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2章
⑦奇襲(1)
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「お客様、こちらのお二人大丈夫でしょうか?」
「すみません。何とか連れて帰りますので。」
酔っ払った私を見たいとかで、サキ先生とマユリは私にどんどんお酒を勧めてきた。そして彼女らも私のペースに合わせてお酒を飲んで、とうとう私が酔う前に酔いつぶれてしまった。
「お会計は事前に済んでおりますので、ごゆっくりしていってください」
そういうと店員さんは他のお客の対応へ向かった。慣れた感じた。こんな酔いつぶれる客がよくいるのだろうか。まったく、そんなに飲んで早死にしたいのか。
「ほら、マユリ、はよ帰ろ」
「うふふ、気持ちいーい。おんぶ!!」
「おんぶって。マユリいくつだと思ってんのや。先生も、明日から特別授業なんですから早く帰りましょう。そんなに酔っぱらって大丈夫ですか」
「タカヒロ。私は事務官長だぞ!酔っ払うはずがない!ほらこの通り歩ける。私は自分で帰れるぞぉ!」
「足取りがふらついてるし、しかも酔っ払うのは事務官長だろうがなかろうが関係ないですし」
「よし命令だ。マユリを研修所まで連れて帰れ!タカヒロ。今からウォーターベットの操作演習だぁ。私はここで寝てる!」
そういうと「くかーくかー」といびきをかきながらサキ先生は寝てしまった。呼びかけてもゆすっても起きそうにない。まあいいや。一人で帰られるっていったんだからほっておくか。それにもしかしたら運よく明日は自習になるかもしれないしな。
「にしても鬼ごっこの時といい、なんでも研修に持ち込むな。研修の名のもとに使い走りにされてるような気がするけど、まあ後が怖そうだし。ほらマユリ、ウォーターベッドで帰るよ」
「ベッド?エッチだなぁ、タカ君は」
「ベッドでそういう発想をする方がエッチや」
「うふふ、楽しいぃ」
「何が?って聞きたいけど酔っ払いに何を言っても無駄やな」
相変わらず「くかーくかー」言っているサキ先生は店の中において、二人はまた外に出た。受付の横の扉から出るとき、クローゼットの中から出てきた感じで変な気分だ。
止めてあったウォーターベッドをウィンド、ウォーターで呼び出し、乗り込んだ。
「酔っ払いを乗せるのは一苦労だな。ウォーターで乗せたいけど、こういう時に限ってスカートという間の悪さ。魔法は使えないし、引っ張り上げられないし」
「私は重くないよ~」
「僕には重いの。男子が全員力持ちとは限らない。乗せられないなんてことはないからなー。えーと説明書説明書」
「ぽちっとな!」
「な!?」
マユリがウォーターベットの側面に描かれている花の紋章を押した。ブイーンと音がしている。
「お願いだから、変なことにはならないでくれよ。」
「だーいじょうぶ、ダイジョーブ。」
「その自信はどこから!?」
おまけにぶるぶると振動もし始めた。こういうイレギュラーなことが一番恐ろしい。
「ガチャン!」
「ひえっ!」
側面からウォーターの球が段々になって出てきた。なるほどこれを上って乗れってことか。ひやひやして損した。
「タカくーん。さっきの『ひえっ!』ってまたやってー。」
「二度とやるもんか!」
恥ずかしいったらありゃしない。完璧主義な私には相当な失態であり、その上ボッチにはこのような「からかわれる種」をばらまく、なんてことは万死に値する。まだ見ていたのがマユリでよかった。
あれ、なんで「よかった」なんて思ったのだろうか?
ひと悶着の後、帰りも行きと同じように静かな時間をウォーターベットで過ごした。にぎやかだった「ディナーズカフェ」からの帰りということもあってか、その反動で静けさが一層際立って感じる。
行きの時の興奮はいくらか落ち着き、いつの間にかオートモードが解除されたウォーターベットを自由自在に操って操縦を楽しんだ。お酒のせいか外の寒さも感じないほど体がポカポカしていて、むしろ夜風が心地よい。
月も星も相変わらず、まるでプラネタリウムのように曇りなく美しく瞬いている。
ずっと居住棟と地下六階を往復していただけだったので、この世界の事などすっかり忘れていたが、よく考えれば今自分がいるのは完全な別世界である。最初の演説では「深層世界」なんて言っていたが、二か月も過ごしてVRなどではないことは体感済みだ。今までの二か月をすべてデータで表現しきるなど、現代の技術ではとても無理だ。ラノベによく出てくる「転生」「召喚」ということもないだろう。
私は死んでもいないし、この世界の主人公でもない。
そんなことを考えている私をよそに、マユリは後ろですうすうと寝息を立てながら気持ちよさそうに寝ている。加えて私の左手をぎゅっと握って離さない。操縦しにくくてかなわない。
「えらい安心しきった顔して。一応戦乱の世なんやけどなぁ」
もしかしたらこんなに気を張っているのは自分だけなのだろうか。人とのつながりを持つものはこんな幸せそうな顔で毎日眠ることができるのか。
いや考えるだけ無駄だ。そう言ったものを捨てて、諦めて、逃げて、今の自分がいる。寄り道などするべきではない。初志貫徹。徹頭徹尾・・・・・・ん?
