war of the ボッチ~ボッチでもラブコメできますか?~

前田 隆裕

文字の大きさ
上 下
60 / 70
3章

①論争(3)

しおりを挟む
 どうすれば人が動くのか。確か昔、本で読んだことがある。まず人の選択肢をすべてふさぎつぶして心理的に追い込む。そして一つだけ逃げ道を作ってやる。すると人は面白いようにその逃げ道に走る。その逃げ道を自分が望む行動にする。

 うん、簡単そうに言ってくれるがまず無理だ。人を追い込めるほど対人能力はない。

 他にも読んだことがあったな。たしか、占いとかで使われる誰にでも当てはまりそうなことを言って、信じさせるやつ。それで小さな奇跡を見せてやって、自分で選択することがいかに恐ろしいことかを刷り込ませる。

 最終的には相手の選択権を奪って自分の思い通りに……ってこれではどこぞの危ない宗教みたいだ。

 悶々と悩んでいるうちに、耳元でふとサキ先生の言葉が聞こえた気がした。

『もっと本心のまま、思うまま、欲望のまま突っ切れ』。

 本なんかの知識ではなく自分の言葉でってことか。自分の思い、感情論、それでいいのか。筋もない。ロジックもない。だが今頭に浮かぶのはこれしかない。これまで最も嫌ってきた、この方法しかない。

 それにこの沈黙の環境にはもう耐えられない。

「僕はな、ずっと一人やった」
 最初にようやく紡いだのがこの言葉だった。マユリの耳がピクッと動いた。

 客観的にこの言葉を聞けば寂しいやつ、悲しいやつだと冷ややかな目をするだろう。しかしマユリはさっきまでのそっけない態度とは打って変わって、足を抱えて座り込んだままではあるものの、顔をあげて真剣な目をして聞いていた。

「小中高大、職場に行ってもずっと一人。友達を作ろうとしたこともあった。でもいつも僕からみんなは離れていった。そしてまた一人になった。そんなわけでずっと一人だ。憐みの目を向けられた。助けようとしてくれる人もいただがそれはお情けや義務感だ。自分がいなくなればみんな楽しそうにやってることもわかった。少なくとも僕にはそう見えた。そうだよ、エイジの言ってたことはすべて本当だ。僕は迷惑者、厄介者なんや」

 マユリは顔色一つ変えず何も言わずに話を聞いている。視線は合わない。だがそれが話しやすかった。

「だから、だから僕は強くなろうと思った。誰にも助けてもらわなくてもやっていけるくらい圧倒的に強くなりたい。何でも自分一人で抱え込んで、がむしゃらにぶつかった。成果はでた。学校の成績はオール5、大学を首席で卒業、経済的に安定した公務員に就職、たくさんの資格も取った。サキ先生もどうせ仕事、義務感で教えてくれてるだけだろう。だから利用、そう利用したんだ。一種の独学用テキストとしてな。失格者になっても僕は何も変わらない。マユリは人を喜ばせるのが好きなんやろ。僕はこの結果でうれしいんや。喜んでいるんや」

 今マユリはうつむいたまま黙々と話を聞いている。

「だからどうしてそんなに悲しそうにするのかわからない。僕はこんなんやから、もう人の気持ちもわからなくなってもうた。一人でやろうと思った時からずっと、人の気持ちなんて考える必要なんてないと思ってここまできた。それに何を言われようと、言いたい奴には言わせておけばいい。誰が何を思っていようと知ったことではない。そう思ってきた。僕も関わらない、害さないから、お前も関わらないでくれ、害さないでくれとしてきた。でも……」

「でも?」

 やっとマユリが口を開いた。何かを期待するようなそんな視線を向けてきた。これは説得なのだろうか。もはや単なる愚痴か独白かもうよくわからない。ただ自分がいかに面倒くさいやつかをひけらかしてるだけではないのか。きもいの一言で片づけられる。

