war of the ボッチ~ボッチでもラブコメできますか?~

前田 隆裕

文字の大きさ
上 下
55 / 70
2章

⑪クリスマス(4)

しおりを挟む
 夕食の折、なんとケーキが出てきた。手作りだというが、もう市販でも通用するくらいの出来栄えだ。

「今日はクリスマスイブだからな。マユリも手伝ってくれたぞ」

「サキ先生すごすぎです。何でも料理できちゃうんですね。私なんか料理本見ながらじゃないととてもできないですよ。カメラあったら写真とりたかったです」

「しかもこのチョコレート細工、僕らですか!?よく作りましたね」
 ケーキの真ん中には自分たち三人に模した二頭身キャラのチョコ細工があった。なんかサキ先生のチョコだけ偉そうなのが少し正直すぎて笑えた。

「いや、でもさすがにこれを食べるのは少し気がひけ……」

 見ると女性陣二人は何のためらいもなく自分にもしたチョコをバリバリと食べていた。

 これはこれでワイルドで大変結構だ。これから魔物から守る兵士になるのだからな、それくらいの器量がないとな。うん、でも少し引くな。

「タカ君どしたの?楽しそうな顔してるよ」

「いやなんでもないよ」

「楽しいなら楽しいと素直に言ってよー」

「楽しいよ。面白い観察日記が書けそうだ」

「なんかからかわれてるみたいで釈然としないけど、楽しいならいいや。私もめっちゃ楽しい!」

 もはや日常と化してきたこの夕食はいつものようににぎやかに進んでいった。

 いや、違う。非日常だ。非日常でなければならないのだ。

 給食、弁当、社員食堂、飲み会、いつもいつも一人だった。白い目で見られながら食べていたあの頃が本来の僕の姿だ。小さいころに感じた辛さから身を守るために、そんな白い目の環境を無ととらえてきて久しい。僕は食事の時完璧な自分の世界にこもった。そしてそこで“最高”の食事を楽しんできたのだ。一人こそ幸せ、安息の食事へとつながる。今が異常なのだ。こんなことが日常なあるはずがない。全くどうかしている。

 胸に手を当ててみた。いつものように心労が・・・・・・?
 体すらもう麻痺してしまったのだろうか。重さを感じない。話しながら食事をするというボッチにとって高等芸を強いられているのにそんなはずはない。
 そうだ、きっとサキ先生のケーキがおいしすぎるから、私の心はケーキに奪われて心ここにあらず状態なのだ。つまり実質一人で食べているようなものなのだ。

 きっと、そのはずだ。

 そして皆が食べ終わるころ、サキ先生が突如席を立った。またワインの飲みすぎか?

「さて、君たち二人に大事なお知らせがある」

 サキ先生の顔はいつにもまして楽しそうだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

処理中です...