遠くに黒い何かが空を飛んでいる。近眼なので見間違いか、と目をこすって凝視してみるとそこにはなにもいない。
「確か飛蚊症だとかいったかな。とうとう近眼に加えて目の病気にでもなったか」
まるで不安を病気にすり替えるように口に出してみた。夜、見知らぬ戦乱の世界、未熟者一人、あと使い物にならない酔っ払い一人・・・・・・
「すみません。何とか連れて帰りますので。」
酔っ払った私を見たいとかで、サキ先生とマユリは私にどんどんお酒を勧めてきた。そして彼女らも私のペースに合わせてお酒を飲んで、とうとう私が酔う前に酔いつぶれてしまった。
「お会計は事前に済んでおりますので、ごゆっくりしていってください」
そういうと店員さんは他のお客の対応へ向かった。慣れた感じた。こんな酔いつぶれる客がよくいるのだろうか。まったく、そんなに飲んで早死にしたいのか。
「ほら、マユリ、はよ帰ろ」
「うふふ、気持ちいーい。おんぶ!!」
「おんぶって。マユリいくつだと思ってんのや。先生も、明日から特別授業なんですから早く帰りましょう。そんなに酔っぱらって大丈夫ですか」
「タカヒロ。私は事務官長だぞ!酔っ払うはずがない!ほらこの通り歩ける。私は自分で帰れるぞぉ!」
「足取りがふらついてるし、しかも酔っ払うのは事務官長だろうがなかろうが関係ないですし」
「よし命令だ。マユリを研修所まで連れて帰れ!タカヒロ。今からウォーターベットの操作演習だぁ。私はここで寝てる!」
そういうと「くかーくかー」といびきをかきながらサキ先生は寝てしまった。呼びかけてもゆすっても起きそうにない。まあいいや。一人で帰られるっていったんだからほっておくか。それにもしかしたら運よく明日は自習になるかもしれないしな。
「にしても鬼ごっこの時といい、なんでも研修に持ち込むな。研修の名のもとに使い走りにされてるような気がするけど、まあ後が怖そうだし。ほらマユリ、ウォーターベッドで帰るよ」
「ベッド?エッチだなぁ、タカ君は」
「ベッドでそういう発想をする方がエッチや」
「うふふ、楽しいぃ」
「何が?って聞きたいけど酔っ払いに何を言っても無駄やな」
相変わらず「くかーくかー」言っているサキ先生は店の中において、二人はまた外に出た。受付の横の扉から出るとき、クローゼットの中から出てきた感じで変な気分だ。
止めてあったウォーターベッドをウィンド、ウォーターで呼び出し、乗り込んだ。
「酔っ払いを乗せるのは一苦労だな。ウォーターで乗せたいけど、こういう時に限ってスカートという間の悪さ。魔法は使えないし、引っ張り上げられないし」
「私は重くないよ~」
「僕には重いの。男子が全員力持ちとは限らない。乗せられないなんてことはないからなー。えーと説明書説明書」
「ぽちっとな!」
「な!?」
マユリがウォーターベットの側面に描かれている花の紋章を押した。ブイーンと音がしている。
「お願いだから、変なことにはならないでくれよ。」
「だーいじょうぶ、ダイジョーブ。」
「その自信はどこから!?」
おまけにぶるぶると振動もし始めた。こういうイレギュラーなことが一番恐ろしい。
「ガチャン!」
「ひえっ!」
側面からウォーターの球が段々になって出てきた。なるほどこれを上って乗れってことか。ひやひやして損した。
「タカくーん。さっきの『ひえっ!』ってまたやってー。」
「二度とやるもんか!」
恥ずかしいったらありゃしない。完璧主義な私には相当な失態であり、その上ボッチにはこのような「からかわれる種」をばらまく、なんてことは万死に値する。まだ見ていたのがマユリでよかった。
あれ、なんで「よかった」なんて思ったのだろうか?
ひと悶着の後、帰りも行きと同じように静かな時間をウォーターベットで過ごした。にぎやかだった「ディナーズカフェ」からの帰りということもあってか、その反動で静けさが一層際立って感じる。
行きの時の興奮はいくらか落ち着き、いつの間にかオートモードが解除されたウォーターベットを自由自在に操って操縦を楽しんだ。お酒のせいか外の寒さも感じないほど体がポカポカしていて、むしろ夜風が心地よい。
月も星も相変わらず、まるでプラネタリウムのように曇りなく美しく瞬いている。
ずっと居住棟と地下六階を往復していただけだったので、この世界の事などすっかり忘れていたが、よく考えれば今自分がいるのは完全な別世界である。最初の演説では「深層世界」なんて言っていたが、二か月も過ごしてVRなどではないことは体感済みだ。今までの二か月をすべてデータで表現しきるなど、現代の技術ではとても無理だ。ラノベによく出てくる「転生」「召喚」ということもないだろう。
私は死んでもいないし、この世界の主人公でもない。
そんなことを考えている私をよそに、マユリは後ろですうすうと寝息を立てながら気持ちよさそうに寝ている。加えて私の左手をぎゅっと握って離さない。操縦しにくくてかなわない。
「えらい安心しきった顔して。一応戦乱の世なんやけどなぁ」
もしかしたらこんなに気を張っているのは自分だけなのだろうか。人とのつながりを持つものはこんな幸せそうな顔で毎日眠ることができるのか。
いや考えるだけ無駄だ。そう言ったものを捨てて、諦めて、逃げて、今の自分がいる。寄り道などするべきではない。初志貫徹。徹頭徹尾・・・・・・ん?
遠くに黒い何かが空を飛んでいる。近眼なので見間違いか、と目をこすって凝視してみるとそこにはなにもいない。
「確か飛蚊症だとかいったかな。とうとう近眼に加えて目の病気にでもなったか」
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