「今は何か違う。違う気持ちがある。でもそれがわからない。自分にはあってはならないものだというのだけはわかる。いつもなら諦めてこんなこと言わないのに、マユリにはなぜか、どんどん口を突いて出てくる」

「それだよ」

「!?」

 急にマユリは声をあげた。真剣そのものだ。さっきまで座り込んでいたが立って自分をじっと見つめてくる。

「タカ君、前にも言ったけど私はタカ君に声をかけたくてかけただけ。義務でもお情けなんかじゃない。私がそうしたいと思ったから。タカ君は難しいことをよく言うよね。でも理屈っぽくて気持ちがない。心がない。頭で話してる感じがする。タカ君は心から喜んでない。本当は……」
「ストップだ」

 抑えて蓋をしていた何かが無理やり開けられて、自分が壊れてしまいそうだ。これ以上は耐えられない。

「いややめないよ」
「頼むからストップしてくれ」

「タカ君は、本当は寂しくて、苦しくて、もがいて、諦めて、ごまかしてるだけ。うれしかったらそんな顔はしないよ」

「……」

 言葉が出ない。違う、そうじゃない、僕は一人が好きで、周りに嫌われて……言わなければならない。自分を守るために。だがマユリは言葉を続ける。

「私はそんなタカ君を心から喜ばせたい、楽しませたいと思った。理由はともあれタカ君の一生懸命なところはすてきだと思った。私はこの一カ月、タカ君といた一か月のほうが最初の二か月よりよっぽど楽しかったんだよ。気を使わないで思いっきりできた。私はバカだけどそんなの気にしなくて自分を出せた」

 ずっと気を遣わせていたと思っていた。単なるマユリのやさしさに甘えているだけだと思っていた。自分といて楽しい?そんなことはあり得ない。だって今まで誰一人僕のところには残らなかった。僕に問題があるから。そして問題である僕を取り除けばみんなが、マユリを含めてすべての人が幸せになるはずだ。そう信じていたのに……

「私は、タカ君と一緒にいたい」

「うそやろ、そんなことあるわけ……」

「もう一度いうね、私はタカ君と一緒になりたい。周りからどんなことを言われようとも、『それでもあなたと友達になりたいとここに誓います。』タカ君は?」

「僕は、……僕は!」

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 その時大きなアラームが鳴り響いた。ここに来たばかりの時に聞いたあのけたたましいアラームだ。

「な、何!?」

 今まで蓋がこじ開けられてあふれそうだった気持ちが、あふれる瞬間で止まった。

「良い感じだったのだがなぁ。ちょっと急がなくてはならなくなった」

「サキ先生!?」

 マユリと声が重なった。

「サウンドを通じてで申し訳ないが、すぐに白の軍の本城の方へ二人で向かってほしい。詳しくはそこで、だ。いいな、すぐに杖をもって来るんだぞ」

 それだけ言ってサウンドの魔法球は消えてしまった。ずっと聞いていたのか。ああ~~~~穴があったら入りたい。自分はなにをいってるんだ。きもい!馬鹿じゃないの?と罵ってほしい。

「タカ君、どうする?」

 おお、マユリのほうが落ち着いている。自分も悶えている場合ではない。

「とりあえず早く行こうか。あの様子だと緊急事態だ」

「私も意地張ってる場合じゃないね」

「ところで、マユリはやっぱり強いな」

「強いなんて自覚なんてないけど~……ってあれ、待ってよタカ君~」

 ほんとにマユリは強い。一緒にいたい!友達になりたい!なんてはっきり誰もが言えるわけではない。
 ましてやボッチの僕に対して、この社会の中でそれを言った。

 ああなんて気持ちいい。自然と笑みがこぼれる。走ってないと落ち着かない。これがほしかった言葉なんだろうか。

 ・・・・・・だとしたらマユリ、心から喜ばせられたな。目標達成したぞ。

 そして・・・・・・
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...