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2章
⑦奇襲(3)
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マユリのすぐ後ろに万全の構えで炎の球を打ちだしたガーゴイルがいた。あまりにも咄嗟で、マユリの反応が遅れる。
「間に合わなっ」
「アイス!!」
白い球が飛び出し炎の球との相打ちを狙った。熱エネルギーの亜種、ファイヤーと対極の魔法だ。自分を低と置いて、外を高と置きながら唱えることで打つことができる。エイジにやられた、あのいわくつきの魔法だ。二か月、一人で特訓した成果だ。
「っく、押し負けっ・・・・・・。」
「ダメ―――――!!」
とっさに私を押しのけたマユリは私の身代わりになった。
ガーゴイルの炎の球がマユリの胸に当たって弾ける様、そして倒れるマユリ、まるでスローモーション映画を見ている感覚になった。『どさっ』という音とともに我に返る。
「おいっ!?マユリ!しっかりしろ!くそ、目を覚まさない!」
この時、私は受け付けがたい感情の波にのまれた。
始めに沸いたのが「理解不能」だ。なぜマユリは逃げなかった?身代わりになってマユリに何の得がある。損失しかないではないか。こんなやつ見捨てて逃げるのが最善であるはずだ。なぜだ、なぜだ、なぜだ。
次第にその「理解不能」は徐々にしぼんでいった。そして代わりに別の感情がわいてきた。
それは「怒り」だった。
最初はぽつんしたものだった。だがそれが大きくなっていった。なぜ怒りの感情がわく?自分は助かったのだ。一切自分に損害はないのだ。自分さえよければいいと考えて今までずっと過ごしてきたのだ。受験は団体戦、チーム〇組、一人はみんなのために、そんなものはまやかしだ、きれいごとだとずっと思ってきた。すべてを無関係の他人とひとくくりにして、気遣いとか遠慮とかを捨てて、そしてそんな他人がいくら傷つこうがお構いなしだったではないか。
なのに・・・・・・なのにどうして今自分はこんなにも心が痛むのだろうか。
「お前の相手はわた・・・・・・この僕だ!!ファイヤー!!」
ガーゴイルがひるんだ。そしてそれ以上に私も驚いた。いつもはファイヤーの球は両手サイズの小ぶりなものだったのだが、今回のそれは二十倍いや三十倍の規模だった。
「ちょうどいい。これをくらえ」
ガーゴイルはいろいろ抵抗していた。しかし全く気にならなかった。
そして恐ろしいほど冷静、いや冷酷だった。
「消えろ」
断末魔が聞こえた。カタルシスを感じた。スカッとした。最初に感じた気持ち悪さなどなかった。もうすでに相手は骨しか残っていない。にもかかわらず私は魔法を打ち続けた。どうしたんだ。僕は。
「景気づけだ。ファイヤー!ファイヤー!!ファイヤー!!!ファイ・・・・・・んっ」
不意に強烈な疲労感が襲ってきた。そうだこんなことをしている場合ではない。マユリを早く連れて帰らなければ。
「ウォー・・・・・・」
「お前はもう呪文を唱えるな。寝とけ。ケミカル!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
記憶が途切れた。
「間に合わなっ」
「アイス!!」
白い球が飛び出し炎の球との相打ちを狙った。熱エネルギーの亜種、ファイヤーと対極の魔法だ。自分を低と置いて、外を高と置きながら唱えることで打つことができる。エイジにやられた、あのいわくつきの魔法だ。二か月、一人で特訓した成果だ。
「っく、押し負けっ・・・・・・。」
「ダメ―――――!!」
とっさに私を押しのけたマユリは私の身代わりになった。
ガーゴイルの炎の球がマユリの胸に当たって弾ける様、そして倒れるマユリ、まるでスローモーション映画を見ている感覚になった。『どさっ』という音とともに我に返る。
「おいっ!?マユリ!しっかりしろ!くそ、目を覚まさない!」
この時、私は受け付けがたい感情の波にのまれた。
始めに沸いたのが「理解不能」だ。なぜマユリは逃げなかった?身代わりになってマユリに何の得がある。損失しかないではないか。こんなやつ見捨てて逃げるのが最善であるはずだ。なぜだ、なぜだ、なぜだ。
次第にその「理解不能」は徐々にしぼんでいった。そして代わりに別の感情がわいてきた。
それは「怒り」だった。
最初はぽつんしたものだった。だがそれが大きくなっていった。なぜ怒りの感情がわく?自分は助かったのだ。一切自分に損害はないのだ。自分さえよければいいと考えて今までずっと過ごしてきたのだ。受験は団体戦、チーム〇組、一人はみんなのために、そんなものはまやかしだ、きれいごとだとずっと思ってきた。すべてを無関係の他人とひとくくりにして、気遣いとか遠慮とかを捨てて、そしてそんな他人がいくら傷つこうがお構いなしだったではないか。
なのに・・・・・・なのにどうして今自分はこんなにも心が痛むのだろうか。
「お前の相手はわた・・・・・・この僕だ!!ファイヤー!!」
ガーゴイルがひるんだ。そしてそれ以上に私も驚いた。いつもはファイヤーの球は両手サイズの小ぶりなものだったのだが、今回のそれは二十倍いや三十倍の規模だった。
「ちょうどいい。これをくらえ」
ガーゴイルはいろいろ抵抗していた。しかし全く気にならなかった。
そして恐ろしいほど冷静、いや冷酷だった。
「消えろ」
断末魔が聞こえた。カタルシスを感じた。スカッとした。最初に感じた気持ち悪さなどなかった。もうすでに相手は骨しか残っていない。にもかかわらず私は魔法を打ち続けた。どうしたんだ。僕は。
「景気づけだ。ファイヤー!ファイヤー!!ファイヤー!!!ファイ・・・・・・んっ」
不意に強烈な疲労感が襲ってきた。そうだこんなことをしている場合ではない。マユリを早く連れて帰らなければ。
「ウォー・・・・・・」
「お前はもう呪文を唱えるな。寝とけ。ケミカル!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
記憶が途切れた。
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