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2章
⑩カラオケ(1)
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「精神的疲労がたまる・・・・・・」
珍しく今日はサキ先生もマユリも用事で出かけるといって部屋におらず、私は一人になれたことへの開放感に浸っていた。気を使う必要も、会話する必要もない、これぞ私のあるべき姿だ。
サキ先生は授業が終わると今度は私に家事を任せる。先生の料理の腕は私とは比較にならないくらいなのになぜだ。これは新手のパワハラではないか。
そもそも料理はまだしも洗濯まで私にさせるから余計に神経を使う。妹の下着とはわけが違うのだ。なぜ年頃の男が女物の下着を・・・・・・はたから見ればただの変態だ。
そしてサキ先生ははたからニヤニヤしているから余計に腹立たしい。マユリはその度にキャーキャー騒いでいる。勘違いしないでおくれよ、サキ先生にやらされているだけなんやからな・・・・・・。
愚痴と同時に押さえ込んでいた疲労がどっとあふれてきた。早速自主トレに励もうと思ったがどうにも気が乗らない。
ふとサキ先生の本棚を見ると「深層世界~お楽しみガイドブック~」なるものがあった。辞典のような難しそうな本に、こういったカジュアルな本がまぎれていて違和感極まりない。
ストレス解消も勉強の一環だ。今日は邪魔も入らないから一人で思う存分楽しむとしますか。私は頭の中で一日にかかるコストや機会費用、ストレス解消の度合い、お一人様歓迎などなど計算をしながら、ガイドブックをめくっていった。
「レジャーランドは人混みがすごいしチケットが高い、演劇も高い、外食は無駄に高い。手作りで十分だ・・・・・・なんだ行けるところがないじゃないか」
不満げに思いながらも頁をぺらぺらとめくっていく。
「おっ!これはいい、カラオケ2時間無料チケット!これにしよう!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
初めて一人で深層世界の町まで出てきた。ウォーターベッドの扱いにはもう慣れてスムーズに来ることができた。
無料とは最高の響きだ。私はガイドブックについていた無料チケットを握りしめながら足早にカラオケ店に急いだ。
ガイドブックによれば最近できたばかりの店で、サウンドの魔法による最高音質の伴奏で歌えるそうだ。普段ならカラオケ店などこない。なぜ歌を歌うのに何千円も金を払わなければならないのかわからない。私の中ではせいぜい数百円程度の価値しかないと思う。まったく、市場の需要曲線と供給曲線はどうなっているのだ。
だが今日は無料だ!無料で歌を歌い、健康増進ボケ防止になるなら最高だ。機会費用の面から見てもきっといいだろう。
カラオケ店はできたばかりということもあってかとても混雑していて、列をなしていた。ただ相当大きな店舗のためか列の処理速度ははやい。この分だとそんなに待つことはないだろう。
列には前に男友達三人で来ているグループ、後ろにはカップルや女友達で来ているグループが並んでいた。どうやらお一人様は私ぐらいだ。昔は一人カラオケで相当気まずい感覚に襲われたが、今は仏のように心は静まっている。どんな視線を向けられても、どんな言葉をかけられても穏やかな心に満ちている。
おっ、前のグループが受付に入った。もうすぐ順番だ。
「四名様ですか?」
「??・・・・・・あっ、三人です」
ちらっと前のグループが私の方を見た。そしてクスクス笑っている。ああ、なるほど私には何を笑っているのか手に取るようにわかるぞ。友達いないさびしいやつ、とでも思っているんだろう。対して俺らは・・・・・・と優越感に浸っているんだろう。
ああなんと小さい輩だ。むしろこっちが鼻で笑いたいくらいだ。
よし私の順番だな。
「二名様ですか?」
「??・・・・・・いえ、ひと・・・」
「そうです、二名です!さあいこっ」
「マユリ!?なんで!?」
腕をグイッと引っ張られてカラオケの部屋にひきずれられるようにして連れていかれた。
そんな様子を見たさっきの男友達三人組は恨めしそうな目で私を見ている。なんだその目は。初めて見る目だ。何を考えているのかさっぱり読めん。
部屋に着くと、マユリはいきなり顔を近づけてきた。
「なに!?」
「タカ君、どうして言ってくれなかったの?たまたまカラオケの列に一人で並んでいるタカ君がいたから一緒に来れたけど、あのままだったら周りの笑われ者だったよ」
「笑いたい奴には笑わせておけばいい」
「遠目で見てたけど、私にはあんなの耐えられないよ。タカ君は聞こえてなかったかもしれないけど、後ろの列からもタカ君の、その、悪口が・・・・・・」
「言いたい奴には言わせておけばいい」
マユリは唖然としていた。
「なんか、タカ君って改めて思うけど、すごいね?悟りを開いてるような」
「・・・・・・よくわからないけど、そんなことより僕の一人カラオケの時間はどうしてくれるんだー」
「あんな状態でまだ一人カラオケに拘ってるの!?」
「一人自由に歌えてこそのカラオケ!気を使いながら自分の歌を歌って、他人の知らない歌を聞かされて、その間無理やり盛り上げ役をさせられて、なにが楽しい?というわけでマユリ、カラオケがしたいならまた列に並び直すことやな。割り込みはあかんからな」
「うん、そうだね。タカ君がそこまで言うなら、並び直してもいいけどそれだと無料チケット使えなくなるよ?」
「え!?」
チケットをよく見てみると、ペア限定と書かれていた。つまりだれかペアでないとこの無料チケットは使えないのだ。
