時ゴングが鳴った。
「は~い、試合終了!いや~誰がこの結果を予想したでしょうか。なんと失格者が予選を突破してしまいました。しかしあの研修生たちはまだまだ未熟でした。明日は上位組の試合です。失格者がメタメタにやられるのを乞うご期待!では解散」
闘技場から出る際、雑踏に紛れて聞こえなかったブーイングがより個別具体的に明瞭に聞こえた。「お前には心がないのか」「そんなんだから友達がいないんだ」「あいつS?ひどすぎるよね」「マチちゃんかわいそう」エトセトラ。人を傷つける言葉を言ってはいけませんと学校で習わなかったのか。心無い言葉を発するお前らのほうが心がないだろう。自分の中で必死に反論を立てる。いや、私は敵だからいいのか?そう、敵は愚弄されて当たり前だ。二番さんもワースト一位がいるから浮かばれる。
私自身は理性で支える。支えて支えて支えて支え切って、そして明日勝てば圧倒的な地位と名誉だ。こんなことを言えないくらい偉くなってやる。ボッチにはカネと権力が必要なのだ。
「タカ君!」
ブーイングを言いながら通りすがる雑踏の中、マユリが声をかける。よくこの中自分に声をかけてきたな。
「やっぱりマユリは強いよ」
「そんなことはおいといて、さっきのマチ?との戦い、あれなんだったの?」
「なんだったんやろうな」
「とぼけない!あの子、痛くしないでねとか耳元に口を近づけたりとかいったい何?」
「あんな喧噪のなかよく聞こえたね」
「それはサキ先生のサウンドで……って話をそらさないで。」
「二番の子、白の軍が嫌いって言ったんだよ」
「!?それほんと?」
「うん、それに戦闘放棄までして」
「欲がないのか、変わった子ね」
「それに、僕にあこがれるとかも言っとったわ」
「それはうそだよ。悪魔の言葉に惑わされちゃだめだよ。タカ君」
「何を根拠に。それに悪魔って……」
するとつかつかとサキ先生が二人の会話の間に入ってきた。
「おう、タカヒロよく頑張った、というか私の教え子ならこれくらい当たり前だな」
「そうですね。当たり前です」
「よし、この調子なら安心したぞ。マユリも最後のマチとタカヒロの戦いを見て一目散にかけていったからな。なぁマユリ。愛しのタカ君が心配でたまらなかったんだろ。なぁなぁなぁ」
「違います!ちょっとお手洗いに行きたかっただけだから!」
「トイレなら逆方向だけど」
「そうだったっけ?……えっとえっとえっとじゃあ……」
「マユリ、顔が赤いぞ」
「えっ!?」
「それにサキ先生、えっと二番さんだっけ、その人の事を悪魔だから惑わされちゃダメってマユリが言
うんですよ」
「それはおもしろ……いや実に重要な証言だな。そこんとこ詳しく」
「二人してからかって~~うぅ~~」
相変わらず顔を赤らめながら走っていってしまった。っと思ったらまた戻ってきた。
「そうそう、タカ君、今日はお疲れ様!明日も頑張れるよう、料理期待しといて!」
「ああ、期待しとくよ!」
「うんっ」
曇りのない満面の笑みでマユリは今度こそ部屋へ戻っていった。
あああったかい。さっきまで吹雪の中にいるようだったが、今は暖炉のそばでいるようだ。
「良い感じだろ?」
「そうですね。まあ後数日で合格者になろうが失格者になろうが卒業ですが」
「そう冷たいことを言うな。しかももしお前が合格者になったらマユリと二人で私直属の部下になる予
定になってるんだから」
「それ初耳ですよ!?」
「ずっと一緒だ!」
残念さと何かかが入り混じったような気持ちになる。残念さはよくわかる。今まで愛してやまなかった一人の時間が奪われるのだ。自由が奪われる。忙しくなる。気を遣う日々が待っている。それに嫌われ者はここにいるべきではない。
しかしそれと同時によくわからない心が弾むものを感じる。うれしいのか。いやそんなはずはない。この私に限ってそんなことはない。偉く、強く、賢く、理性的に、野獣にならず生きるべきだ。重くのしかかる『本心のまま、思うまま、欲望のまま突っ切れ』に目を背けて。
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