「もしかしてマユリ、知ってた?」
「うん!」
満面の笑みで返された。
珍しく今日はサキ先生もマユリも用事で出かけるといって部屋におらず、私は一人になれたことへの開放感に浸っていた。気を使う必要も、会話する必要もない、これぞ私のあるべき姿だ。
サキ先生は授業が終わると今度は私に家事を任せる。先生の料理の腕は私とは比較にならないくらいなのになぜだ。これは新手のパワハラではないか。
そもそも料理はまだしも洗濯まで私にさせるから余計に神経を使う。妹の下着とはわけが違うのだ。なぜ年頃の男が女物の下着を・・・・・・はたから見ればただの変態だ。
そしてサキ先生ははたからニヤニヤしているから余計に腹立たしい。マユリはその度にキャーキャー騒いでいる。勘違いしないでおくれよ、サキ先生にやらされているだけなんやからな・・・・・・。
愚痴と同時に押さえ込んでいた疲労がどっとあふれてきた。早速自主トレに励もうと思ったがどうにも気が乗らない。
ふとサキ先生の本棚を見ると「深層世界~お楽しみガイドブック~」なるものがあった。辞典のような難しそうな本に、こういったカジュアルな本がまぎれていて違和感極まりない。
ストレス解消も勉強の一環だ。今日は邪魔も入らないから一人で思う存分楽しむとしますか。私は頭の中で一日にかかるコストや機会費用、ストレス解消の度合い、お一人様歓迎などなど計算をしながら、ガイドブックをめくっていった。
「レジャーランドは人混みがすごいしチケットが高い、演劇も高い、外食は無駄に高い。手作りで十分だ・・・・・・なんだ行けるところがないじゃないか」
不満げに思いながらも頁をぺらぺらとめくっていく。
「おっ!これはいい、カラオケ2時間無料チケット!これにしよう!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
初めて一人で深層世界の町まで出てきた。ウォーターベッドの扱いにはもう慣れてスムーズに来ることができた。
無料とは最高の響きだ。私はガイドブックについていた無料チケットを握りしめながら足早にカラオケ店に急いだ。
ガイドブックによれば最近できたばかりの店で、サウンドの魔法による最高音質の伴奏で歌えるそうだ。普段ならカラオケ店などこない。なぜ歌を歌うのに何千円も金を払わなければならないのかわからない。私の中ではせいぜい数百円程度の価値しかないと思う。まったく、市場の需要曲線と供給曲線はどうなっているのだ。
だが今日は無料だ!無料で歌を歌い、健康増進ボケ防止になるなら最高だ。機会費用の面から見てもきっといいだろう。
カラオケ店はできたばかりということもあってかとても混雑していて、列をなしていた。ただ相当大きな店舗のためか列の処理速度ははやい。この分だとそんなに待つことはないだろう。
列には前に男友達三人で来ているグループ、後ろにはカップルや女友達で来ているグループが並んでいた。どうやらお一人様は私ぐらいだ。昔は一人カラオケで相当気まずい感覚に襲われたが、今は仏のように心は静まっている。どんな視線を向けられても、どんな言葉をかけられても穏やかな心に満ちている。
おっ、前のグループが受付に入った。もうすぐ順番だ。
「四名様ですか?」
「??・・・・・・あっ、三人です」
ちらっと前のグループが私の方を見た。そしてクスクス笑っている。ああ、なるほど私には何を笑っているのか手に取るようにわかるぞ。友達いないさびしいやつ、とでも思っているんだろう。対して俺らは・・・・・・と優越感に浸っているんだろう。
ああなんと小さい輩だ。むしろこっちが鼻で笑いたいくらいだ。
よし私の順番だな。
「二名様ですか?」
「??・・・・・・いえ、ひと・・・」
「そうです、二名です!さあいこっ」
「マユリ!?なんで!?」
腕をグイッと引っ張られてカラオケの部屋にひきずれられるようにして連れていかれた。
そんな様子を見たさっきの男友達三人組は恨めしそうな目で私を見ている。なんだその目は。初めて見る目だ。何を考えているのかさっぱり読めん。
部屋に着くと、マユリはいきなり顔を近づけてきた。
「なに!?」
「タカ君、どうして言ってくれなかったの?たまたまカラオケの列に一人で並んでいるタカ君がいたから一緒に来れたけど、あのままだったら周りの笑われ者だったよ」
「笑いたい奴には笑わせておけばいい」
「遠目で見てたけど、私にはあんなの耐えられないよ。タカ君は聞こえてなかったかもしれないけど、後ろの列からもタカ君の、その、悪口が・・・・・・」
「言いたい奴には言わせておけばいい」
マユリは唖然としていた。
「なんか、タカ君って改めて思うけど、すごいね?悟りを開いてるような」
「・・・・・・よくわからないけど、そんなことより僕の一人カラオケの時間はどうしてくれるんだー」
「あんな状態でまだ一人カラオケに拘ってるの!?」
「一人自由に歌えてこそのカラオケ!気を使いながら自分の歌を歌って、他人の知らない歌を聞かされて、その間無理やり盛り上げ役をさせられて、なにが楽しい?というわけでマユリ、カラオケがしたいならまた列に並び直すことやな。割り込みはあかんからな」
「うん、そうだね。タカ君がそこまで言うなら、並び直してもいいけどそれだと無料チケット使えなくなるよ?」
「え!?」
チケットをよく見てみると、ペア限定と書かれていた。つまりだれかペアでないとこの無料チケットは使えないのだ。
「もしかしてマユリ、知ってた?」
「うん!」
満面の笑みで返された。
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